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139話 罪から逃げる(寧々視点)


「誰……? 何でこんなことするの?」


 わたくしの小さな手にはナイフが握られており、そこにはべっとりと血がこびり付いている。

 目の前のまだ小学校にも上がっているかどうかくらいの子供の胸には穴が開いている。


「これで母さんに褒められる……もう役立たずなんて言われない……」


 普通の人間なら罪悪感の一つでも感じるものだが、生憎今のわたくしは普通の精神状態ではない。

 父さんが死んでお姉ちゃんから突き放されて。毎日コンプレックスを刺激されて心はもう壊れてしまっていた。

 だからこんな人道反する命令をされてもそれを間違ったことと認識することができない。


 そしてまたひと一突き罪を重ねる。


「カヒュ……!!」


 幼女は内臓に重たい傷を負い血反吐を吐き散らかす。それは思ったより遠方まで飛び、わたくしの純白の服を赤黒く染め上げる。


「あれ……わたくし……何を?」


 服が体に張り付き生温かい感覚が腹部を襲う。それによりやっと正気に戻り今自分がしていたことを理解する。

 目の前の命はもう尽きている。もう取り返しがつかない。


「寧々様。塔子様よりお電話です」


 側に付いていた殺し屋の一人が依頼人である母さんからの電話をわたくしに渡す。

 

「調子はどうかしら?」


 わたくし相手に殺人教唆をし、今人が殺されたことを知っているはずだというのに、この女は普段通りそれが当たり前であるかのような声色だ。

 

「母さん……何でわたくしにこんなことを……?」

「あら? 今更過ちに気づいたのかしら? 相変わらずグズでノロマねぇ……」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 親というものは子供にとっては世界そのもので、それから拒絶されわたくしは自責を始めてしまう。

 

「まぁいいわ。これであなたの手はもう汚れきった。今から……例え何年経ったとしてもその過去は変わらないわ。

 あなたは一生私の……罪の奴隷よ」


 その時何かが私の中で切れる。心に異常なまでのストレスがかかり壊れることを防ぐために、心の自衛本能が働き意識が自動的にシャットダウンする。



☆☆☆



「思い出したか? お前の罪を?」


 真っ黒の景色があたり一面に広がっている。それ以外何もない。

 そんな空間の中にわたくしとあのサタンだけが居る。


「思い出しました……何で今まであのことを……」

「お前は心を守るためにその記憶を思い出せないようにしていたんだ。そしてあの母親に来たるべき時が来たら利用できるよう育てられていた」

「待って……じゃあわたくしがDOに入ったのって、そのきっかけを作った理由って……」


 あの時母さんは……あの女は、姉さんを超えることができる。あなたにしかできないとわたくしを煽った。

 わたくしはその言葉を真に受けて、それに誰かのために正義を掲げる、誰かの憧れになれるという謳い文句に惹かれてしまったのだ。


「それすらも計画の一部だ。DOに恩を売り、上層部の一部と繋がりを持ちより国と癒着するようになった。

 お前は知らない内にまたあの企業の悪行に手を貸していたのだ」

「いや……嫌ぁぁぁ!! 違う!! わたくしはそんなつもりじゃ……」

「だがお前は決して悪人ではない」


 つい先程までわたくしのことを責め立てるような言動や行動をしていたのに、急にこちらに手を差し伸べてくる。


「勘違いしていた。お前には償う意思がある。一緒にあの悪人どもに裁きを与えよう」

「はぁ……はぁ……」


 過呼吸に襲われ上手く酸素を取り込めない。奴はそんなわたくしの背中を摩り手を取り立ち上がらせてくれる。

 

「はい……もう考えるのは疲れました……代わりにあなたが……導いてください」

「あぁ……任せろ」


 グッと手を引っ張り、わたくしは奴の体へと沈んでいく。最初は恐怖が心を蝕むが、もうこれで何も考えなくて済む。

 それでいて罪を償えると思うとそれらは快感へと変わっていく。


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