132話 留置所にて
「うふふ。やっぱりこの美しい鎧はあたくしにこそ似合うわ。そこの下民二人と出来損ないの娘とは違って」
人を見下し蔑むその態度に憤りを感じる。その場で一番それを感じているのは涼風さんだ。
家族を殺した悪魔に馬鹿にされ、フルフェイスの鎧を纏っているが怒りを爆発させた表情は容易に想像できる。
「お前はここで終わりだっ!!」
ボクと峰山さんは奴が未知の技術を使っているということもあり警戒して様子見しようとするが、涼風さんは怒りを抑えられず我先にと襲いかかる。
しかし奴は紫色の花弁を舞わしたかと思えば煙のように姿を消してしまう。
「生まれた時からずっと目障りだったわ。グズ娘」
いつのまにか峰山さんの背後に瞬間移動しており、彼女の首を掴み上げる。そのまま壁に叩きつけ変身を解除させる。
「何をやらしても駄目でノロマで……でもDOに入ったことだけは褒めてあげるわ。そのおかげで私はこの力を手に入れられた」
[スキルカード 疾風]
[スキルカード 風神槍]
ボクの高速の動きで多方向から拳を繰り出して奴を引き剥がす。そこに細長い風の槍が何発も投げられ奴に命中する。
しかしそれらは貫通することはない。
「生人さんでしたっけ? 中々良い動きをしますね。ですがあなたの努力も全て巨悪の前では無意味よ」
動きに対応され腹に重たい一発をもらう。しかしこの程度でボクが死ぬわけもなく、その腕を掴み背後に回って組み付く。
[必殺 サイクロンスピナー]
涼風さんは全身に竜巻を纏い宙に浮く。そこで蹴りの姿勢を取り、背後に強風を発生させ突撃する。
風で作られたドリルは奴の顔面に当たり、体を抉っていくように掻き分ける。
「離せこの下民が!!」
奴はボクを振り解き涼風さんを蹴り飛ばす。
「おいこっちから凄い音がしたぞ!? 逃げ遅れた人が居るのか!?」
扉の向こう、廊下の方から風斗さんの声が聞こえてくる。椎葉さんの焦る声もするので二人がもうじきここに来るだろう。
「時間切れね。まぁ今回はここまででいいわ。本番はまた今度にお預けね」
奴は割れた窓から身を乗り出しそのままどこかへ姿を消す。
峰山さんは怪我をしてしまったが命に別状があるほどではない。全員無事だ。
しかし証拠が消し炭にされてしまった。水希さんも今頃ぐちゃぐちゃになっているだろう。ボク達はこの戦いに負けてしまった。
☆☆☆
あの事件から数週間後。ボクと峰山さんと涼風さんで留置所の面会室に来ていた。
水希さんの面会に。
「大丈夫なんですか水希さん?」
「なんとかね。偶然真太郎さんが真下にいて空中で受け止めてくれなければ死んでいたわ。それでも衝撃で左肩が外れてしまったけどね」
あの後落下して死んだかと思った水希さんだが、幸運なことに風斗さんが助けてくれていた。爆発の際の傷もすぐに手当てしてもらえて順調に回復している。
そして彼女は自ら罪を、自分含め会社や母親の罪を証拠付きで自白した。
だから今こうして留置所にいるのだ。
「姉さんはこれで良かったの? やったことを考えれば姉さんはもう確実にここから出られない。いえ、十中八九死刑になるのに」
厳しいようだがそれが現実だ。爆破の件は未遂だったが、彼女はそれまでも数多の犯罪に手を染め恐らく殺人教唆もしている。
死刑になってしまうのはもう確定事項だ。
「いくらあの母親を止めるために、反抗の意思を感じ取らせないために従っていただけとはいえ私は許されない罪を犯した。こんな命で償えるならありがたい限りだわ」
死を恐れていない。きっといずれそうなることを分かっていて生きていたのだろう。
妹を巻き込まないために、一人孤独に戦った末の末路。仕方ないと理解しつつもどこか納得できない感情がある。
「私の身の上話はほどほどにして、次は涼風さんの質問を聞こうかしら」
水希さんは先程からそわそわして落ち着きがない彼女の方を見透かすように話す。
「……教えてくれるか? 峰山グループの悪事や、特にお前らの母親。峰山塔子について」
「分かったわ。もう私を縛り付けるものはもうない。全て包み隠さず話すわ」