97話 風槍vs飛蝗龍
今目の前で峰山さんとキュリアが戦い始める。
明らかに彼女の方が何もかも足りず劣勢だ。だがそれでも彼女はめげずに何度でも立ち上がり奴に食らいつこうとする。
[スキルカード ショックウェーブ]
鎌から放たれる薄くも密度の高い衝撃波も槍から突くように出される突風で掻き消される。彼女がどんな策を練ろうとも奴はそれを上回る応用力で対処してしまう。
「そろそろいいかな。もう準備運動はいいから退いててよ」
キュリアは一瞬で彼女の背後に回り、足を払い転ばせてから首を絞めて気絶させようとする。
「ぐっ……諦めない……絶対に!」
この姿勢になってしまってはもう峰山さんにできることはない。抵抗できずに気を失うしかない。
それでも彼女は諦め悪くもがいて抵抗する。僕を助けるために、ヒーローとして決して諦めない。
僕は何をしているのだろう。友達が目の前で苦しんでいるのに、困っている人が目の前にいるのに何もできない。何かをする気力が出ない。
どうして僕は生きてるんだっけ? 確かヒーローになるために……でも僕は前に大勢人を殺して……
あの時の景色が鮮明に蘇る。街に火を放ったりもした。そこに住む人々に寄生して煽り戦争を促したこともあった。
それらの罪がヒーローになりたいという僕の気持ちを抑えつけ動けなくさせる。
「生人さんは……わたくしのヒーローなんです……絶対に殺させない……!!」
「あ? 知らねーよそっちの都合なんて」
中々気絶しない彼女に痺れを切らし、もう殺す気で一気に首を締め上げる。
どれだけ強い意志があってもいずれ限界はきてしまう。峰山さんは目に涙を浮かべ気を失う。
「さぁ本番といこうぜ。今度の今度こそ邪魔なしでやろうぜ!」
「僕は……ヒーローだ」
「は? 何言ってんだ?」
自分の心の中で復唱していた言葉が自然と口から漏れ出る。キュリアは脈略のない言動に困惑するものの、立ち上がり戦う意志を見せる僕を見れば明らかに機嫌が良くなる。
「ほら変身しろよ。それでどっちが強いか決着をつけようぜ!」
「あぁ……ヒーローとして、僕はお前を倒す」
ランストを装着して震える手で二枚のカードをセットする。
[ラスティー レベル30 ready…… アーマーカード ドラゴンホッパー レベル49 start up……]
全身の血管が浮き上がり蠢き出す。まるで皮膚の下に大量の寄生虫がいるかのように。
「変身っ!!」
体内で蠢く何かを完璧に掌握し、人智を超えた力を引き出す。鎧が体に装着されていき、僕は奴とほとんど同等の力を得る。
[スキルカード 疾風]
[スキルカード 疾風]
互いに牽制し合って、同時に同じスキルカードをセットする。
人智を超えた力を得た速度を更に超える疾風の如き速さ。
蹴りは空を切り裂きその衝撃波で木々の枝や葉が吹き飛ぶ。僕達のぶつかり合う拳は火花を散らす。
「どうした生人!? 寄生虫の力を発揮してもこの程度か!?」
「いやまだだ!」
僕は足に力を込め更に加速する。先程吹き飛んだ枝が地面に落ちるまでに数十回ぶつかり合う。
僕も奴も無傷では済まず互いにダメージを負い動きが鈍くなり始める。
[必殺 ヒートファング]
[必殺 テンペストランス]
僕は高く跳び上がり、両手から放たれる二匹の龍に押されながら奴に蹴りを繰り出す。
奴も負けじと風を纏わせた槍による突きを繰り出しそれらはぶつかり合い激しい音と衝撃を生む。
「僕は負けない……信じてくれる、助けを求める誰かがいるならそれに応えるだけだ! 僕は過去の罪から逃げない……ヒーローとして向き合って戦うんだ!!」
位置関係による優位のおかげだろうか、それとも僕の精神的な成長が後押ししたのだろうか。僕は本来出せる以上の力を引き出す。
みるみるうちに奴は劣勢になっていき、風を跳ね除け奴の胸に蹴りが命中する。背後の龍がそれに合わせて奴に喰らいつく。
「くそぉぉぉぉぉ!!」
そのまま押し出され奴は山道をずり落ちて見えなくなっていく。
数多の激闘やいざこざを得て、やっとキュリアという強敵を倒すことができたのだった。