131話 壊れゆく道具
「涼風……確か昔うちと対立していた涼風工業ね」
「あぁそうだ。社長とその妻。そして次女が殺され長女は行方不明。その件について知っていることを話せ!!」
「何も知らないわ」
涼風さんは完全に頭に血が昇っており、まさに今その手が首に届こうとする。
「待って涼風さん! 一旦水希さんの言い分も聞いてみようよ」
「そうだな……お前は本当にあの件について知らないのか?」
ギリギリのところで踏み止まってくれる。そうして水希さんは観念して全てを話し始める。
「私は事件の日は海外に居たわ。渡航履歴とか証拠はいくらでもあるはずよ。
それに当時だと私はまだそんな人を始末できるほどの権力はなかった。恐らくやったのは私がそうなる前のここの誰かのはず……」
「じゃあその誰かって誰のことだ!? 何で私の家族は殺されないといけなかった!?」
水希さんは押し黙ってしまう。この反応は事件の真相を知っているものだ。だが話そうとはせず涼風さんを苛立たせる。
「姉さん。いい加減もう黙るのは、隠すのはやめてください。
話してください。その事件の真相を……それにどうして姉さんがこんな悪事に手を染めてしまったのかを」
半年前。峰山さんは自分の姉に対して昔は優しかったと言っていた。きっとこんなことをしてしまったのには何か理由があるのだろう。
その正体を彼女は求めている。
「あなたのためだったの……これは私がやらなきゃいけないことだったの……ごめんなさい……!!」
水希さんは嗚咽を漏らし、目から多量の涙を流しながら峰山さんに謝罪する。
しかしそれは質問の答えになってはいない。
ただ本心から出たその謝罪に峰山さんは動揺し言葉を出せなくなる。
「私は大切なあなたを守りたく……危ないっ!!」
水希さんが飛び出し峰山さんの後ろに割り込む。
ボク達三人は水希さんの方を、デスクの方を見て扉に背を向けていた。一方水希さんだけが扉の方を見ていた。
「ああぁぁぁぁ!!」
苦痛に満ちた悲鳴と爆音が辺りに飛び交い、水希さんの体が吹き飛んでいき全面ガラス張りの窓を突き破り落下していく。
ボク達は、特に峰山さんは水希さんが爆風を防いでくれたおかげでダメージも衝撃もあまりない。
「あら、全員まとめて吹き飛ばせなかったわね。相変わらずあの子は感だけはいいこと」
この部屋に初老の女性が不機嫌そうな足取りで入ってくる。腕には謎の黒い装置を着けており、そこにはカードを通せそうな細長いスペースがある。
地面に散らばる赤い破片。恐らく奴がダイナマイトでも投げたのだろう。そして水希さんはこの高さから落ちて今頃は……
「母様……? どうして母様がここに!? 何で姉さんを!?」
目の前にいる女性は峰山さんの、水希さんの母親だったらしい。しかし奴の視線は自分の子供に向けるそれではなく、まるで腫れ物に対するそれだ。
「別にあの子を狙ったわけじゃないわ。証拠も証人も全て吹き飛ばせたらいいなって思っただけよ。
まぁでもこの会社ももう落ち目ね。あの子に経営の一部を任せたのが失敗だったわ」
たった今。目の前で自分の娘が死んだ、殺したというのにそれに対して一切の感情の起伏を表さない。まるで道具が壊れてしまっただけといった感じだ。
「なぁあんた……涼風って名前に聞き覚えはないか?」
「ん? あぁ昔邪魔だったから消した家ね。よく知ってるわね」
ほんの少しも悪びれる様子はなく、罪悪感を抱いていない。その態度に涼風さんの沸点は限界を迎え、素早く奴の元まで殺しに向かう。
「あら野蛮なこと。じゃあちょっとこれを試してみましょうか」
[スキルカード リバイブ 【タンクピルバッグ】]
奴はカードを一枚腕の装置に通す。機械音声と共にポケットに入っていたカードが飛び出してサタンへと変態する。
つい先程出会ったダンゴムシのようなサタンに見えるが、皮膚が更に硬そうでまるで鋼鉄のようだ。それに腕には戦車の大砲らしきものもついている。
[アーマーカード スティック レベル15 start up……]
アーマーカードなしでは不利と判断し、涼風さんは即座にもう一着鎧を纏う。赤と黄色の中華風の特色を思わせる鎧で、手に長い棒が出現してそれで奴が放つ弾を弾く。
弾は着弾点で爆発を起こしこちらに衝撃を伝えてくる。
[アーマーカード ドラゴンホッパー レベル49 start up……]
[アーマーカード デビルマンティス レベル20 start up……]
「へぇ……流石に三人がかりじゃこの子じゃ勝てないわね。じゃああの人から貰ったこれを試そうかしら」
ボク達が圧倒的に優勢となったあたりで奴が一枚カードを通す。
[parasite……ロベリア ステージ first]
辺りに紫色の花弁が舞い、ボク達がサタンを倒すのと同時に奴は紫と青で彩られ花柄の模様がついた鎧を纏う。