143話 グッドバイ
「父さん……何でここに?」
「何でって……風斗から話を聞いて居ても立っても居られなくなってな。大丈夫か生人? またこいつに何か吹き込まれたのか?
気をつけろ。そいつはお前の心を壊そうとしている」
昔ボクに愛情を注いでくれて、今もそれは消えていない美咲さん。今も手を伸ばしボクのことを心配してくれる父さん。
「生人君騙されるな……怪しいと思わないのか!? あんな立場に居ながら私の正体を気づかなかったことを!!
あの時こいつは私の正体を知っていて黙っていたんだ!!」
美咲さんは椅子から立ち上がりポケットに手を入れる。すぐに動けるよう臨戦体勢を取る。
「きっと何かの勘違いだよ! そんなわけない……ねぇ父さんそうでしょ!?」
「そうだ……お父さんを……信じてくれ」
父さんは涙を流し、ボクの頭を撫でてくれたその大きな片手で口元を覆い隠す。
「やっぱり何かの間違いだよ。父さんがそんなことするわけ……」
「ブッッ!!」
父さんの口元から何かを吹き出すような、まるで笑いを堪えることに限界を迎えて吹き出したときのような音がする。
「父さん?」
「クッ……あっはっはっ!! いや〜オレのこと信じすぎだなとは思ってたが、ここまでとはな。これはオレ宝塚の誰かに寄生したら結構良い線いけたんじゃないのか?」
こちらを小馬鹿にするように一頻り笑った後理解が及ばない、いや理解がしたくない内容をペラペラと述べる。
「やぁーっと辿り着いたか。結構ヒント与えたつもりだったんだけどお前ら全然気が付かないからビックリだよ。
人間の信じる力やキズナってやつ? あれは凄いが時には足枷にもなるな」
壁を何度もダンダンと叩き笑いを体を使って表現する。
見知った人物の豹変っぷりに脳が混乱し何も喋れない。疑問をぶつけることすらできない。
「長い長い第一ラウンドだったよ。じゃあそろそろ移ろうか……」
父さんはどこからかスマホ程のサイズの長方形の装置を取り出す。禍々しい目と牙がついたデザインで、それを右手首に装着する。
「第二ラウンドになぁ!!」
[parasite……stage first]
装置の目が赤黒く光り、口から煙が噴出されてそれが遊生に纏わりつく。皮膚がブクブクと膨れ上がり赤と黒で催された邪悪な鎧へと変形する。
「くっ……逃げるぞ生人君!!」
美咲さんのポケットからカチッという音がすれば、ボクと彼女は光に包まれ廃墟の前までワープする。
「あいつの強さは未知数だ。今戦うのは得策じゃない。逃げるぞ!!」
「父さん……どうして……?」
「考えるのは後だ!! 早く逃げ……」
廃墟からものすごいスピードで何かが迫ってくる。速すぎてそれは赤黒い帯のように見える。
それがボク達の体に強い衝撃を与えて吹き飛ばす。
「ワープで逃げるなんて卑怯な真似するなぁ。それでもヒーローか?」
この暗がりの中。不気味に体を薄赤に発光させる。
[open キュリシティ レベル35]
逃げれないことを悟ったのか、美咲さんは変身して遊生に殴りかかる。だがその一撃は容易く受け止められ捻られる。
手首がありえない方向へと曲がっていき、静かな空間に骨が折れる異質な音が鳴り響く。
「んぐっ……!!」
[ラスティー レベル30 ready…… アーマーカード ドラゴンホッパー レベル49 start up……]
このまま美咲さんを殺させるわけにはいかない。ボクは覚悟を決めて遊生の顔面を狙って殴り飛ばす。
彼は掴んでいた手を離し少しふらつく。
「痛いじゃないか。反抗期か?」
言葉の割には全く痛そうではなくすぐに体勢を立て直す。
[必殺 ユニバースクリエイト]
赤黒い帯が捉えることがやっとなほど素早く急接近し、ボクのお腹に足を触れさせる。
それ自体に威力はないが、ボクと彼の足のほんのちょっとの隙間に綺麗な黒色の球体が出現する。
「ゴフッ!!」
その球体の中からは強力な引力と斥力が発生し、お腹周りから全身にかけて相反する力でズタズタにされていく。
「グッドバァーイ!!」
その球体を蹴りボクのお腹に押し込む。指数関数的に威力が強まり、使おうとしていたカードは地面に落ち何も抵抗できなくなる。
「生人君!!」
[スキルカード 無敵!! 疾風]
美咲さんが落ちてしまったカードを拾い、二枚のスキルカードを使用する。全身が光り輝き、それに加えて疾風の速度を得る。
その速さでボクのことを掴み上げて走り抜ける。そのおかげで球体から解放される。
しかし腹の部分の鎧が完璧に剥がれており骨も剥き出しになっている。人間だったら致命傷だっただろう。
「どけっ!!」
美咲さんは無敵の体を利用して遊生にタックルをかまして無理やり退かす。
そのまま突っ走り背を見せながらも逃げ始める。
「まぁ今回はここまでにしとくか……挨拶のつもりだったしな。生人……いや、デウス!! また遊べるの楽しみにしてるぜ!」
遊生は……いや、ティオーニスはボク達のことを諦めて闇夜に消えていく。
ボクは美咲さんに抱えられてこの夜の街を、衝撃と悔しさと共に駆け抜けるのだった。