13話 初制圧
突然鳴り響くサイレンと放送に、事前にこれが何か説明を受けていたのにも関わらず僕は驚き少し硬直してしまう。
「城戸町の蓮山付近ですね? 了解です」
その間に風斗さんはスマホで父さんからの連絡に応じてダンジョンが出現した場所を聞いていた。
僕もすぐに思考の巡りを取り戻し、スマホで今言われた城戸町の蓮山の場所を調べる。その場所はここからそう遠くはなかったが、すぐに行けるという距離でもない。
僕達はすぐに再び変身し、ここから飛び出してダンジョンが出現した場所まで向かう。
「寧々と田所先輩には指揮官から連絡が行っているはずだ。現場で落ち合うから俺達も急ぐぞ!」
「はい! 分かりました!」
暗い青色の、背に剣を背負っている鎧を着た風斗さんの背中を追いかけ現場へと急いで走って向かう。
この鎧の効果はやはり凄いもので、もしこれを使って五十メートル走を走ったら、二秒もかからないのではないだろうか。
そのような速度で全力で走ったので、思ったよりも早く現場に着く。
「ちっ。もうサタンが数体ダンジョンから出てきているな」
僕達が現場についた頃には既に何ヶ所か建物に破損が見られ、数体サタンが暴れ回っていた。
周りからは叫び声や銃声などが聞こえてくる。警官や自衛隊の人達も応戦してくれているのだろう。
「行くぞ生人!」
風斗さんが珍しく大きな声を出し、デッキケースからアーマーカードを取り出す。先程の話を聞いたせいか、その声にサタンへの凄まじい憎しみが感じられる。
僕も彼に呼応するようにアーマーカードを取り出してランストにセットする。
[アーマーカード ウルフ レベル5 start up……]
[アーマーカード ナイト レベル6 start up……]
僕はいつもの狼の鎧を見に纏う。
一方風斗さんは白銀色の光り輝く鎧を身に纏う。背に背負っていた剣はいつのまにか左腰の部分に移動しており、彼はその鞘から剣を抜いて奴らに向ける。
「仕事の時間だ」
それだけ吐き捨てるように言うと、剣を構え奴らに突っ込んで行く。僕も遅れまいと後を追っかけるが、レベル差があるせいか少し出遅れてしまう。
襲いかかってくる巨大な熊のようなサタン数匹を、彼は難なく斬り捨てていく。その剣の切れ味は絶大で、奴の毛皮と肉をまるで豆腐のように斬っていく。
僕は疾風を取り出そうとしたが、その時にはもう風斗さんがこの場にいる全ての敵を斬り伏せて倒していて、地面にカードが散らばっているだけだった。
やっぱり風斗さんはいつ見てもすごいなぁ……僕と比べものにならないくらい戦闘技術の練度が高い。今の動きだって複数体の敵を倒すのを流れるようにやってみせてた。
「おい。ダンジョンが出現したのはこの先だ。ボーッとしてないでさっさと向かうぞ」
そうして僕達は道中で出会うサタンを全員薙ぎ倒し、逃げ遅れた人を救助しながら蓮山へと近づいていく。
「生人さん! 風斗さん!」
蓮山の手前までやって来たところで、上空から峰山さんの声が聞こえてくる。上を見上げると既に変身してアーマーも装着した峰山さんが飛んでいた。
彼女は急降下して地面すれすれで一回大きく羽撃き着地する。
「こっちは見かける限りのサタンは駆除した。そっちはどういう状況だ?」
「わたくしの方は田所さんと合流して、それから逃げ遅れた人の救助とサタンの駆除が完了しました。上から見た感じもうサタンはいなさそうです」
彼女の飛行能力は戦闘の際はもちろん、こういう短時間に広く見渡すことが求められる状況では非常に役に立つ。
僕は今この初めての救助活動で、戦闘以外での能力の活用も考えていかなければいけないと思うのであった。
「そうか……おい生人。お前の能力は基本的に近接攻撃だけなのか?」
「僕のは基本的にそうです。強い武器とか、巧みなスキルカードとかはありません」
僕の持っている戦闘に使えそうなスキルカードは疾風合わせて数枚。峰山さんの飛行能力のような便利なものはないし、風斗さんの剣のような凄い武器も持っていない。
「ならお前は俺と一緒にダンジョンに行くぞ。寧々は田所先輩と一緒に広く見渡せる所からサタンの生き残りがいないか、そしてダンジョンから新しく出てきた奴の対応を頼む」
風斗さんはこの時間がない状況で冷静に、的確に被害が増えないように思考を巡らし作戦を立てる。
峰山さんが頷き、僕も特に反論はなく、そのまま三人ですぐ近くにあるダンジョンへと走る。
そこから一分程度で山の麓で明らかに場違いで異質な門を発見する。青銅のような色合いで、これが入ると異空間に飛ばされてしまうダンジョンなのだとすぐに分かる。
「ここが今回のダンジョンか……よし。さっき言った通り寧々は田所先輩と合流。生人は俺について来い」
それを言って風斗さんは間を空けることも、僕達の返事を聞く暇もなく門を潜ってダンジョンに入って行く。
「ではわたくしはここで。頑張ってくださいね」
「うん。みんなのヒーローとして、この街の安全のために戦ってくるよ」
手短にこれだけ言い僕はその門を潜ってダンジョンに入る。