105話 第一部終幕、実った恋路と共に
「それで、昨日はわたくしを誘わず椎葉さんと二人っきりで良いお店に行ったってことでいいんですか?」
後日ボクは峰山さんにDOの待機室にて詰め寄られていた。
昨日の夜何をしていたか聞かれ正直に話した途端に態度が急変したのだ。
「そうだけど……ごめん。やっぱり峰山さんもしゃぶしゃぶ食べたかったよね?」
「いやそういうわけじゃ……はぁ。とにかく初詣行きましょうか」
それからも彼女はどこか不機嫌な感じで、声をかけても口数少なく冷たい。
それでも歩みは止まらず十五分ほどで近くの神社に着く。一月の半ばでそこまで大きな神社でもないので人はあまりいない。
しかしそれでも昔に作られた鳥居などは趣があり美しい。
「生人さん。手が寒いのでちょっと繋いで行きませんか?」
「えっ? う、うん」
ボクは彼女の手を取る。
一瞬躊躇ったのは別に彼女と手を繋ぐのが嫌だからというわけではない。
彼女はこの前手袋をしていたし、性格から考えても手袋を忘れるとも考えづらかったから疑問に思ったのだ。
でも不機嫌にさせてしまった件もあるのでボクは二つ返事で行動に移す。
「生人さんの手温かいですね」
ボクは軽く手を添えるだけのように握ったが、彼女はその真逆で絶対に離さないよう力強く握りしめる。
だからこそ彼女のひんやりした手の温度が伝わってくる。
「あ、お賽銭に着いてしまいましたね」
「財布は……」
ボクが鞄から財布を取り出そうとするものの峰山さんは手を離してくれる気配はない。
「えっと、峰山さん? 手を離してくれないとお金が出せないよ……」
「あっ! す、すみません。ちょっと考え事してて」
すぐに手を離してくれるが、ボクの中に彼女へのある疑惑、というより心配が生まれる。
「もしかして峰山さん、ボクが寄生した時にどこか変なところ障っちゃってそのせいで何か後遺症が残ったりしてる?」
聞くかどうか迷ったが、賽銭を投げ入れこれからのみんなの平和を願った後に尋ねてみる。
「何を言ってるんですか? そんなことありませんよ。あなたの治療は完璧です。特に何事もありません」
「そう……ごめんね? 何だか心配になっちゃって。峰山さん手袋忘れたりそんなミスしない人だから」
彼女は複雑な心境を噛み締めたのか、目元をピクつかせて軽く溜息を吐き出す。
「やっぱり鈍感な生人さんには中々伝わりませんよね。ここまでなんて信じられません」
前にも似たようなことを言われた記憶がある。確かにその通りかもしれないが、こうも面と向かって言われるのはなんだかモヤモヤしてしまう。
「わたくしも勇気を出して前に進みませんとね……生人さん。もう我慢できません。はっきり申し上げます」
彼女は改まって真剣な眼差しでこちらを見つめる。身長差のせいで自然と見下ろされる形となってしまい顔つきも相まって妙な威圧感がある。
「生人さん。わたくしはあなたのことが大好きです」
「ボクも峰山さんのことは大好きだよ!」
分かりきったことを言われボクも日頃の感謝を込めて言い返す。
ボクは彼女と一緒にいることが好きだ。いっぱい話して遊んで、とっても楽しいしそれはボクにとってかけがけのない時間だ。
「やっぱり言葉だけで伝えるのは無理ですか。まぁそんなところも好きになった理由の一つなのですけれどね」
「へ? 何のこ……」
聞き返すよりも先にボクの口は彼女の唇によって塞がれる。
呆気に取られ何が起こったのか分からず息をするのも忘れてしまう。もっとも息をしようにも今はできないのだが。
「ぷはぁ……はぁ……はぁ……これで少しは伝わりましたか? わたくしはこういう意味であなたのことが好きって意味です。つまりは告白です。
返事を聞かせてもらえませんか?」
ここまでされてはいくらボクでも意味は分かる。つまりはボクと恋人関係になりたいということだろう。
ボクには恋人というものがよく分からない。そういう知識には弱く疎い。
でも峰山さんと一緒にいるのは大好きだし、これが異性として好きなのだということかもしれない。
「えっと……ボクもその……」
改めてそう意識してしまうと恥ずかしくなってきて、先程キスをされたこともあって羞恥心が限界まで高まり顔が林檎のようになってしまう。
「ボ、ボクも! 峰山さんのことが好き……これが君と同じ好きなのか分からないけど、ボクはこれからもずっと峰山さんと一緒に居たいとは思ってる」
「それで構いません。分からないことがあるならこれから知っていって経験していけばいいんですから」
「そうだね。ボク達には明日がある。これからもずーっとよろしくね!」
こうしてボク達はこの日から恋人となった。
明日は誰にも分からない。でもせめてボクは諦めずに生きていこうと思う。
そう思える。峰山さん。父さん。風斗さん。椎葉さん。それに田所さんと美咲さん。
みんなのおかげでボクは過去を乗り越え今ここにいれる。だからこの先どんな苦難が、運命が待ち受けていようとまた乗り越えていけるはずだ。
そんな気がしたのだ。