129話 非合法な作戦
もし複数の箇所で大量にサタンが出現したらDOでは対応できない。それこそ第二第三の災厄の日と化してしまう。
「私に一つ提案があるのだが……」
そんな不安を打ち消すようにインカムの向こうから得意げな声で話し出す。
「カードを不正に使い、更にはサタンを出現させているとするならDOの権利を使って峰山グループに捜査を入れるのはどうかな?
サタンを使役している可能性があるならDOも警察に同行できるはずだ」
「いやだめだ。そんなことではあのクソったれ共は即座に対応して証拠を握り潰すはずだ」
彼女の言う通り、もしも報告や調査の手続きの段階で向こうにバレたのなら証拠隠滅する猶予は十分にある。
「それで一つ提案がある。私がサタンを数匹呼び出す。それを目星をつけてある峰山グループのビルに送るのはどうかな?」
「ふざけてるの?」
こっちがサタンを召喚する。そんな馬鹿げたことを提案してきたため、ボクは真剣な声で、富士山で戦った時のような声色で応対する。
「ふざけてはいないさ。別にサタンを呼び出すといっても物を壊したり誰かを攻撃させるわけじゃない。
適当にビルに入らせればそれでいい。そうしたらそこの社員は避難しなければならないし、あらかじめ近くに待機していた君達が間髪入れずにサタンを倒す名目でビルに入って、その際に偶然証拠を見つけたことにすればいい。
公務中に見つけたものなら証拠として効力はあるし、涼風君も偶然近くにいたランスト使用者がDOである二人の指示に従って協力してくれたという形にすれば大丈夫だ」
理にはかなっているが、それでもサタンを呼び出すということには抵抗がある。
もしものことを考えてしまうのもあるが、やはりDOとして、正義のヒーローとして非合法な手段を使った作戦は行いたくない。
「私は賛成だが……二人はどうだ?」
そんなボクの葛藤など気にせず、涼風さんは真っ先にその作戦に賛成する。
「何か他の方法があれば……」
「涼風君は分かってるとは思うが……生人君に寧々君。脅すわけではないが、この作戦に応じないなら関係のない人達が被害に遭うだろう」
「どういうこと?」
前置きとは逆に脅しのようなその口振り。更に空気は悪くなり、やはり彼女の根は決して善ではないことを分からされる。
「調べて分かったことだが、あそこは現在進行形で様々な悪事を働いている。たった数日止めるのを延期するだけとはいえどうなるか。
それに爆破が阻止されたことに対してもすぐに動きがあるだろう。もしかしたらもっと強引な手段に出てしまうかも……それを止めるためにも私が入手したような不正な証拠ではなく、DOが入手した公正な証拠がいるのだよ。
賢い君ならどの選択が正しいか分かるよね?」
美咲さんは子供を諭すように、巧みな話術を用いてあくまでもボクに選択をさせる。
命令ではなく選択。二つの大きな違いは責任の有無である。
ボクはこれから行う作戦に対して責任を負わなければならない。どのような結果になろうとも。その覚悟が必要だ。
「わたくしは……その作戦で構いません。あんな人に迷惑をかけるところさっさと潰しましょう」
峰山さんは折れて作戦に賛同する。残りはボクだけ。もしもの可能性を考えた上で答えを出す。
「分かったよ。でも絶対に他の人に迷惑とかかけないでよ。人を攻撃させるなんて絶対ダメだからね!」
「満場一致だね。そこの近くにある峰山グループのビルに証拠はある。恐らく反社会的勢力との金の流れのデータが水希君のパソコンにあるはずだ。
今ドローンも使って確認したが、水希君はそこのビルの一三階の部屋で爆破事件の件で誰かと電話していると思われる。
上の者が現場に行くとも考えにくい。まぁ……最低でも数時間は席から離れないだろう」
やっぱり水希さんと面を向かって対立しなきゃいけないのか……あの時の、妹をよろしくって言った時の優しい顔は嘘だったのかな?
彼女が本当に妹に対して情を抱いていなかったらボクは自信をなくしてしまう。
迷いはありながらも時間が惜しい。些細なものは封じ込め、ボク達は美咲さんに指定されたビルまで向かうのだった。