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第十七話 亡国の夢1

 私は最近、昔の夢をよく見ます。

 最初は、私自身忘れていた昔の出来事を夢と言う形で思い出しているのだと思っていました。

 けれども、いつしか私が生まれるよりも前の出来事までもが夢に出て来るようになりました。

 もしかすると、フローレンス家に伝わる、一般には知られていない歴史物語を夢として見ていたのかもしれません。

 ですが、ひょっとすると私達の遠いご先祖様が、彼らの生きてきた歴史を忘れるなと、私に夢で伝えているのかもしれません。

 そんな気がします。

 これから語ることは、私が夢に見た、そして王家や一部の貴族に伝わるあまり知られていない歴史のお話です。


◇◇◇


 昔々、今から四百年ほど昔のことです。

 大陸の南に広がる海に浮かぶ島に、小さな国がありました。

 比較的大きな三つの島を中心に、大小無数の小島から成るその島国はグランツ王国、その国土を総称してグランツランドと呼ばれました。

 小さな島国ではありましたが、暖かな海流に乗ってやってくる魚の豊富な漁場と、農業に向いた広い平野はないけれど雨が多く水に恵まれた豊かな自然がありました。

 豊かな海の幸、山の幸に加え、複雑な海流をものともしない航海術を身に付けた彼らは海上交易でも活躍し、国はとても栄えました。


 栄華を誇っていたグランツ王国でしたが、その歴史は突然終焉を迎えました。

 原因は、天変地異でした。

 大きな地震が起こり、幾つかの小島が海に沈みました。

 津波が起こり、多くの人々が海に流されました。

 グランツランドで最も大きな島、主島の中央にある山が、噴火しました。

 人々は船に乗って脱出しましたが、百万人を超えた人口の一割も助かりませんでした。


 どうにか生き延びた人々にも受難はまだまだ続きます。


 余震も収まってきたころ、グランツ王国の状況を調査しましたが、それは酷いものでした。

 グランツランドはすっかりとその形を変えてしまっていました。

 主島の一角は溶岩で焼けただれ、そこから延焼した山火事によって緑豊かな森林は焼失しました。

 水没しなかった小島も多くが海水を被り、火山灰が降り積もり、少ない農耕地が壊滅状態になりました。

 火山灰は海にも降り積もり、海水は濁り、海藻は枯れ、豊かだった漁場は死の海と化しました。

 少なくとも数年間、長ければ数十年間は多くの人々が住まうことは不可能、そう結論付けました。

 その上、噴火が治まった火山もいまだ噴煙を上げ続けていて、いつまた噴火するかも知れません。

 生き延びた人々には、変わり果てた故郷を再建する力はありませんでした。


 故郷を失った人は人はこれからどうするか、話し合いました。

 そして、二つの意見が出ました。

 一つは、大海原に漕ぎ出して、新天地を探すと言う案。

 もう一つは、大陸のどこかに受け入れてもらえる国を探す、もしくは新しく国を興すという案。

 前者は海進派、後者は陸進派と呼ばれ、激論が交わされました。

 島国の海洋国家だったこともあり、海進派が優勢でしたが、一つ問題が発覚しました。

 国民全員を乗せるには船が足りません。

 グランツ王国からの脱出に使用した船の中には、外洋の航行には堪えない小型船も多くありました。

 無理やり全員詰め込んでも、新天地を見つける前に病気や飢えで多くの者が死んでしまうでしょう。

 仕方なく、二手に分かれることにしました。

 海進派の一団は、ありったけの大型船とどうにか外洋を航行できる中型船を総動員して船団を作りました。

 どうにか持ち出すことのできた財貨や小型船を売り払ったお金で買った食糧と水を積めるだけ積み込み、移民船団は出航して行きました。

 その後の彼らの消息は不明です。

 新しい島か、新大陸を見つけたか、それとも海の藻屑と消え去ったか。

 無事新天地に到着して繁栄していることを祈るばかりです。

 一方で、大陸に残った陸進派は、大陸を放浪する生活が始まりました。

 余ったお金や宝物を元手に、どこかに全員で定住できる場所はないかと彷徨い歩くことになりました。


 放浪生活は大変厳しいものになりました。

 七割の者が海へ出ましたが、それでも三万人弱の人がいます。

 全てを一度に受け入れてくれる国は、大陸のどこにもありません。

 小さな村では、一時滞在さえ難しいでしょう。

 そこで、複数のグループに分かれて、少人数でバラバラに移動することにしました。

 そこから先は、苦難の連続でした。

 国を失った放浪の民に、同情して協力してくれる者ばかりではありません。

 よそ者を受け付けない閉鎖的な村もあれば、あの手この手で金品を巻き上げようとする追剥のような村もあります。

 最初に分配した金品だけでは長くは持ちませんので、行商のまねごとをしながら旅をしていましたが、足元を見られて品物を安く買叩かれたり、必要な物を高く売りつけられたりしたこともありました。

 武器を持って追い立てられたこともありました。

 質の悪い相手に捕まって、奴隷同然に働かされた者もいました。

 そんな中、親切な人に助けられることも度々ありました。

 失敗と成功を繰り返しながら、大陸中に広がって行きました。


 やがて一年二年と時が過ぎると、旅をする者が少しずつ減って行きました。

 ある者は事故や病で命を落としました。

 ある者は立ち寄った地で受け入れられ、定住しました。

 ある者は才覚を買われ、国や領主に召し抱えられました。

 ある者は犯罪者として捕まり、投獄されました。

 ある者は行商の仕事が成功し、一定の範囲を巡回するようになりました。

 ある者は賊に襲われその命を失いました。

 ある者は賊に身を堕とし討伐されました。

 失敗したり成功したりして数を減らしながら、それでも彼らの旅は続きました。

 目的は、グランツ王国に代る新たな故郷を作り出すこと。

 そのための方策もありました。

 散り散りバラバラのように見えて、彼らは連絡を取り合っていたのです。

 大陸中に広がって、情報を集めていました。

 彼らの狙い目は、大陸内にあってどこの国にも属していない土地です。

 この大陸にはどこの国も占有していない土地があちこちにあります。

 それぞれ手を出さない理由がありますが、その理由を丹念に調べて行きました。

 他の国にとっては価値の無い土地でも、第二の故郷になるのならばかけがえのない場所になります。

 何か問題があってそこに住めないとしても、その問題を解決する方法を見つけられるかもしれません。

 旅を止めて定住した者も、同胞のために働いていました。

 興味深い情報があれば同胞に知らせ、金銭的に成功していれば資金を提供しました。

 問題を解決するためのアイデアを考えたり、新しい技術を開発したりして旅を続ける仲間に知らせることもありました。


 そして、数年の歳月を費やして候補地が絞られて行きました。

 その最有力候補となったのが、大陸北部に広がる「不毛の大地」でした。

 そこは土壌が悪くて主食となる小麦や野菜の栽培ができなかった場所でした。

 水利は良くても作物が育たなければ畑は作れません。

 他に鉱物資源なども見つからなかったため、どの国も見向きもしなかった場所でした。

 しかし、グランツ王国は農業に適さない小さな島でも、僅かばかりの土地に創意工夫を凝らして畑を作ってきた実績があります。

 さらに、大陸中を渡り歩いて様々な農業の知識と技術を吸収してきました。

 たとえ「不毛の大地」であっても、必ず開拓してみせる。

 そう言えるだけの知識と技術と熱意がありました。


 こうして、第二のグランツランドを求める者達、その第一陣が大陸北部を目指して旅立ったのです。


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