115話 いざ遊園地へ
「日向先輩……どうしちゃったんだろ?」
もうすぐ三月も終わろうとしている頃、ボクはできる限り先輩の捜索に尽力したが結局見つかることはなかった。
ボクの能力の限界を超えており、こうなってしまってはあとは警察に任せて祈ることしかできない。
「あー……」
心の奥底にモヤがかかってしまったようで、発散できようにないストレスを抱えそれを吐き出せずにベッドに飛び込み寝転がる。
「生人さん入りますよ」
貴重な春休みをゴロゴロして浪費している中峰山さんが扉を開けて部屋に入ってくる。
「おはよう……何か用?」
「別に用とかはないんですけど、最近生人さんが閉じ籠り気味なのが心配なので」
「ごめんね。別に鬱とかそういうのじゃないんだけど……でも何もできない自分にモヤモヤしてスッキリしないんだ」
話しながらも何か策はないかと考えるが、もう思いつくことは大体やってしまっている。
「生人さん。明日暇ですか?」
「宿題は終わってるしDOの仕事もないから暇だよ」
「じゃあ遊園地に行きましょうか。二人っきりで」
峰山さんは呆れた顔をしながら財布から一枚のチケットを取り出す。
「何これ……遊園地ペアチケット?」
それはここからそう遠くない遊園地のペアチケットだ。
「バレンタインくらいに偶然手に入れたものです。今度一緒に行きましょう」
「うーん……あんまりそういう気分じゃ……」
「外に出ましょう。ずっと部屋の中に居ても気分が落ち込むだけです」
ここ数日は基本的に部屋の中に居た。あまり人と話してもないせいで知らないうちに心に負担がかかっていたのかもしれない。
「そうだよね。いつまでもウジウジしてちゃダメだよね。よし! じゃあ行こう!」
自分を叱責し気分を明るくさせる。元に戻ったボクを見て安心したようで、優しくボクの頭を撫でてくれる。
「ねぇ。前々から思ってたんだけどさ、なんていうかボク達恋人っていうより姉弟って感じじゃない?」
別に嫌ではなかったが、ボク達の関係は街中で見る恋人達などとは幾分か違う気がする。
普通のカップルだったら彼氏を膝の上に乗せたり、こうやって頭を撫でてそこからほっぺたを摘んでムニムニしたりしないはずだ。
「言われてみたらそうかもしれませんね……まぁでもいいじゃないですか。色んな愛情表現の形があったって。
わたくしはこういうこと好きですよ」
峰山さんはベッドに座り、ボクの脇下に手をやり持ち上げて膝の上に乗せる。
「生人さんはいつも頑張ってますかりね。今日はいっぱいわたくしに甘えてください」
その温かい抱擁に癒される。心地良さに段々と意識が遠のいていき、ボクは彼女の胸の中で眠りにつく。
☆☆☆
翌日。天気は良好。遊びに行くのにはもってこいだ。
ボク達二人は前日に準備を済ませておいたので、朝早くから出かけて遊園地には開園三十分前に着く。列はそこそこでその最後尾に並ぶ。
「楽しみですね」
「そうだね! 何に乗る?」
ボクは昨日彼女から貰ったパンフレットを広げる。巨大なジェットコースターに付属のショッピングモール。
ここだけの特徴的なものがたくさんあり見ているだけでわくわくしてくる。
「このサメをモチーフにしたジェットコースターに乗ってみませんか? きっと大迫力ですよ」
パンフレットに書かれている内容によると、高さと回転が凄まじいらしく、そのコースターはこの位置からも見えるほどだ。
まだ開園までには時間があるので列からはみ出ない範囲で園内を覗き込んでみる。
観覧車にロープウェイを模した乗り物。他にも入口の方にはウサギの着ぐるみを着た人がいる。
「あっ、そろそろ開くみたいですよ」
辺りをキョロキョロしている内に開園時間になり、列がどんどん進んでいく。あっという間にボク達は入口の門へと辿り着きそこでチケットを見せて中へ通される。
門を潜った途端見ている景色がガラッと変わったような気がする。世界が明るく、輝いて見える。
目の前、視界いっぱいに広がる遊園地。どこを見ても心が躍らされる。
「じゃあ行きましょうか!」
ボクは峰山さんに手を引っ張られ遊園地を楽しみにいくのだった。