151話 悪魔への制裁
混迷する意識の中、ボクの体にか弱い刺激が断続的に与えられる。
「あっ、死体が起きた」
目を覚まし起き上がった途端知らない女の子にまぁまぁ不謹慎なことを言われる。
世間をまだ知らなそうなほど幼いその子はこちらを物珍しそうに、お宝でも見つけたようなキラキラした瞳で見つめている。
「死体じゃないよ……それよりここは?」
薄汚れた壁に、上を見上げれば橋が架かっている。すぐ側には川が流れておりボクはあの後流されてここに辿り着いたのだろう。
「川だよ! お兄さん流れてきたから拾ったの! 桃太郎みたいだね! お兄さんはどこから来たの?」
「えっと……ちょっと足を滑らせて川に落ちちゃって」
自己紹介しそうになるものの、もしかしたらこの子もボクの名前を知っているかもしれない。無意味に怖がらせるわけにもいかないのでいい感じに誤魔化す。
「なんだ桃太郎じゃないのか。でもお兄さん面白そうだから秘密基地に案内してあげる」
「秘密基地?」
「うん! すぐそこだよ。連れてってあげる」
ボクはその子に手を引っ張られ近くの草むらで囲まれた場所まで案内される。
レジャーシートが敷かれたそこにはぬいぐるみやおもちゃが入った箱などが置かれており、そこを見せつけ彼女は自慢げに胸を張る。
「じゃーん! すごいでしょ!」
「うん……じゃあお兄さんもまた遊びにくるよ。それじゃ」
冷たいかもしれないが、今はいち早く美咲さん達と合流しないといけない。
だけど女の子が目に涙を浮かべ悲しげな表情をするものだからボクの中に罪悪感が生まれ立ち去ることに抵抗感が生まれてしまう。
「じゃあお兄さんが用事を済ませてきたら、またここに戻ってくるから。明日になるか明後日になるか分からないけど、それでも戻ってくるからまたここで会おうね」
「うん……じゃあ良い子で待ってるからお兄さんは帰ってきてね?」
「もちろん! じゃあ行ってくるね」
女の子も納得してくれたようで、ボクは河川敷から駆け上がって道路に飛び出る。
「美咲さん? 今どういう状況?」
物陰に入ってすぐにスマホから美咲さんへ電話をかける。スマホを防水にしてくれた人には頭が上がらない。
「よかった。無事だったんだね。大体の状況は把握しているよ。
今真太郎君と寧々君は表立ってサタンの対処をしてくれている。塔子はキュリアと交戦した後に彼を逃してしまって不貞腐れた様子でどこかへ消えた」
塔子はいなくなって残ったのはサタンだけってことか。それならどうにかなるだろうしここに住む人達も安心……
どうしてだろうか。みんなの安全が確保されたというのにあまり納得というか達成感を感じられない。
「おいあそこにいるのってラスティーじゃないのか!?」
「本当だ! おいみんな! ここに今回の事件の首謀者がいるぞ! 捕まえろ!」
男の人の叫び声を皮切りに辺りにいた人達が集まってきてボクのことを取り押さえようとしてくる。
「待って! ボクは今からサタンを倒しにいかないと……」
男性数人に乱暴に掴まれ地面に組み伏せられるが、無理やり引き剥がすわけにもいかないのでなんとか説得を試みる。
「うるせぇ!! お前があのサタンを呼び出したくせになに訳の分からないこと言ってんだ!!」
「そうよ!! 絶対許さない……どうしてあたしの子供が殺されないといけなかったのよ!? あの子を返してよ!!」
女性が泣き顔で怒りボクの顔を踏みつける。その際に彼女のヒールの足がボクの眼球に突き刺さる。
「あがっ……うぐぅぅ」
今にもボクの上に乗っかっている男性を跳ね飛ばしたかったが、その気持ちを抑え込み必死に言葉による理解を求める。
「おいこいつ……目が治っていってるぞ!?」
「あっしまっ……」
意識していなかったせいで無意識に傷ついて失明した瞳を再生させてしまう。
それにより疑念が少しは混じっていたボクへの視線がより確信めいたものとなる。
「やっぱりこいつ化け物だ! 弱らせて警察に連れてくぞ!」
それからボクへの当たりはさらに酷くなり、本来ボクが助けるべき対象であった人達に暴行を加えられる。
骨がところどころ折られても彼らは止まらない。彼らの正義は止まるところを知らない。
「くっ……!!」
ボクはもう話したところで何もできないと察し苦渋の決断をする。寄生虫の力を引き出してなるべく弱い力で組み伏せてくる男性らを跳ね飛ばす。
そして折られた骨を再生しながら建物やその屋上を伝って立体的に逃走を行うのだった。