133話 これかもずっと
「私が小さい頃は父さんと母さんと、そして寧々の四人で仲良く暮らしていたわ。あの女にとってはその生活は演技だったのだろうけれど。実際あの女は陰で寧々のことを虐めていたのでしょう?」
「虐め……というより姉さんへのコンプレックスを膨らませてしまうようなことを言われ続けてました」
ボクはあいつとはあの時会ったきりなので数分しか面識はないが、その時の言動から今話した内容の様子を容易にイメージできてしまう。
「けどあの女は恐らく父さんを毒殺して会社の運営権を握ったのよ。そこからの生活は地獄だった」
「そうですね……毎日過労死しそうなくらい勉学などを強制させられて、今考えると完璧な駒が欲しかったといったところでしょうね」
「身の上話は分かったし、水希の心情も理解はできる。それで私の家族を殺したのは結局誰なんだ?」
話を急かされ、水希さんはその返答に数秒言い迷ってしまう。申し訳なさそうに。
「残念ながらこの前言った通りその件については本当に知らないの。当時は海外に居たし、あの女が関わってはいそうだけれどそれ以上は……」
あいつはあの後完全に姿を眩ませ、会社の幹部が水希さんの出した証拠により逮捕される中でも姿を現さなかった。
今も警察が捜索しているが見つかる気配はない。
「ならなんとしてでも見つけないとな。そして真相を暴いてやる……私からは以上だ。もう話したいことはない」
復讐に燃える瞳は依然燃え盛っており、それは全てを焼き尽くしそうなほどだ。
「じゃあここからは寧々に、姉として少し話をいいかしら?」
「姉として……? 何でしょうか?」
ボクと涼風さんはもう何も言うことがないので黙って二人の話を聞くことにする。
「あなたは何も間違ったことはしてない。だから私に負い目を感じずに自分の人生を歩みなさい」
真剣な声色だが、抱擁するような優しさを含んだ笑顔。そこに妹への恨みなど微塵もない。
「姉さん……わたくしこそすみませんでした。今までずっと勘違いしていて、姉さんはあんなに優しかったのに。ちょっと冷たくされただけでわたくしは……」
大切な人を巻き込みたくなく距離を取った姉と、その真意を読み取れず突き放されたと考えた妹。
このすれ違いが招いてしまった結果が今だ。
「いいのよ。結果としてあなたが今幸せに生きていけるなら……それに良い人も見つかったようだしね」
檻の中に入れられ、もう陽の光を見ることはできないというのに、彼女の微笑みは太陽より眩しい。
「死刑執行まで、裁判の時間も含めればまだ時間はあるわ。また会いに来て話を聞かせてくれたら嬉しいわ。
もちろん生人さんもいつでも来ていいわよ」
「はい! 寂しくないように毎週来ますよ!」
「ありがとう……さてと。そろそろ時間のようね」
席を立ち上がり留置所まで戻ろうとする。
「お姉ちゃん!!」
最後の去り際。峰山さんが一言叫ぶ。
「何かしら?」
「わたくし……お姉ちゃんに胸を張って生きれるよう頑張るから……だから見守っててね」
「ふふっ……そうね」
穏やかな笑みと共に彼女は戻っていく。ボク達も部屋から出てそのまま日が照り光る外へと向かう。
「私はこれにて失礼する。ここからは個人で動かせてもらう」
「大丈夫なの? 塔子は謎の変身装置を使っていた。簡単に倒せる敵じゃないけど」
「問題ない。変身する前に仕留めるまでさ」
彼女の瞳には不退転の覚悟が灯っており、きっと死ぬまで止まることはないだろう。
「じゃあこれを。もし困ったことがあったら連絡してね」
手帳に自分の電話番号を書き彼女に手渡す。
「感謝する。ではまたどこかで会おう」
ボクと峰山さんは彼女と別れて帰路に着く。
「生人さん。これからわたくしは胸を張って人生を突き進んでいきます。これからも一緒に歩んでくれますか?」
「もっちろん! これからもずっと一緒だよ!」
峰山さんがスッとボクの手を握る。それに応じてボクの方からも握り返し、幸せな気分に包まれる。
これからも続いていくであろう道を二人一緒に歩んでいく。ずっとこれからも永遠に。