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162話 丸バツゲーム


「クソ……クソォ!! あいつら私の隠れ家ぉぉ!! 研究成果をぉぉお!!」


 荒らされた隠れ家の前でボク達五人は途方に暮れていた。

 装置が奪われてももう一度作ればいいという結論になったが、美咲さんによるとそれに必要な物質や設計図ごと燃やされてしまったらしい。


 もうあの装置を手に入れる手段がない。仮に一から作ろうとしてもそれまでかかる時間の間にティオは何かしらアクションを起こすだろう。

 状況はより悪い方へと進み続けている。


「はいキュリア。とりあえず飲み物でも飲んで」


 ボクは辛うじて無事だった冷蔵庫の中から温くなった缶ジュースをキュリアに手渡す。


「おうサンキューな」


 ここまでの数時間でキュリアとはある程度話して大体の性格は掴めた。

 思ったよりフランクで接しやすい性格で、ボクと趣味や性格も合うのでこの短時間でもそこそこ仲良くなれた。


「美味しいなこれ!」

「やっぱりそうだよね。もしかしてボクの生体サンプルから作られてるから味覚とかも似てるのかな?」


 半年前に美咲さんが吐き捨てた言葉から推定するに、恐らく彼はボクの遺伝子から作られた人工寄生虫といったところで、所々に見られる幼い行動や言動も最近生み出されたことによるものだろう。


「かもな〜まぁでもオレがどうやって生まれたかはあんまり興味はないな。今を楽しく生きていければオレはいいし」

「そうなんだ……あっ、ところであのお婆さんとはどういう関係なの?」


 キュリアを匿っていた? と思われるあのお婆さん。特に怪我はなく今はDOが用意した病院にいる。


「半年前にお前にボコボコにされて山から転げ落ちただろ? あの後ボロボロになりながら歩いてたら婆ちゃんに拾われたんだよ。

 死んだ息子の若い頃にそっくりで放っておけなかったって言ってた」


 どこに逃げたか今まで会議を何度も開いていたがそんな簡単なことだったとは。

 寄生虫特有の虫になる能力を用いて小型して外出などしていて見つけられなかったのだろう。


「初めてあったのに優しくしてくれて、毎日美味しいご飯を作ってくれて。だから婆ちゃんには感謝してるし傷ついて欲しくない。

 だからあそこで戦いたくなかったのに……今度遊生を見つけたら絶対に殺してやる」


 半年前までだったら絶対に言わなかっであろう言動。彼もまたボク同様に変わり続けて生きている。

 今は前までの無垢で善にも悪にも染まりうる状態ではなく、人のことを想いやれる存在になれたのだろう。


「生人さんとキュリアさんもサボってないで何か残ってないか探すのを手伝ってください」


 ジュースを飲み干したあたりで峰山さんに軽く注意されボク達も三人の手伝いをする。

 しかし重要そうな資料はどれもこれも燃えカスになっており、美咲さんが求めていたものは全てなくなってしまっていた。


「ふざけるなぁぁぁぁ!! 私の研究を奪い燃やしやがってぇぇ……あのクソったれがぁぁぁ!!」


 先程から美咲さんは体面など気にせず怒りを爆発させ廃材に当たり散らしている。

 もう見つかる物もなくボク達の気分は時間と共に暮れていく。


「それで俺達はこれからどうするんだ? 遊生達の居場所は分からず、生人の力も半減して更に隠れ家や資料も燃やされた。状況は最悪だ」

「いやまだだ……まだ手は……ん? スマホ?」


 困り果てた末に何も解決案が浮かばなかったが、それを打開するべき一報が来る。


「智成……!?」


 美咲さんが上げた驚きの声は彼女の父親、智成さんの名を述べる。

 

「貸せ」


 風斗さんが通話ボタンに指が伸びる前に彼女からスマホを取り上げる。


「なっ……何を!?」

「お前じゃすぐ口論になるだけだろ。一回こっちで話して後で必要あればお前に渡す」


 美咲さんから一旦距離を取って会話を聞かれないようにし、ボク達四人は手持ち無沙汰になる。

 

「なぁ生人今から丸バツゲームっていうのやろうぜ? この前婆ちゃん家の雑誌で知ったんだけど、婆ちゃん相手じゃ毎回勝っちゃうから飽きてたんだよ。

 でもお前となら良い勝負できそうだしやろうぜ」

「おっ、いいよ。もちろんボクも負ける気はないけどね」


 キュリアはそこら辺にあった木の枝を拾い上げてそこに3×3に分けた正方形を書く。

 そして早速ボク達は丸バツゲームを始める。


「二人とも緊張感ないですね……この状況でよくゲームなんかできますね」

「どういうこと? ここでオレ達がゲームしちゃいけない理由なんてあるの?」


 ボクはまぁ確かになと思えたが、キュリアは全く違うようで言葉の意味を一切理解していないようだ。


「まぁ……でもリフレッシュには丁度いいでしょ! ずっと張り詰めてても滅入っちゃうだけだし!」

「そうかもしれませんが……」


 こうして風斗さんが智成さんと電話している間ボク達は丸バツゲームをするのだった。

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