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99話 ヒーロー参上!

 ワープ装着のとこまで辿り着き、ランストをかざし緊急モードに移行させ富士の樹海のすぐ近くの場所をワープ先に設定する。

 足元に光が発生して僕達はそれに包まれて富士の樹海のすぐ側まで転送される……はずだった。

 突然光の色が真っ赤に染まり上がり視界が激しく揺れる。


「きゃっ!? 一体何ですか!?」

「気持ち悪い……何が起こって……」


 自律神経を狂わされ、気がおかしくなりそうになるがそれはすぐに収まってくれる。


「いやーすまないね。こんな乱暴なやり方でここまで来させて」


 視界いっぱいに広がる樹海の木達。360度どこを見渡しても木と苔しかない。そして僕達の目の前にある岩の上に美咲さんが座っていた。

 恐らく僕達がワープ装置でここに来ることを見越してハッキングでもしたのだろう。完全に嵌められたというわけだ。


「美咲さん……僕はあなたを許なさい。ここであなたを倒して、そしてあなたには罪を償ってもらうから」


 だが結局やることは同じだ。僕と峰山さんはランストを装備し変身しようとする。


「まぁ待ちたまえ。一度話し合おうじゃないか。戦うのはそれからでも遅くはないだろう? 安心したまえ罠などは仕掛けていないさ」


 僕達は互いに視線を送り意見を擦り合わせる。スーツカードとアーマーカードを取り出しすぐに変身できるようにして彼女の申し出に応じる。


「ありがとう。生人君ならきっとこの申し出を受け入れてくれると思ってたよ。なんせ君は私に育てられた可愛いモルモットだからね」

「彼へのこれ以上の侮辱は許しません。もし真剣に話し合う気がないのなら……」

「分かったよ。からかう暇もないというのはいささか悲しいものだね」


 美咲さんはつまらなそうに少々不機嫌になりながらも話し合いに本腰を入れる。


「生人君。君はヒーローになりたくて……いやヒーローであり続けるために戦っているってことでいいかい?」

「うん……美咲さんもよく知っているはずだよ。僕は昔からずっとこうだったって」


 美咲さんは十年前の災厄の日からずっと僕のことを側で見守ってくれてきた。

 でもそれは全て僕で実験するためだった。僕に対して親愛の情など抱いてはいなかった。


「昔から? ふ、ふふふ……」


 美咲さんは必死に声を抑えながら小馬鹿にするように笑い出す。それは不快感を与えるものであり、峰山さんに至っては目つきがかなり鋭くなっており今にも変身してしまいそうだ。


「最後にあのことを告げる前に君に一言言っておかないといけないことがある」

「あのこと……言っておくこと?」


 突如として胸が締め付けられ感覚に襲われ不安が心の奥底から湧き上がってくる。


「嘘かと思うかもしれないが、私は本当に心の底から君のことを愛している。君は私の息子同然の大事な家族だ。

 だがそれより私自身の好奇心の方が優先順位が高かったというだけの話なんだ。そこで提案なのだが、私の実験に協力する気はないかい? 君の命の安全は保証するし、また家族として楽しく暮らせればその分私も幸せだ」


 嘘を言っている目ではない。彼女は本当にあの悪意と僕への愛情を同時に孕んでいる。まるで狂気そのものだ。


「僕はヒーローだ。みんなを苦しめて、それに田所さんを殺した美咲さんの仲間になんかならない!」

「そうか……残念だよ。じゃあ大人として君に一つだけ説教でもさせてもらうよ」


 美咲さんは一回深呼吸をし、少し離れた位置関係でも絶対に聞き逃さない声量で話し始める。


「君は昔から私の好奇心を惹きつけるほど純粋な心を持っている……それは数多の人を惹きつけた。そこの彼女もその一人だ」

「何が言いたいんですか?」


 美咲さんは小さく溜息を吐き申し訳なさそうにしながらも話を進める。僕に哀れみの視線をくれながら。


「でも君のそれは綺麗な純粋なものからくるのではない。君の心は空っぽなんだ。

 だから宇宙から飛来した寄生虫が君のその空っぽの心に吸収されて融合してしまった」


 僕が寄生虫としての記憶を失っていた理由。それは僕の過去を鑑みれば嘘ではないことは分かる。


「空っぽだ! だからこそ君は、十年前のあの日サタンに襲われても逃げようとはしなかった! 逃げようと思えば逃げられたというのに!」

「何でそれを……待って……それ以上言わないで!!」


 ここには峰山さんがいる。

 あのことは知られたくない。あれは僕の心の最も繊細な部分、秘密なのだ。それを暴かれたくはない。

 それに何より峰山さんに知られ軽蔑されるのがたまらなく辛く怖い。


「君はあの日自らの命を投げ出そうとした……自殺しようとした!! そんな君が私に命の大切さについて説く資格はあるのか!?」

「自殺……生人さんが?」


 知られてしまった。峰山さんが上手く飲み込めず困惑し、こちらの顔色を何度も窺ってくる。


「いや……違う。僕は確かに命を無駄にしようとした……自分の命を! でも僕はヒーローに助けられたから……だから僕は……」

「ヒーロー? それって……もしかしてこんな姿じゃなかったかい?」


[トライアル レベル1 ready……]


 美咲さんはランストを装着して見たことのない……いや僕だけは見たことがあるあの姿に変身する。

 それは十年前のあの日僕を助けてくれたヒーローの姿だ。

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