表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親愛なる友へ送る手紙  作者: はづき
3/4

すれ違い

すれ違ってしまったという事実を、篝サイドで描いた第3話です。

よろしくお願いします。

 篝が退院して2日後、葉月の両親が新年の挨拶をするため自宅を訪ねてきた。帰省中の葉月も一緒に来ると、事前に聞いていた。


 篝は未だに病気のことを葉月に打ち明けられていなかった。葉月の両親は篝から聞いているものだと思い、娘に対して特に何も言うこともなかったのだ。


 倒れる前に比べ体は細くなり、髪の毛はかなり抜けてしまっており、ウィッグをつけていた。遅くなりすぎてしまったが、葉月に打ち明けるチャンスだと、篝はそう思っていた。


 だが、肝心の葉月本人は来なかった。


「篝ちゃん、ごめんねぇ。葉月ったら、仕事の都合で昨日の夜に東京に戻っちゃったのよ。本人もだいぶ残念がってたけど、仕事だからしょうがないって割り切ってたわ……」


「仕方ないですよ。新人教育係のリーダーやってるって言ってたし、準備で色々忙しいんだと思います」


 葉月は社会人になってから、必ずお盆と年末年始は帰省し、必ず篝と会っていた。しかし今回は会えないまま帰ってしまった。


「『お盆は必ず帰ってくる』って言ってたから、それまで篝ちゃんの病気、少し良くなるといいんだけど――」


「はい……退院はしましたけど、まだ治療は続くので。葉月に元気な姿、見せられるように頑張ってきます!」


葉月にはまだ()()()()()のに、素直な思いだけは言えたのだった。


 だが、葉月の両親が帰ってから篝の本音が漏れた。


「葉月、そんなに仕事大変なのかな。今までそんなの、言ったことなかったのに」


仕方ないと思う半分、大変さを信用しがたい半分……五分五分だ。


「……確かに。お盆の時も言ってなかったしね」


 その後、葉月から篝宛に連絡が来た。


『今日行くはずだったんだけど、行けなくてごめん。職場の先輩から電話で呼び出しかかっちゃって……。就活の話、会って聞きたかったな。大学卒業したら、ゆっくり聞かせてください』


葉月へは最終面接までいった、までしか話は進んでいなかった。彼女との時間は、篝が倒れた瞬間に止まってしまったようなもんだ。入院してから、連絡を取り合うのもなくなってしまったから。


(――本当は、休学中なんだよ……)


葉月へまだ言えてなかったのを、今頃になって後悔し始めた篝だった。でも、一歩踏み出す勇気が、なかったのだ……。


☆☆☆


 翌日から通院治療が始まった篝だったが、葉月へ返事できず、来たメッセージをただ眺めることしかできなかった。毎日のように。


 そして2月に入ったある日、高熱を出しぐったりしている篝を職場から帰宅後の輪が発見した。激しい頭痛もあり篝は歩ける状態ではないため、輪が救急車を呼んだ。


――そのまま、再入院となった。


 病院で目を覚ました篝は、また()()()()に戻ってきてしまったんだと、ため息をついていた。


「……また、ここから頑張る。叔母ちゃん」


「うん。さっき愛里加ちゃんにも連絡しといたから。そのうち会いに行きますって。通院の付き添い何回か頼んじゃってたし、お礼しとかないと」


 篝に再び待ち受けていたのは、厳しい治療だ。病院の先生から告げられたのは、骨髄へ湿潤、つまり転移した……。痛み止めの効果が切れると、あちこち痛みが走るのだという。


 再入院後、初の週末。愛里加が訪ねてきた。篝は寝たきりだったが、顔色は良い方だ。


「愛里加ちゃん、いらっしゃい。また入院になっちゃったけど、篝ちゃんの通院付き添い何度かしてくれてありがとうね」


「いいえ。就職先決まって、時間持て余してたんでお役に立てたのなら幸いです。篝ちゃん……急に悪化しちゃったんですね」


「そうねぇ……。明日の仕事の準備あるから、私はここで失礼するね」


輪が病室を出た後、篝が口を開いた。


「……愛里ちゃん」


「何だい? 篝ちゃん?」


「実は、葉月にまだ、言えてなくて――」


輪の前では言い出せなくて、今まで黙っていたのだ。


 それでも、愛里加は驚くような仕草を見せることはなかったが。


「あら、そんなこと気にしてたのか。年末年始に会えたんじゃなかったん?」


「ううん。職場の先輩から呼び出し食らって、予定より2日早く帰ったってさ」


「仕事できる奴は違うなぁ……。めちゃくちゃ頼りにされてるってことじゃん」


 篝の表情は暗かった。


「約束を果たすどころか、このままだと、私は――」


「篝ちゃん。1人じゃないよ。叔母様もいるし私もいる。だから、頑張ろう。葉月ちゃん、成長した篝ちゃんに会えることを信じて、仕事頑張ってるんだし」


ベッドのそばにあるたんすから、愛里加が篝の茶道道具を取り出す。


「……持てるかい?」


篝は愛里加から道具を慎重に受け取った。


「頑張る。絶対に、乗り越える……!」


篝のこのセリフを聞いて、愛里加もひと安心だ。


 この頃大学は、全ての講義が終わり春休みに入っている。輪のほか愛里加や祖父母、紅音達ゼミメンバー……誰かしら篝に会いに来るようになってきたから、日々の辛い治療も乗り越えられてきた。


 このままなら奇跡を起こせる、篝はそう思っていた。


☆☆☆


 3月に入り、大学の卒業式の時期。休学という措置のまま、篝は卒業できなかった。晴れ着を着て会いに来た愛里加や紅音達に対して、羨ましく思っていた篝。それでも、病気を治して1からやり直すつもりで毎日闘っていた。


 篝がそばにいつも置いてあったのは、私物の茶道道具だった。葉月が誕生日プレゼントとして渡してくれたものだ。体が動きそうな時だけ、手に取って眺めていた。


 次第に、抗がん剤の効きが鈍くなってきた。4月になり新年度を迎えると、愛里加や紅音達は入社しそれぞれの道を行き、お見舞いに来れなくなっていた。1人でいることが多くなった篝の病状は、悪化していく一方だった――

第3話、お読みいただきありがとうございました!

次で最終回になります。

タイトルの通り、手紙を送るお話となります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ