127話 奇襲
「あなたいきなり何するんですか!? 怒りたいのはこっちで……」
「黙れ!!」
少し離れた裏路地まで峰山さんは連れていかれ、涼風さんはそこに彼女を放り投げる。
青いゴミ箱にぶつかり痛々しい音が狭い空間に鳴り響く。
「何をするんだ!! 彼女は涼風さんの家族の件には関係ないだろ!? それに彼女は悪どいことには何も関わってない!!」
「家族? 悪どいこと?」
涼風さんの件以前に爆破事件の件も知らない峰山さんは何がなんだか分からず状況が掴めていない。
「いいや関係あるさ。私の妹を殺したのは……この女だ!」
「えっ……わたくしが殺した?」
ボクは峰山さんがそんなことするわけないと信じている。その予想は当たっているようで、彼女も全く身に覚えがないようだ。
「白を切る気か? 私は見たんだ……お前が周りの大人からナイフを受け取って妹の胸を突き刺したのを!
聞いたんだ。大人達がその子供のことを寧々と呼んでいたのを!」
しかし涼風さんは納得せず、怒りを露わにして峰山さんに対して拳を振り上げる。
「わー!! 待って待って!! 一旦落ち着いて!!」
ボクは後ろから腕を掴み上げてなんとかそれを制止させる。
「大体あなた誰ですか!? いきなり暴力を振るってきて訳の分からないことを言って。それに生人さんも何でそんな人と一緒にいるんですか!?」
彼氏がデートをドタキャンしたかと思えば違う女と飲食店に居て、その女に暴力を振るわれたのだ。説明を求めたくなるのは当然だ。
「私は峰山グループの犯罪を暴こうとしている者だ。もちろんお前が妹を殺した件も含めてな」
「犯罪……ですか」
峰山さんに驚きの感情は見られない。そういうことに関わっていなくても薄々気づいてはいたのだろうか?
「ならあんなところ好きに晒し上げて倒産させてください。わたくしはもうあそこには関わる気はありませんから」
ここ半年間ほど峰山さんは会ったばかりの頃に抱いていた峰山に対する意気込みを失っているとは思っていたが、もうそのことに関してはやる気を失っているらしい。
最近の彼女はボク同様ヒーローやDOでいることに拘っていて、自分の家の会社については口にすらしていない。
「そうか。もう悪事に加担する気はないということか」
「あの……ですからあなたが言う殺しに関しては本当に身に覚えがないのですが、やはり見間違えや聞き間違えといった線はないのでしょうか?」
ぶつけて汚れてしまった部分を叩きながら、涼風さんとは対照的に冷静に応対する。
やはり白を切ったり嘘をついている感じはなく、彼女がそんなことするわけがないという思いはより確信めいたものとなる。
「ありえない……と言いたいが、お前が嘘を吐いてる感じもないな。だが峰山グループを潰して情報を全て引っこ抜けば分かることだ。
だから……」
涼風さんが我慢するように拳を強く握り締め峰山さんから一歩退こうとするが、その先に手の爪程の大きさのコンクリートの破片が落ちてくる。
「上です!!」
峰山さんが血相を変えて涼風さんに真正面からタックルをかます。いきなりのことで彼女は対応できずそのまま体を奪われ地面に強く体を擦り付ける。
「いきなり何を……」
事情を尋ねる暇なく、いや尋ねる必要はもうない。上空からレンガが落ちてきて、それは地面にぶつかり固い音を立て真っ二つに割れる。
落下地点は先程まで涼風さんがいた場所だ。
「私を殺すつもりだったのか……誰だ!?」
ボク達が見上げた先、建物の屋上から三体のサタンがこちらを見下ろしていた。
腕と体の背後には硬そうな皮膚があり、手が六本もある。その全てが鋭く尖っており、人間を簡単に串刺しにできそうだ。
「またサタン!? 最近本当に……それに人が取り込んでる時に……」
「いや……もしかしたら私や生人君を狙って送られた峰山からの刺客かもしれない」
「姉さんがわたくしがいることを承知で……? まぁとにかくやることは一つですね」
サタン三匹は飛び降りてきて、ボク達の間にいい感じに割り込み分断する。
ギチギチと口の中にある大量の短い触手で不快な音を鳴らし、サタン達はそれぞれ狙いを決めて襲いかかってくるのだった。