134話 罪を数える者
「というのが私からの報告だ」
ゴールデンウィークが終わり、美咲さんからインカム越しに塔子さんの件の報告をもらう。
とはいっても本当に何も見つかっておらず、あの謎の装置についても分からず仕舞いだ。
「そういえばキュリアはどうなったの?」
キュリアとは数ヶ月前に戦って以来一切音沙汰なしだ。死体は上がっていないことからあの一撃で死んだことはないし、まだどこかに潜んでいることは間違いない。
「すまないがそれは分からない。推測だけで語るのなら、私が言う巨悪と組んでいる可能性が高い。
あいつは非常に好戦的だ。誰かがバックにいて抑制してなければきっとまた生人君に戦いを挑んでいるだろう」
「結局前々から言ってるその巨悪って誰なの? いい加減教えてよ。こっちも約束守って誰にも美咲さんのことは言ってないんだからさ」
しばらく沈黙の時間が流れる。数回唸った後困り果てた声で言葉を再開させる。
「まだ……だ。まだ早い。今言ったとしても君達を納得させられない。それに混乱を招いて奴にチャンスを与えるだけだ」
「このまま言わないで逃げるってのはなしだからね! 田所さんの件は忘れませんし、絶対に許しませんから」
「……分かってるよ。また今度会える日を作っておくよ。それじゃ」
通話は切れボクはインカムを机の引き出しにしまいベッドに突っ伏す。
ここ一ヶ月程巨悪についてその正体を考察し独自に調べていたが全く検討もつかない。その尻尾の影さえ見えてこない。
「生人くん? お部屋入ってもいいかな?」
ノック音と共に椎葉さんの声が扉の向こうから聞こえてくる。快く扉を開けようとするが、その手が一瞬止まってしまう。
そういえば峰山さんがこの前異性を下手に部屋に上げると襲われるからダメって言ってたけど、まぁ別に椎葉さんならいいよね。
「いいよ! 今開けるね!」
ボクは扉を開き彼女を部屋に招き入れる。
「どうしたの? 今日はライブの打ち合わせとか言ってなかったっけ?」
彼女は十日ほど前からこの日はライブの打ち合わせがあるから居ないと言っていた。
新ダンジョンが美咲さんが出していたこともあり、その脅威がなくなったことから了承を得られたため本来は今日ここにいないはずなのだ。
「ちょっと向こうの用事で予定がズレちゃってね。でも大丈夫! だってアタシは天才アイドルだからね!」
椎葉さんはボクのように多芸でそれら一つ一つプロ以上の才能だ。
ボクは寄生虫だから人間より要領が良いということだろうが、彼女は本当に天才なのだ。
「それで何か用でもあるの? 別に用がなくてもいいんだけど」
「最近何か変わったことなかった?」
「えっ!? い、いや特に……」
胸の鼓動が一回大きく鳴り、声が自然と上擦る。怪しんだ椎葉さんはグイッと顔をこちらに近づけて睨んでくる。
「何か隠してるでしょ」
図星だ。ボクは今美咲さんとの関係を隠している。風斗さんに知られたらただじゃ済まないだろう。
それにそんな事態なったら美咲さんは身を眩ませる可能性がある。真実を知らずにそうなってしまうのだけは避けなければならない。
「別に……何も……」
「へぇ……あっ! もしかして寧々ちゃんと喧嘩しちゃったとか? まぁ乙女心が分からない生人くんならやらかしそうだからね」
特段低い声で唸った後、急に何かを理解したようにスッキリした顔で明るい声を出す。
「う、うんそうなんだ! ボクにも原因が分からなくて……」
とりあえず話を合わせるべく、即興でそれっぽい言葉をまとめる。
「も〜生人くんはしょうがないなぁ。じゃあアタシが乙女心についてレクチャーしてあげるよ」
「は、はい。よろしくお願いします……」
嫌だとも言えなく、彼女から小一時間に渡る乙女心についての授業を受ける。
しかし大半が何を喋っているのか分からず頭が混乱してしまう。それが限界にまで達しようとした時ボクのランストから鳴り出す警報音によって授業が中断される。
「生人大変だ! この前の峰山グループのビルにサタンが現れた! すぐに向かってくれ!」
「分かった! 椎葉さんもここに居るから一緒に向かうね!」
すぐに気持ちを切り替え二人でここを飛び出す。道中でお互い変身しておき、トップスピードで現場まで急行する。
ビルは未だに修繕の途中だったらしく、中からは工事員のおじさんが逃げ出してくる。
「よ、よかったぁ。あんたらDOの人か! 助けてくれ……中でサタンが暴れてるんだ!」
「了解任せといて! 行こう椎葉さん!」
「うん……そうだね」
人がすぐ襲われる可能性があり緊急性があることからボク達は風斗さんや峰山さんを待たずにビルの中に向かう。
逃げ惑う人々に逆行するように道を辿っていき、ある広いオフィスに辿り着く。
その中では全身黄緑色の人型のサタンがスーツ姿の男性の胸倉を掴み上げ宙に浮かせていた。
「さぁ……お前の罪を教えろ」
ボク達が部屋に入るよりも早く奴は男性の頭に手を置く。
「あっ……あぁぁぁぁぁ!!」
すると突然男性が金切り声を上げてその場にのたうち回る。
奇妙で不気味な状況を前にして、奴はこちらへと向き直りゆっくり近づいてくる。