125話 同士
「勘違いしてすまなかった! 今すぐ手当する。傷を見せてくれ」
また殴られ蹴られるのかと思ったが、彼女はまず頭を下げて謝罪してこちらのもう治った傷の箇所を触ろうとしてくる。
「い、いや大丈夫だよ! 怪我は大したことないから!」
「いやそんなわけないだろう。確実に突きも蹴りも君を捉えていた。いくら鍛えてるとはいえ重症なはずだ」
それでも彼女は強引にボクの頭部に触れ傷口を探す。
「あれ……治ってる? そんな馬鹿な……」
「い、いやぁ……ギリギリのところで急所を外せてて大した怪我じゃなかったんですよあはは……」
美咲さんの言う通りに誤魔化してみたが、絶対に無理がある。
「そうか……よかった。早とちりで君を殺してしまうところだった」
しかし彼女はホッと胸を撫で下ろし安堵する。ボクも寄生虫だということがバレず、それと爆弾を無事全て解除できたことに安堵する。
「ところでどうして急にボクへの攻撃をやめたの?」
「あの鞄に入っていた爆弾。よく見たら全部解体してあるものだった。
君はヒーローとしてこの悪行を止めようとしていた同志だったんだな。暗くて見えにくかったとはいえ勘違いして本当にすまなかった」
「いえいえ。ボクは大丈夫でしたし、それより爆弾解除手伝ってくれてありがとうございます」
ボクは血がついた服や壁をハンカチやティッシュで拭く。
「これを羽織ってくれ。私のですまない」
ボクの服は血がついてとてもじゃないが街中を歩けるものではない。そんなボクを見兼ねて彼女は上着を脱いでボクに被せてくれる。
そのおかげで血は隠せたが、体格に合わない女性ものの服を着ている変な子が生まれる。
「それで君は……いや、まずは私から自己紹介しよう。私は涼風美玲。峰山グループの悪事を暴こうとしている者だ」
峰山グループの悪事。それは今回の件も含め、美咲さんが見せてくれたメールの内容のことだろう。
「ボクは寄元生人。今回は知り合いから爆破事件のことを聞いて……」
「知り合い? 連れないこと言わないでくれよ。私達はかぞ……」
「美咲さんは今は少し黙ってて」
インカム越しにツッコミを入れる美咲さんを静かにさせ、ボクは自己紹介を続けようとする。
「君のそのインカム……もしかして爆弾知識にでも詳しい人と通話でもしてるのかい?」
「あっ、いやこれはその……」
しかし美咲さんは世間一般では既に死んだ犯罪者だ。この人だって知ってる可能性もあるし、下手に本当のことを伝えられない。
「私に任せて。ここは上手く応対するよ。インカムについてる縦長のボタンを長押ししてくれるかな?」
「分かった……えっと、通話相手から話があるみたいなので」
ボクはインカムの縦長の部分を長押しすると、インカムはスピーカーモードになり美咲さんの声が周りに発せられる。
「聞こえているかな?」
「あっ、はい。私は涼風美玲と申します。あなたが今回生人君のサポートをしたのですか?」
「そうなるね。ただ今回は監視カメラのハッキングなどあまり褒められない手も使ってしまった。だから身分はできる限り明かしたくない。
ただし君の峰山グループの悪事を暴きたいという意見には賛成だ。ということで君の行動に全面的に協力する代わりに私は身分を控えさせてもらえないだろうか?」
恐らく嘘は言っていないだろう。
しかし悪事を暴きたいのはボク信用を得るためで、監視カメラのハッキングは本当のことだ。
相変わらず人を巧みに騙すのが上手い。だがやはりこれを聞いて改めて思うが今彼女がボクに対して嘘をついているようには思えない。
「分かった。あの蛆虫どもに制裁を加えられるならそれくらいは容認しよう」
「ありがとう。ここで提案なのだが、いつ水希君の部下がここに様子見にくるのか分からない。適当なカフェにでも場所を変えよう。
あ、でも私は動くことができないからインカムのままで頼む」
確かに水希さんの部下が来ても負けはしないだろうが、確実に面倒ごとになる。ここは一旦引いて情報をまとめた方がいいだろう。
そうしてボクと涼風さんはここから離れた所にあるメダカコーヒーと呼ばれるお店まで場所を移すのだった。