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135話 二人で一人のせいで


「お前らの罪は何だ?」


 人語を話せるタイプのそのサタンは右手をこちらに突き出し罪を問うてくる。その言動や行動は妙に人間らしい。


「生人くん。あいつは人間のように見えるだけの、その動きを真似ただけのサタン。手加減はいらないからね」

「分かってるって。他の人に被害が及ぶ前に倒さないとね!」


[アックスモード]


 ボクは斧を取り出し、手始めに奴に投げつけてみる。

 今は奴に対して情報が少なすぎる。この一手で相手の出方。特に攻撃の躱し方を見ておきたい。

   

 しかし奴は躱そうとはしない。こちらに向かって真っ直ぐ歩いて近づくのをやめない。そこは斧の軌道上だというのに。

 斧が奴の脳天に直撃する寸前までいくが、急に進むはずの軌道から逸れて壁に突き刺さる。


「罪を教えろ……教えろぉ!!」


 歩くの止め、体勢を低くした後にスタートを切り陸上選手のように無駄のない動きでこちらの懐まで突っ走ってくる。


[スキルカード ドールアタック]


 椎葉さんの両肩に座っていた人形が動き出し、ボク達と奴の間。つまり奴の進行方向上に配置する。

 どうやって斧の軌道を逸らしたのかは分からないが、あの人形に干渉した時点で奴に影響が現れる。動きが見えなくてもそれで大体の能力は分かるはずだ。

 走っている最中奴の右腕がダランと垂れる。地面に着くほどに腕が伸び、それを鞭のように扱い人形の間を潜り抜けてボクの首を掴む。


「しまっ……」


 急な動きの変化に反応が遅れてしまい、ボクはそのまま天井に一回叩きつけられた後奴の方へ手繰り寄せられる。


「お前の罪は何だ……!?」


 左手でガシリと顔を掴まれ、振り解こうとするが脳内にフラッシュバックするある光景のせいで全身が脱力してしまう。

 中世風の街で女子供すらも火をつけて殺すボクの姿。近未来風の世界でそこの人間を誑かし戦争を起こさせるボクの姿。

 大量の光景がフラッシュバックして脳の回路が焼き切れそうになる。


「離せっ……!!」


 ボクはなんとか奴を引き剥がし蹴り飛ばす。

 あの光景はボクが今まで犯してきた罪だ。だがボクはそれらから目を背けていない。ちゃんと向き合って今も償うべく戦っている。

 だからこそ今の攻撃に耐えることができた。


「次はお前の罪だ」


 しかしそれでも脳へのダメージは計り知れず、ボクは地面に膝をついてしまう。

 その間奴が待ってくれるはずもなく今度は椎葉さんに狙いを定める。

 地面に伏せているせいか先程奴に掴まれ気を失った男性と目が合ってしまう。虚ろな、生きることを放棄した瞳で横たわっている。


「そういうことか……」


 先程フラッシュバックさせられた光景から大体のことは察せてしまう。恐らく奴は掴んだものの罪を無理やり見せさせる能力を持っている。

 だからこそのあの光景なのだろう。ボクは耐えることができたが、常人ならあのように精神が崩壊して廃人となってしまう。


「椎葉さん! 奴に掴まれちゃダメだ! 心が壊される!」


 その一言で大体の事態は理解してくれて、彼女は奴から距離を取り、人形とマイクによる牽制で距離を保つ。

 しかしそれでも奴の躱す技術はプロのそれで、段々と距離が詰められてしまう。ボクはまだ立つのがやっとだ。間に合わない。


「椎葉さん伏せてください!!」


 彼女の背後から矢が飛んできて、椎葉さんの頭ギリギリを通り抜け奴を貫く。


[スキルカード ショックウェーブ]


 回転する衝撃波の刃もその後に続いて飛んできて奴の首元を捉える。しかし切断するまでにはいかず、それでもダメージは通り奴は後退して一旦椎葉さんのことを諦める。

 

「きさっ……貴様ぁぁ!!」


 奴は人間らしく雄叫びを上げ、援軍に来てくれた峰山さんを指差す。


「いきなり人を指差すなんて失礼な奴ですね……」


 遠くから弓を引き絞り奴の脳天に標準を合わせる。

 しかし奴の右半身が一瞬赤く発光した後、手から炎の塊を投げつけ矢にぶつけて相殺する。その際に生じた煙を煙幕代わりにして死角から彼女に迫る。

 やはりこいつはただのサタンではない。異常なまでに知能が高い。


「さぁ……お前の罪を教えろ」


 峰山さんは奴に首根っこを掴まれてしまい、その直後ビクンと大きく体が跳ねる。


「あっ……あっ……何でわたくしは今まで忘れて……」


[必殺 ビックマイク]


 椎葉さんがすぐさま助けに入る。人形がマイクに吸収され、それが巨大化する。

 彼女は数トンは優に超えそうなそれを振り回し、強引ながら峰山さんごと吹き飛ばして無理にでも引き剥がそうとする。

 だがマイクは奴に当たる直前で止められる。


「お前のその償いの精神……気に入った。今から私とお前で、二人で一人だ」


 峰山さんが奴に吸収されていく。まるで沼に沈んでいくかのように奴の体の一部が液体のように蠢き、そこに峰山さんが沈んでいってしまう。

 

「峰山さん!!」


 やっと動くようになった足で駆け出し助けようとするものの間に合わない。

 彼女は完全にサタンに飲み込まれて奴と一体化する。奴の体の真ん中に亀裂が入り、左半身が黒色に変色する。


「さぁ……裁きの時間だ」

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