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140話 運命と戦うということ


「生人!? しばらく通信が繋がらなかったが何かあったのか!?」


 美咲さんの秘密のラボを出た途端ランストの通話機能が起動して父さんが連絡をかけてくる。

 恐らく美咲さんのラボは電波妨害の装置でも使っていたのだろう。


「すみません指揮官。ちょっとさっきの戦闘で色々あって、一旦引いてからランストを治してたの!」


 椎葉さんが真っ先に嘘を織り交ぜた報告をする。父さんはそれを疑わず納得してくれたおかげで事は複雑にならずに済む。


 ごめんなさい父さん……この件が終わったら全部話すから。それまでは……


「とりあえず今の状況を伝えるぞ。サタンが動き出して今近くの廃墟街の方で暴れている。すぐに向かってくれ!」


 ボク達は父さんからの指示を受け言われた場所まで全速力で向かう。

 着いたのは廃墟街のど真ん中。見通しが悪く昼だというのに人気がないせいかどこか薄暗く感じてしまう。


「誰か……誰か助けてくれぇぇ!!」


 廃墟の中から数人の悲鳴が聞こえてくる。そこまですぐに向かうがどうやら遅かったようで、既に何人かが正気を失い虚な瞳で地面に突っ伏している。

 あぁなってはもう助からないだろう。手遅れになった彼らを見て残された者達は恐怖しその場に腰を抜かす。


「来たか……こいつらは商店街に爆弾を仕掛けた奴らだ。今私の手によって裁きを下していたところだ」


 この前の爆破事件。水希さん達指示班は捕まったが実行犯は捕まっていない。こいつらがそうなのだろう。確かに身なりは悪そうだ。


「お願いだ助けてくれ……死にたくない……!!」

「二度と悪事は働かないって約束できる?」

「約束します!! 自首するんで命だけは……」


 この人達はどうしようもない悪人だったのだろう。でもそれを反省するなら、罪を償って真っ当に生きるというのならボクは彼らを助ける。


「なら後ろに下がってて……安全な場所まで逃げて」

「はい……はい!」


 完全に怯えきりこちらの指示に従順に従う。もう悪いこともせず逃げた先ですぐ自首するくらいの勢いだ。


「あいつらを庇うのか?」


 ここにいたまだ正常な人達が逃げ去った後、サタンは左手を銃に変化させ、それをこちらに向けながら問いかけてくる。


「庇うわけじゃない。ただ罪を償おうとしてる人に過剰なまでに私刑するってのが間違ってるだけの話だよ」

「ふざけるな……あいつらを裁く権利は司法にはない……罪を数えていいのは私だけだぁぁ!!」


 銃口から風を纏った弾丸が放たれる。それらは空中で減速し、そこから一気に加速する。


「ぐっ……なんて避けにくい弾丸なんだ!! みんな気をつけて!!」


 不規則な加速をする弾丸にボク達は翻弄される。何発も撃たれその全てがタイミングも加速具合もバラバラ。

 異常なまでに躱しにくく、当たった弾は過剰なまでに回転がかけられており体を抉り取っていく。


「生人! 俺と愛で道を作る! その隙にあれを!!」


 風斗さんが銃弾を剣で弾き数発体で受け止める。椎葉さんもマイクで叩き落とし銃弾の包囲網を緩めてくれる。


「生人くん早く!! 寧々ちゃんを助けてあげて!!」


 自分の身を挺してまでボクに託してくれる。それに応えるべくボクは残った弾丸を躱しつつ着実に奴に接近していく。


[スキルカード 疾風 ジャンプ]


 銃弾など優に超える速さを生み出す爆発力で奴の前に跳び出す。

 

「お願い戻ってきて……峰山さん!!」


 そして至近距離で瓶を割って中身の液体を奴にぶちまける。避けることなどできようもなく奴の全身に液体が降りかかる。


「あ……わたくしは……何を?」


 奴の体に異常が現れる。

 左半身が人間のものとなり、顔の左半分の中から峰山さんの顔が浮き出てくる。


「峰山さん!! 助けにき……」

「来ないで!!」


 引っ張り出してでも救出しようとするが、彼女はボクの助けを拒絶する。


「思い出したんです……涼風さんの妹を殺したのはわたくしです。罪悪感から逃げるために記憶を封じ込めていたんです。

 もうこんな自分に生きる資格はありません。お願いです……もう殺してください」

「ふざけるな!! お前は私と一緒に罪人を裁きに行くんだ!! 逃げるな!!」


 右半身。サタンの体が彼女の意思に反して猛抗議する。しかしその声は峰山さんには、そしてボクにも届いていない。


「その理屈ならボクも殺されないといけないね」

「えっ……?」

「ボクもいっぱい間違えてきた……星を壊して、人を殺して。生きるためじゃなくて、楽しむために。

 そのことを忘れて自分をヒーロって言ったりもした。本当のことを思い出した時……死にたくなった」


 ボクは嘘偽りのない言葉で語りかける。あの時彼女がしてくれた時のように。その恩を返すために。


「でも峰山さんが居てくれたからボクは立ち直れたんだ! 罪から逃げずに立ち向かって償うこと……それを君が教えてくれたんだ!

 だから死ぬなんて言わないで……逃げないで。辛いと思うけど……戦って。罪と、運命と戦って勝とう! 一緒に!」


 例え人を殺めていたとしても、消えない十字架を背負っていたとしても。

 それから逃げていい理由なんてどこにもない。抗って、歯を食いしばって。どこまでも戦わないといけない。

 それが罪を犯した事への唯一の償いなのだから。


「寧々!! お前が俺に言ったことは嘘だったのか!? 生人を幸せにして……こいつに罪と向き合わせると言った俺との約束は!?」

「そうだよ寧々ちゃん!! 死んだら全部失う……夢すら抱けなくなる……だから生きて!!」


 ボク達の説得により心が揺らいだのか、それに連動するように彼女とサタンの境目が曖昧になっていく。


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