3
僕は異世界に転生できた。
現代ではデブでチビな冴えない高校生。RPGゲームが大好きなだけの根暗オタクだっため友達もいない。当然学校では浮いていたし、そんな自分に良くない連中に目を付けられた。公にならないような範囲で集られ虐げられてきた。非力で気弱な僕にはどうしようもなくなすがままにやられてしまう毎日。
奴隷のように彼らに付き従うある日の出来事だった。学校帰りに僕のお金でファーストフード店に向かう最中の信号で僕達は大型トラックに轢かれてしまった。一瞬の出来事で信号を下を向いたまま歩いていた僕にとっては白黒の横断歩道のコンクリートが現代での最後の光景になった。
次に目を覚ましたのはどこまで続く黒い空間。暗闇というわけではなく、空間自体が果てのない黒い感じだった。死んだ後は天国なんてなく、これからこの空間で過ごしていくのではという恐怖心が湧く。しかし周りを見渡すと最悪だが見知った人間が3人。死ぬ直前まで一緒にいた不良グループの男女だ。彼らも同じく困惑している様子で辺りを見渡しながら喚き散らしている。
そんな中で突然”ポーン”と甲高い通知音のような音が響く。
「”新たな勇者が4名追加されました。光の女神からの祝福を受け取りステータスを割り振ってください”」
機械的な女性の声がどこからともなく響き、各自の目の前の空間に青白いウィンドウ画面が表示される。
「死んだんじゃねーの俺たち?どゆこと?」
「てかこれ凄くなーい?なにこれ新しいスマホの機能?」
少し前にいる不良グループはまだ事態を飲み込めずに混乱している。そんな二人を尻目にリーダー格の金髪長髪のチャラ男が前に出て辺りに響く機械的な女性の声に話しかける。
「勇者?どういう事だよてめー。なんでもいいから説明しろ」
「”説明要求了解しました。勇者543様の質問に回答致します”」
すると自分達の目の前に大きなウィンドウ画面が表示され、説明が続いた。
「”勇者543様から連番で546様までの4名の方は世界レベル7の地球日本で大型物体に追突された衝撃により同時に皆様死亡されました”」
大きなウィンドウには自分達の事故後の映像が映し出された。四人共大きく吹っ飛び、身体がズタズタの血まみれな状態で道路に転がっていた。自分の死体の映像を見て全員血の気が引き、死んだ実感が沸いてくる。
「”世界のバグにより若き生命の運命が断たれた時に救済処置が発動。それにより貴方様方は勇者召喚プログラムによって今ここに呼ばれ現在に至ります”」
「呼ばれてここにって…俺達は一体ここでどうすればいいんだよ!?」
「”はい、続けて説明されていただきます”」
続いて大きなウインドウにはこれまでの流れの様な事がフローチャートとして表示された。
「”まず皆様達にはここで勇者としての準備をしてもらいます。ここでは人間から勇者になってもらう事になります。勇者になられましたらそこからは皆様がこれからの拠点となる光の女神の拠点<キリスタリム>にお送りします”」
すると大きなウィンドウにはSFネトゲのような近未来的都市の情景が映し出される。
「”そこからは拠点で生活してもらいつつ、破滅に向かう異世界の召喚要請に応じて各自で赴き、原因である魔王を討伐していってもらいます”」
今後の軽い説明が終了したところで各自の前にウィンドウ画面が表示される。
「”では準備として早速皆様にはキャラクリエイトをして頂きます。現在皆様の前に出現しているウィンドウ画面でスキル・職業・祝福を選択して頂きます。なお、スキルと職業は後程でも変更する事は出来ますが祝福に関しては基本的に変更する事が出来ません。慎重にご検討下さい”」
「うお…!レベル100とかつえーすげー!なんかゲームみてーで面白そうだな!」
「えー、私ゲームとかやらないから分かんないよー」
金髪長髪の取り巻き二人は軽い感じで緊張感の無いまま適当にウィンドウを弄り始めた。そんな二人を横目にリーダー格のチャラ男は質問を続ける。
「祝福っていうのは何だ?」
「”はい。祝福とは各勇者が基本一つずつしか所持出来ない女神様からの恩恵です。レベルアップで取得出来るスキルとは違い、この場でのみしか習得出来ない勇者としての特別な能力になります。皆様の根源に合わせた祝福候補が一覧としてウィンドウに表示されております”」
説明を聞いた後、少し思案した後横に二人と違って慎重に淡々とウィンドウ画面を操作していく。
軽そうな見た目と違ってこの男は思慮深い狡猾な男だ。そのせいで自分は公にならない絶妙な範囲で彼らの奴隷のような扱いを受けていた。
そんな三人のやり取りを見て、自分も目の前のウィンドウに目を向けた。
今まで最低で今も嫌な連中と一緒だが、それでも夢にまで見たゲームのような世界が広がろうとしている。これまでの説明を後ろで聞いて胸が躍らずにいられなかった。
これから変わるんだ。この夢のような展開が例え本当に夢でもいい。凡人だった自分が勇者として英雄になれる。そんな期待を胸にウィンドウ画面を操作する。
しかしウインドウ画面を弄り続けて気づき驚愕する。
自分には夢のような理想の展開はない事を実感する。
何故かどこまでも冷たい現実がーー
”祝福【残機性】レベル30”