152話 変身
誰も見てないところで寄生虫の姿となり、数センチサイズにまで縮めて上空を浮遊する。
このサイズと距離なら地上にいる人達はボクの存在に気がつかないだろう。
「生人さん……?」
いや一人だけボクの存在に気づく人物がいる。
上空を飛んでいた峰山さんに発見され彼女はその場で翼を羽撃かせて対空する。
「うんボクだよ。ちょっと色々あって……状況はどう?」
「特に問題なくサタンは殲滅することができました。しかし街中に大量に出没したせいで犠牲者が……」
ボクの方でも何人か殺されてしまった人達を見ている。
「わたくしと風斗さんはとりあえずDOに戻って今どういう状況なのか調べてきます。なので生人さんは一旦美咲さんのところまで戻ってもらえますか?」
「うん……」
表立っての処理や対処は二人に任せ、ボクはこのまま美咲さんの隠れ家まで飛んで戻る。
「生人君……大丈夫だったかい?」
「ありがとう……とりあえずは大丈夫だよ」
隠れ家に入ってすぐ美咲さんから心配の言葉を投げかけられる。
罵詈雑言ばかりを言い続けられ荒んだ心になっていたため彼女の優しさが沁みる。
「美咲さんは何か分かった?」
「とりあえず塔子とキュリア君の件は君が知っている限りは情報を得ている。
だが私が監視カメラをハッキングしていることを想定してるのか映らないルートで逃げた。キュリア君も途中で虫化して逃げたから行方が分からない。
今は打つ手がない。とりあえず寧々君と風斗君から連絡が来るまで傷を癒してくれ。私はやることがあるから構わずベットを使ってくれ」
美咲さんはまたパソコンに向かい、USBメモリを挿した状態で真剣な眼差しを向けながら手を動かす。
「ねぇ美咲さん……ちょっと相談してもいいかな?」
「別に構わないよ。時間はあるわけではないが、君も何かを溜め込んじゃままじゃ今後に支障がでるからね。手を動かしながらでもいいなら」
「ありがとう……それでボクさっきの戦いで少し考えちゃったんだ。この前美咲さんが言ったみたいに、やっぱりボクはヒーローなんかじゃないって」
カタカタという音がピタリと鳴り止む。エンターキーを一回押してから椅子を回転させてこちらに目を合わせる。
「周りの人の意見を気にするな。確かにあの時私は作戦として君にあのようなことを言った。
だがしかし本心から言えば君のヒーローを志すその精神は大変立派だと思うよ。だから……」
「ボクは周りから責め立てられた時……戦っているのに何で感謝されないんだって……見返りを求めちゃったんだ」
ベッドのより奥深くに座り、壁にもたれかかり頭を抱える。
「ボクは見返りなんて求めていない。みんなのために戦っている。
そんな風に思っていたのに心の奥底では結局は見返りが欲しいって思ってたんだ……」
「私は君に出会う前はもっとクズだった……まぁ今はまともかと言われれば間違いなくNOだがね」
美咲さんは椅子に更に深く座り込み、頭の後ろに手を回しながら緩く語り出す。
「君と出会えたから愛というものを少しは思い出せたし、昔なら犠牲なんて一切考えずにという考えだったが、今では極小に抑えるよう尽力するようになった」
確かに災厄の日こそ擁護できない最低なことだったが、それ以降彼女が積極的に人を殺すことは格段に減っている。
それに利益だけを求めるなら緊急用のワープシステムを作ったりする必要もなかったはずだ。
それは彼女の心にほんの少しの良心が生まれたからだろう。
「まぁ要するに、変わればいいんだよ。今の自分が嫌なら変わっていけばいい。実際私は今の自分の方が、君と一緒にいる日々の方が好きかな」
「変わる……」
ボクはかつて破壊の限りを尽くさんとする、それこそティオ並みの悪党だった。
だが不慮の事故で寄元生人へと"変わった"。それからはヒーローという空想を元に生きていき、美咲さんとの一悶着で今のボクに成れたのだ。
「そうかもしれないね……気が楽になったよありがとう!」
「どういたしまして。私は作業に戻るから、用があればまた起こすよ」