116話 姉弟? それともカップル?
「まずはこれに乗ってみましょう!」
峰山さんに連れられて来たのは入り口からも見えていたロープウェイだ。
吊り下げられたゴンドラの上にはウサギのマスコットが乗っており、どうやら中に乗り込んでペダルを漕いで進めていくらしい。
日陰の涼しい階段を上がっていき、数人の列に並ぶ。
「こちらへどうぞ。手荷物や貴重品、風に飛ばされる危険性があるものはロッカーにお仕舞いください」
ボク達はスタッフさんの指示に従い荷物を同じロッカーにしまいゴンドラに乗り込む。
「では姉弟仲良く空の旅へ行ってらっしゃい!」
スタッフさんはボク達を家族だと、恐らくは高校生の姉が小学生の弟を遊園地に連れて来たのとでも思ったのだろう。
「やっぱりボク達カップルって見られないね。そんなにボクが子供っぽく見えるのかな?」
ゴンドラの席に座り、ボクは峰山さんとの座高差を目測で確かめる。
ボクの顔がちょうど彼女の胸の高さくらいの位置で、彼女が女子の中でも身長が高い方だということもあってボクの背の低さがより顕著になっている。
「あなたはあなたですのでそんな気にしないでもいいと思いますよ。それにわたくしはそんな可愛らしいあなたが好きですよ」
峰山さんはペダルを漕ぎながらボクの顎を手で掴み揉んでくる。ひんやりとした手でゆっくり深く揉まれたため気持ちがよくふと頬が緩んでしまう。
「でもこんな感じだと本当にボクは君の彼氏なのかなって疑問に思っちゃうんだ」
「周りの目なんて気にしなくていいですよ。あなたにはあなただけの良さがあるんですから。わたくしだけがそれを知ってれば十分です」
「うん……ありがと」
ロープウェイも半分ほどに差し掛かり、この遊園地を五メートルほどの高さから見下ろせる。
ゴーカートだったりお城のような建物のお土産屋さんだったりがある。
そうして微量の風に吹かれて、ボク達は爽やかな気分でこのアトラクションを終える。
「次はどこに行きましょうか?」
「じゃあこの黒鮫っていうジェットコースターに……」
パンフレットを見ながら歩いているとどこからか視線を感じる。
辺りを軽く見渡せば、少し離れたところに二十歳くらいの男性がベンチに座りながらこちらを凝視している。
「ねぇ峰山さん……」
「えぇ気づいてます。誰でしょうか? ちょっと確認してき……」
だが向こうの方から立ち上がりこちらに近づいてくる。
近くで見ると身長や体格が中々良いため少々気圧されてしまう。
「あの……もしかしてラスティーさんですか?」
彼はボクの名前ではなく配信活動名で呼んでくる。
「そうだけど……もしかしてボクのファン?」
「そうなんです!」
彼は目を輝かせながらボクの手を強く握ってくる。憧れが多分に含まれたその瞳にボクの姿が映される。
「実は私ランストを使ってヒーローショーなどをやっていまして。あなたの配信での動きなどを参考にさせてもらっていたんです!」
確かにボクは配信中余程危険がない限りは魅せるための動きをしている。それはアクションなどを織り交ぜたショーに通ずるものもあるのだろう。
「迷惑でなければサイン貰えないでしょうか?」
彼は手帳とボールペンを取り出しそこにサインを求めてくる。ボクはそれを快く了承し手帳を開く。
「あ、最後のページにお願いできますか?」
「うん分かった!」
ページをめくっていく中、この手帳に書かれた数多のメモが一瞬の内に目に入る。ボクの動きから学んだことをショーで活かしており、彼の努力が窺える。
「はい。できたよ!」
「ありがとうございます! あ、よければ昼過ぎからショーがあるのでよければ見にきてください!」
「じゃあお昼食べたら行くよ!」
ボクはファンの人と別れて黒鮫というジェットコースターに乗り込む。
もう既にそこそこ人が並んでいたせいで時間がかかってしまったが、特に問題なくコースターに乗る。
「黒いしこれは鮫のヒレかな?」
安全バーを降ろし、座席についているヒレを触る。ザラザラとしていて本当に鮫のそれのようだ。
「そろそろ出発するみたいですよ。結構迫力があるみたいですから楽しみですね」
「でも峰山さんっていつも空飛んでるから大差ないんじゃないの?」
峰山さんの変身する形態は全て翼で飛ぶことができる。正直ジェットコースターより速いだろう。
そんな経験をしていてはジェットコースターなどあまり刺激的ではないのではとふと考えてしまう。
「そんなこともありませんよ。直接肌で感じる風は段違いです」
「そういうものなんだ。あ、動き出した」
コースターは動き出し、段々と頂上に向けて昇っていく。
「ん? 今何か聞こえなかった?」
頂上の半分ほど来たところで、地上の方から悲鳴のような声が聞こえたような気がする。
他のアトラクションのものかと思ったが、それにしてはなんだか違和感を感じる。
「峰山さん! あれ! ヒーローショーのステージの方!!」
「えっ……? あれは!?」
ステージの方でサタンが暴れていた。遠くで細く形は分からないが、人間と同等のサイズの明らかに人間ではない何かが暴れていた。