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目尻から涙が零れ落ちるのを感じて意識が戻る。
ゆっくり瞼を開けると窓から差し込む光が涙で歪む。だんだんと意識が覚醒していくのと同時に顔に熱を帯びてゆくのがわかる。
「またかぉ…」
見ている時は実感が無く本気で見ているのだが、過去の黒歴史を急に思い出すように自分の強い願望を夢に見た直後に現実と夢が混ざると一際現実を実感し、自分の甘い幻想に激しい羞恥心が襲い掛かってとにかく悶える。
「伝説の聖剣勇者に信頼出来る本物の仲間!?そして何より僕の好みが凝縮したヒロインがああああ!!」
クリーム色の美しい長髪、柔らかで可愛い容姿、全てを肯定して包み込んでくれる巨乳癒し系美少女という夢の僧侶姫は自分の性癖好みがぎっちり詰まった妄想の権化だった。
仲間達も友情に厚く、損得関係なく常に助け笑い合ってお互いを尊重する者達。
「ははっ…現実じゃあ到底無理な僕の理想かぁ…恥ずかしいし我に返ると空しいなぁ」
そう、現実では無理なのだ、無理だった。
どこまでも厳しい現実。
”勇者にはなれた”…が、運命と現実がとにかく厳しかったのだ。
ピコンと音と共にメッセージウインドウが目の前の空間に出現する。
『件名:殺すぞ豚。寝てねぇで早くこいや囮野郎』
メッセージを見て急いで外に出ると待っていたのは4人の男女達。
「おーやっと来たか豚くーん、遅刻するなんてパーティ行動であっては駄目な事じゃん?」
四人の前に着くとニヤニヤしながら真っ先に絡んできたのが金髪長髪のいかにもチャラ男といえる風貌の青年。
「ぎゃはは!動きトロ過ぎでマジの豚じゃね?」
「きもー。つーかアタシら待たせんじゃねーよ糞デブ」
その後ろにも派手な風貌の男女二人から罵倒飛んでくる。
「ご…ごめん…!」
頭を下げて謝る肩にズシン…!と無造作にのしかかる重い腕。
「豚くーん?あんまし調子乗ってるとマジでまた殺しちゃうよ?」
背中に携える大きな大剣を見せつけ脅す言葉に身がすくむ。自分の怯える様子を見て後ろの2人は更に嘲笑の笑い声をあげる。
そう…脅しではないのだ。
自分は簡単に殺されてしまうし、相手も気分次第で気軽に殺してくる。高レベルの武具を振りかざし、レベル100のステータスの力で一撃で。
何故彼らはそんな非道な事を平気で出来るのか。
倫理観がズレてしまったのか?それもあるだろう。しかしそれでも相手を見て彼らも力を振るっている。
ゲームのように命を弄ばれるのは自分だけだ。
異世界転生ボーナスによる神様の贈り物のせいで。