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120話 浮気は許しません!


「あ、見てください生人さん。クラスが分かりますよ」


 始業式の日。ボク達は下駄箱に貼られたクラス分けの紙を見に行く。

 

「でもここからじゃ見えないよ」


 紙の周りには人だかりができており、ボクの身長ではとてもじゃないが見えない。


「ならこれで見えますか?」


 峰山さんはボクのことを抱っこしてそこから彼女の視線と同じくらいまで持ち上げる。


「あ! 見えた! 一緒のクラスだったよ!」

「ふふっ。それはよかったです」


 ボクと峰山さん。二人の名前が同じクラスに書かれている。そこには岩永さんの名前も書かれている。


「あっ! 生人くんに寧々ちゃん! ウチ達同じクラスだったね! ところで何やってるの?」

「生人さんが見えないらしいのでこうして持ち上げているのですが?」


 峰山さんは今ボクのことを抱き上げている。ボクのことを落とさないように胸に押し当てがっしり掴んでいる。

 普通のクラスメイトならこんなことはしない。するとしたらそれこそカップルとか恋人だけだろう。


「あっ!? いや、これは違くて……」


 峰山さんもその考えに至ったようで声を上擦らせながら急いでボクのことを地面に降ろす。

 思い返してみればこの数ヶ月間ボク達はお互いにハグし合ったり、一緒にベッドで寝たりなどしていたせいで感覚がおかしくなっている。


「ふーん……ま、そういうことにしとくか。それじゃ一緒に三人でクラスまで行こっ!」


 一瞬真顔を挟んでから彼女はいつもの笑顔に戻り、ボク達は一緒に指定の教室まで向かう。

 何人かは見たことのある生徒だったが、ボクの知らない人達もいる。


「あれ? あれってもしかして寄元君じゃない?」

「だよね。あの小さくて可愛い感じ。同じクラスだったんだ。ちょっと誰か話しかけに行ってよ。アタシ配信とか見てるからサイン欲しいんだけど」


 教室の裏の方で集まっている派手な感じの女子グループ三人の方からポロッとボクの名前が溢れ落とされる。


「おはよう! ボクのこと呼んだ?」


 ボクは彼女達の元まで駆け寄り笑顔で話しかける。


「えっ!? お、おはよう。同じクラスになったみたいだからよろしくね〜」


 リーダー格っぽい茶髪の子が驚きつつもボクに挨拶を返してくれる。


「サインが欲しいの? それくらいならいつでも書くよ!」

「えっマジ? じゃあ一枚頼める?」


 彼女はバッグからノートを取り出しそこにサインを要求してくる。

 ボクはそこにヒーロー参上! という決め台詞とラスティーと名前を加えてサインする。


「はいどうぞ!」

「ん、ありがと……でも本当噂通りにちんちくりんで可愛いな」


 彼女が自分の頭とボクの頭に手を乗っけて身長差を体で確かめる。


「むぅ〜酷いよ! そのこと結構気にしてるのに!」

「あははごめんごめん! まぁこれのお礼として……今日放課後空いてる?」

「放課後? 今日は特に予定はないけど?」


 今日は午後からボク以外仕事があるので特に予定はない。一応キュリアや美咲さんに関する情報を集めようとは思ってはいたが、予定を空けることもできる。


「じゃあカラオケに行こうよ! アタシら三人で行こうと思ってたんだけど、君が入ればもっと盛り上がると思うし……さ。ねぇ?」


 彼女は舌舐めずりし、何か合図を伝えるように脇の二人に視線を送る。


「え、えぇ……流石に不味くない? あんたがそういうこと好きなのはいいけど、ちょっとこの小さな子相手は気が引けるというか倫理的に……」

「そうだよ……それに寄元君って確か峰山ちゃんと……」

「いいじゃん別に。アタシらと同い年なんだし」

「何話してるの?」


 コソコソとボクには分からない隠語で会話している。全く意味が分からなかったが、リーダー格の子が先程から獲物を見つけた肉食動物のような目をしている。


「いや〜何でもないよ! それより……」


 会話がピタリと止まる。途端に彼女は額から汗をかき出し震え出す。


「どうしたの?」

「後ろ……」


 指差した方を振り向くと、そこには笑顔の峰山さんが立っていた。

 口角こそ上げてはいるものの目が笑っていない。ボクに説教する時のものだ。


「ど、どうしたの峰山さん?」


 何か悪いことをしてしまったのだろうかと考えるが、何が原因か分からず取り敢えず縮こまり表情を窺う。


「いえいえ。何やら興味深い話をしているなーって。それであなた……女子三人、男子一人でカラオケに行って、何をするつもりなんですか?

 ぜ ひ と も 教えて欲しいですね」

「い、いえいえ滅相もありません! そういえばアタシ今日用事あったわー! 

 ということでカラオケは今日はなし! はい解散!」


 リーダー格の子は強引に話を切り上げ二人を連れてそそくさと教室から出て行く。


「どうしたんだろう二人とも?」


 三人の様子の急変具合に戸惑うが、その時峰山さんがボクの耳元に口を近づけ囁く。


「生人さん。あなた……わたくしとそこそこの頻度でそういうこともして、もう経験あるんですから、そろそろそっち系の警戒心とかつけてください……!!」

「そういうこと? そっち系? 何それ?」


 相変わらず隠語ばかりの会話で、その意図は伝わってこず首を傾げてしまう。


「はぁ……生人さん。今日の放課後一旦わたくしの部屋に来てください」

「えっ!? ボク今日悪いことしてないよ?」

「良いですから……分かりましたね?」


 この空気は確実に長い説教になる。そしてそういう日の夜は大体すごく疲れることとなる。

 結局始業式が終わるまでその隠語の意味は分からなかった。

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