114話 三の上に立つ王
「なんだよあれ……」
奴は先程までなかった翼を背中から生やしている。それに手の爪が引っ込んでおり代わりに鳥類の足特有の鱗と爪があるものになっている。
「まさかあれはうずらなの?」
その特徴は先程握り潰されたうずらに類似している。つまり奴は条件は分からないが他の生物の性質を利用できるということとなる。
変則的で多種多様な攻撃パターンを持つサタン。そう考えると厄介極まりない。
だが奴はこちらには向かってこず飛び立ち山の方へ飛び去っていってしまう。
「なっ!? 待てっ!!」
両腕のドラゴンを飛ばして追尾させるが、奴の四本の羽による推進力の方が速く追いつけない。
「くっ……みんな! サタンが見つかった! 山の方に逃げた! ボクは今から山に向かうからそこで合流しよう!」
ボクは追いかける前に先にみんなに一報入れておく。
返答を聞かずに飛び出し奴を見失わないよう必死に追いかけるが、山に入った辺りで木々で隠れて見失ってしまう。
更には日が沈み暗くなったことで奴を見つけにくくなってしまい、これでは合流するのも一苦労だろう。
「おい! どこに行った!? 出てこい!!」
ボクには寄生虫としてのこの力とヒーローとしての自信がある。だからこそあえて奴を挑発する態度を取り自分に襲いかからせようとする。
何度目かの叫び声の後背後の葉が擦れる音がする。
咄嗟に後ろを振り向き目を凝らす。その時にはもう奴が眼前まで迫ってきており、位置的にも爪を躱すことはできない。
「生人くん伏せて!!」
しかし真横から木々の間を潜り抜けマイクの球体部分が飛んできて奴の顔面を捉える。
[スキルカード ドールアタック]
椎葉さんの両肩に乗っかっていた人形達が動き出し奴の周りを飛び回る。鬱陶しそうに叩き落とすが、その分のダメージは奴に跳ね返る。
「援護ありがとう! 早く仕留めよう!」
「……うん。そうだね」
まだ体調が優れないのか、いつもより動きにキレがない。
それならそれでボクが率先して奴を倒せばいいと割り切りガンガン攻撃していく。
[必殺 ヒートファング]
飛び立とうとする奴を掴み木に叩きつけてから、ここで確実に決められると判断して必殺カードを挿入する。
「これでトドメだっ!!」
龍に押し出され奴は炎の牙に貫かれ全身を灼熱の業火に焼かれる。
ボクは奴が焼け死にカードをドロップしたのを確認したら、山火事にならないようにすぐに炎を消す。
「ふぅ。これで一件落着だね」
カードを拾いデッキケースに仕舞い疲れた体を伸ばす。
「その……ごめんね。君に任せちゃって」
「椎葉さんも体調が悪かったんでしょ? 無理しちゃだめだよ。何かあったらボクに頼ってくれていいから!」
「……ごめんなさい」
いつもの彼女なら笑って返すはずなのだが、今はそんな余裕すらないようだ。
そんな状態の彼女をいつまでも外に居させるわけにもいかず、ボクはみんなに状況を説明してから彼女を帰し、そこから後処理や被害状況の確認などを行う。
「お巡りさん。日向先輩はいましたか?」
その日の深夜。ボクが窓ガラスを割ってしまったこともあり、警察が日向先輩の家まで赴き事情説明などをしようとしたがどれだけチャイムを押しても出てこず、昨夜から行方不明だという旨を伝えると家宅捜査を始めてくれた。
一応名目上はサタンが侵入したことによる悪影響がないかの調査ということだが、ボクはその際に日向先輩の安否も確認してもらえるよう無理を言って頼んでおいた。
「いや、帰った痕跡はないね。中はあの窓以外完全な密室だったし、玄関の鍵らしきものも見つかってない」
「じゃあ先輩はどこに……」
その日は時間が時間なので帰らされ、翌日からボクは学校を休んでまで一人で先輩を探したが、結局一週間、春休みに入っても彼女が見つかることはなかった。