164話 最終決戦の幕開け
「終わったよ」
美咲さんがスマホをポケットにしまいこちらに戻ってくる。
「えっと……何かあった?」
一目で先程と表情が違うことに気がつく。別に顔色が悪くなったとかそういうことではない。寧ろ顔色なら良くなっている。
「別に……何でもないさ。ただ話せて少しはスッキリしたよ。父さんも踏ん切りがついたって言ってた」
今まで美咲さんは自分の父親について述べる時いつも苛立っていた。なのに今はそんな色は見られず寧ろ機嫌が良い。
「なぁ何かあいつ気持ち悪くない? いつもと態度違うぞ?」
本能で違和感を察知したのか、キュリアは引き気味に頬を引き攣らせる。
「なんだいその口振りは? 全く……ともかく遊生の居場所は分かった。時間が惜しいし話ながら向かおう」
「今のボク達でなんとかなるの?」
ボクとキュリアの傷は完全に塞がっている。しかし今の戦力で即興で立てた作戦で奴らに勝てるとは思えない。
それに先程風斗さんから聞かされた椎葉さんの体が乗っ取られてしまう件。それの解決策も考えないといけない。
「策は……あるさ。なんとかできる見込みは十分にある」
「策……? それってどんな?」
「それは言えない。言って遊生に悟られたら全てが失敗に終わる。だから無理を承知で頼むが、私を信じ……」
「うん信じるよ!」
ボクの食い気味の言葉に呆気に取られる美咲さん。
しかしすぐに納得したような顔色になり他の三人に返答を求める。
「わたくしは生人さんがあなたを信じるなら信用します」
「オレは別に戦えればそれでいいからな〜」
二人は特に反論なく二つ返事で了承する。
「真太郎君はどうかな?」
「オレも構わない……ただこれだけは約束してくれ。愛と田所先輩は助けてくれ。これだけは譲れない」
風斗さんは条件付きで信用することを申し出る。
これに関してはボクも全面的に賛成だ。ティオを止めるのはもちろん、あの二人を助けることも重要なことだ。
悪に染まった田所さんを正気に戻し、椎葉さんの爆弾をどうにかする。これが絶対条件だ。
「それを含めて作戦は立ててある。君達はとりあえずただ制圧するためだけに戦ってくれ。
私は順次計画を進行させて二人を助けてみせるさ」
非常に頼もしい宣言と共に風斗さんへ手を差し出し握手を求める。彼はそれを快く受け取る。
歪み合っていた者同士が分かりあえた。そのことの証明が今のボク達に一筋の希望を与えてくれる。
「じゃあ行こうか……遊生を倒して、田所君も愛君も助ける。完璧に勝ってやろう!」
活き活きとした表情でボク達を鼓舞する。そして智成さんから送られてきた情報を元にティオ達のいるアジトまで向かう。
山を越え川を越えて、山間部にある廃墟まで数時間歩く。
「ここまで来たら向こうも気づいているだろう。念の為もう変身しておこう」
[open……キュリシティ レベル35]
「そうだね……何が起こるか分からないし」
[ラスティー レベル30 ready…… アーマーカード ドラゴンホッパー レベル49 start up……]
[エンジェル レベル1 ready…… アーマーカード ヴァルキリー レベル50 start up……]
[フェンサー レベル1 ready…… アーマーカード ホーリーナイト レベル20 start up……]
[combine…… グラウンドファイター レベル50]
各々の鎧を纏い決戦への、世界を救うための戦いの幕が開く準備ができた。
後は勝つだけだ。二人を救ってティオを倒して、そうすれば全てが綺麗に収まる。もうこれ以上サタンに苦しめられる人もいなくなる。
「みんな……行こう!!」
ボクを先頭に暗い山道を突き進む。やがて教えられた場所に辿り着き腐敗臭が漂ってくる。
「なっ……塔子!?」
峰山さんがその巨体を動かして室内で倒れている塔子の死体まで向かう。
どこからどう見ても生命活動を終えている。致死量の血を流し蝿が集っている。顔は傷ついていないので分かるが偽物という線はないだろう。
「仲間割れ……もしくは用済み……いや、遊生の性格を考えれば面白半分で殺したのかもしれないな」
その死体を廃材の柱で転がし、死体の下に地雷などがないか確かめる。
特に仕掛けなどもなく本当に死体を放置してあるだけのようだ。
「ん? どこかに時計でもあるのかな……?」
寄生虫の力を発揮して神経を鋭くさせていたから感じ取れる。どこかで時計の秒針のような音が聞こえてくる。
「置き時計……いや、遊生辺りが潜んでいる可能性もありますね。周りを警戒しましょう……」
みんな塔子の死体に背を向けこの廃墟の死角などに神経を向ける。
だからこそボクだけしか気づけなかった。死体の服がほんの少しズレてお腹がちょっと露出していることに。
そこに縫合した跡が見られることに。
そこから時計の音がしていることに。
「みんな逃げて!!」
疾風を出す暇もなく塔子の死体が爆発する。その威力は凄まじくボク達全員を巻き込むほどだ。
咄嗟に風斗さんと美咲さんを蹴飛ばして、峰山さんの盾になるがそれが精一杯だった。自分を守る余裕などない。
この建物全てを爆炎が包み込み、ボク達は甚大な被害を被るのであった。