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122話 思惑の交錯


「うぅ……まだ腰が痛いよ」


 峰山さんにメチャクチャにされた日の次の朝。ボクは疲労と腰の痛みに悩まされていた。

 何千回も同じ動きをされて同じ場所に負担をかけられ、いくらボクが寄生虫の力があるといっても流石に堪える。

 でも朝になればいつも通り峰山さんは満足げな顔でボクを抱擁してくれた。


「でも喉もカラカラでお腹もペコペコ……何か食べないと」


 ボクは自分の部屋の冷蔵庫を漁り何かないかと探す。


「ん? 電話?」


 ボクは冷蔵庫を閉じ鞄に入れっぱなしのスマホを取り出す。表示されたのは非通知の三文字。

 誰だろうと思いながらも出ないのは失礼なので通話ボタンを押す。


「もしもし生人さん?」

「……誰ですか?」


 一瞬峰山さんと間違えそうになったが、よく聞けば声質が違うことに気づく。

 とはいえこの声に聞き覚えはない。


「あら、覚えてないのね。まぁ別にいいわ。

 私よ。峰山水希よ」


 その名前を聞いた途端声の主の顔が脳内に蘇ってくる。

 なにしろ最後に会って話したのは半年近く前で、その時でさえ少し話しただけだ。そのせいで先程まで誰か分からなかった。


「それで何か用ですか?」

「そうなのだけれど、今寧々はそっちにいるのかしら?」

「いませんけど……呼んできた方がいいですか?」

「いえいいわ。こっちの方が都合が良いしね」


 都合が良い……? どういうことだろう? 


 先日喫茶店で謎のお姉さんが言っていた峰山に警戒しろという言葉。あれは寧々さんに気をつけろということではなく、水希さんに気をつけろといった意味だったのではないかと勘繰ってしまう。

 とはいえまだ根拠も何もない。無駄に疑いたくはないので余計な考えは捨て去り耳を傾ける。


「この前はあの子に悪いことしちゃったと思ってね。近くに新しい映画館できたでしょ? そこのチケットを取ったから二人で遊んできてくれるかしら?」


 そういえば、この前行った喫茶店のある商店街とは真反対の方向に新しい映画館ができたという話を岩永さんから聞いたことがある。


「わぁ! ありがとうございます!」

「あと日にちは指定してあるから今度の日曜日にお願いね。映画代以外で、食事代とかショッピング代とか足りなかったら後で私個人からどれだけでも払うから」

「え? いや別にそこまでしてもらわなくても」

「いいからできるだけ長く寧々と楽しんできなさいね」


 一方的にそれだけ言うと電話は唐突に切られてしまう。

 どういうことかまだ説明を求めたかったが、水希さんは大手企業の重役だ。きっと忙しい時間を縫って連絡してくれたのだ。こっちから電話をかけるのは気が引ける。

 別に映画館のチケットをもらっただけなのだから大したことはないと思いスマホをベッドに放り投げ峰山さんの部屋まで向かう。


「おはよう峰山さん! ちょっと話があるんだけどいい?」

「あっ……おはようございます。昨日はその……すみませんでした。わたくしも怒りすぎましたし、今度からは気をつけます」


 峰山さんは顔を火照らせ持っていたグラスに入った水を一気に飲み干す。


「それで話というのは?」

「ちょっとあるツテで映画のチケットが手に入ってね、今度の日曜日に一緒に行かない?」


 きっと水希さんの名前を出したら彼女は断りはしないものの不機嫌になるのは目に見えている。ボクは言葉を濁らせ映画の件について伝える。


「映画館デートですか。そういえばしたことありませんですし、いいかもしれませんね」

「やった! じゃあ決まりだね!」


 こうしてボク達は今度の日曜日に映画に行くことに決め、それからワクワクしながらその日まで楽しみ、あっという間に日曜日になるのだった。

 その日の朝、映画館へ行く荷物をまとめ、三日前に届いた映画のチケットを財布に入れて部屋を出ようとする。


「うん? 電話?」


 しかし部屋を出ようとした時スマホが鳴り出し、ボクは鞄から取り出して名前を見て驚愕する。


「美咲さん……!?」


 通知欄には美咲さんの名前が表示されており、ボクは息を呑んで通話ボタンを押す。


「やぁ生人君。逆探知が怖いから手短に話すよ。君が初めて私の頬に口付けをしたところ、そこで待っているから一人で来てくれ」


 十秒も経たずに通話は終わり、何度掛け直しても電源を切っているのかコール音すら鳴らない。

 

「峰山さん……ごめん」


 何も分からないこの状況でも、ボクは微かな可能性に賭けてしまう。美咲さんがもしかしたら味方になってくれる可能性に。

 ボクはランストをすぐに取り出せるよう準備してから、峰山さんには急用ができたことをメールで伝え部屋を飛び出す。

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