7.新たな力
「しかしまあ、真っ黒だなこれは……」
「折角ゴテゴテしたデザインだから金属っぽくしてみたが、金とか銀は流石に嫌だからな」
「そりゃあそうだな。しかしいい顔料が手に入ったもんだな。皮素材と相性がいいし、多少とは言え発見されづらくなる効果付き」
「ああ、陰精系の石を使ってるからな。黒くする為に使っただけなんだが、偶々って所だ」
「なるほど、さてじゃあ魔物狩りの話だがな一応俺はこれでも忙しい身だから、うちの者に案内させる。ちなみに真昼間から狩りをしたいって気持ちはあるか?」
「いや、昼日中にこんな鞭剣振り回してたら、幾ら変装してたって目立つだろ。だからと言って碌な防具も装備できないのに<蹴り>だけで魔物でやりあうのもぞっとしない」
「だろうな。だがお前がこれから狩りたい賊って奴は昼間何食わぬ顔で魔物を狩り、夜は他人を狩る生活だ。昼生産に勤しんでるお前が追いつくには結構な努力が必要になる」
「まあそりゃ道理だな。外道でも鍛えてる奴を出し抜こうと思ったら、こっちはもっと頭を使った上で努力しなけりゃどうしようもない」
「本来は効率狩りなんてものは推奨しない。なぜなら熟練度とは別の戦闘経験そのものが偏るからな」
「でもそれをしなけりゃ俺は追いつけないって事なんだろ?理解したよ」
「いくつか方法はある。しかしお前が倒せる相手には限りがある」
「相性って事か?」
「ああ、まず接近戦が苦手なお前に足の速い魔物は不向きだ。だからと言って足の遅い魔物は何らかの形で防御手段を持ってるもんだ。鞭剣で貫けるかって言うとかなり難しい」
「八方塞じゃねぇか。笑うしかないな」
「まあ、魔物狩りには向いてない武器ってだけさ。それでまずは雑魚を無限狩りからはじめようと思うが、いいか?」
「いいか?ってそれしか方法無いんだったら、別に文句は無いぞ」
「もう少し強くなれば手段も増えるんだが、まず底上げって事になる。当面作業のように魔物を狩り続ける事になるぞ」
「文句無いって言ってるだろ」
「そうか、じゃあ行って来い。あとは現地に行ってからの方が分りやすいだろう」
そして、音も無く現れた小柄な女に連れて行かれ【王都】の外へ。
PKが待ち構えてるんじゃないかとかなり警戒したが、どうやらこの小柄な女はそういう探知系に優れてるようで、平気で進んでいく。
そして、ある程度歩いた所で、周りに誰もいない事を確認したのか、説明を始める。
「じゃあ<練金>で作れる〔光石〕は持ってきた?」
「ああ、用意するように言われたからそれなりの数持ってきたぞ」
「これから、それを使う。すると虫系魔物が大量に現れるから片っ端から斬る。鞭剣なら範囲攻撃可能だし、一度に倒せる数は多い。光に夢中な虫を離れた位置から一方的に虐殺。その内、虫を捕食する魔物が出てくるから戦うかどうかは任せる。接近戦は苦手って聞いてるけど、多少の経験も必要」
「分りやすい説明で助かるよ。つまりまだ弱い俺は更に弱い雑魚を大量に狩り続けて質より量で熟練度を底上げしろっていうんだろ?」
「正解。じゃあ後は任せるから、私は少し離れて周囲を警戒しておく」
そう言うとすぐに夜の闇に消えてしまったので、自分は〔光石〕に光を灯して、そこらに捨て置く。
〔光石〕は<練金>じゃ最初に作るそれこそ熟練度稼ぎ用の道具。
作っては店売りして殆ど儲けも出ない代物だが、都や街の夜の明かりに使われる物らしく、消耗品なので値段は安定してて素材の供給も無限にある。
まさかそんな代物が無限雑魚狩り用に使われるとは……。
しかし、確かに変な気配があるなと思えば、小鳥サイズのの羽虫が大量に寄ってきたので、鞭剣で斬りおとす。
一回振れば、五匹でも十匹でも、落っこちるのであっという間に〔光石〕の周りは虫で埋り、光が見えなくなった所で、次の〔光石〕を投げ捨てる。
その内、よく見れば地面を歩く虫もいる事に気が付き、そいつらもついでに斬る。
最早、虫だらけで種類なんか分らないが、そもそも虫に興味ないし、どうでもいい。
完全に作業ゲーになってきた所で、思わぬ敵が襲来。
適当に鞭剣を振っていたのがいけなかった。そいつに掠って、こちらに標的を変えて襲い掛かってきたと思った瞬間には、
一気に距離を詰められ、迎撃が間に合わず噛み付かれる。
とっさに膝蹴りで突き放し、
<掃蹴術> 火喰
更に蹴り飛ばすと、その場で動かなくなったが、よく見ると蝙蝠型の魔物だったらしい。噛み付かれたのは血でも吸われたのかな?
状態異常は出てなかったので、そのまま狩りを続行。
再び現れた蝙蝠は近づかれる前に鞭剣で迎撃。取り敢えず一発当ててしまえば、落ちるので、再び飛ぶ前に倒してしまえばいい。
あとは本当の作業ゲーだ。まあ元々<練金>で山程〔光石〕を作るっていう作業を潜り抜けてる自分からすれば、広い空間で鞭剣を振り回してる方が気分も良いし、偶には悪くない。
まあ今後これが続くらしいが……。
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【王国】クラン『Kingdom Knights』
「ふう、完成……。やっぱり土精と石精は正解か?んじゃあちょっと試しに……」
「ハイ!ちょっと待った実験をこんな所でやったら、いざと言う時片付けどうするんだよ」
「いや今回はバフのつもりで作ったから、大丈夫じゃないか?」
「つ・も・りだろ?いいから何も無い所でやれよ」
そう言われて、誰も使ってない訓練場で実験開始。ちなみに何で誰も使ってないかと言うと、皆それぞれのジョブの【訓練】っていうクエストがあるから。
じゃあなんでクランホームに訓練場があるかって言うと、一応『騎士団』だからっていう見た目の問題。
偶に集合場所に使ったりはするけどね。狩りに行く前の作戦会議の時とか。
一呼吸して落ち着いた所で、土石の容器に精神力を流せば、大成功!
生命力と精神力と物理防御にバフが乗ってさらにノックバック耐性まで付いてる。
試しにちょっと動いてみようと思うが、遅い……。
自重で潰れるような事は無いが、動作の遅さから言って総金属どころじゃない。
多分総金属を装備できるほどの筋力が無い自分が使ってるからこうなるのだろうが、こりゃ完全に足止めて防御する用かな~。
物は試しにその場で<蹴り>を使ってみると、一応蹴れない事はない。
これは<蹴り>のスキル熟練度が蹴り動作のフォローはをしてくれてると見るべきか?
まあスピードは見れたもんじゃないが、スピード×重さが衝撃だとしたら、まあ足し引きゼロなんじゃなかろうか?
そう思い込まないと慰めが無い。
少し動く練習をしながら考え事に没頭する。
これで取り敢えず、氷水、土石と作れたが、問題は火と風だがこの二つは混ぜると爆発する。
多分足りない精霊の力があるんだろうな~。なにしろ変な精霊いっぱいだからな。
火水土風は分る。陽と陰は光と闇だと思えばこれもまあ分る。木……無くはないけどドルイドみたいな植物使い専用じゃないの?って感じもする。
氷と石はなんなん?水と土でいいじゃん!まあこうやって混ぜて使えるんだけどさ!
しかし他の精霊って何なんだろうな~。五行で行けば金とか?土じゃんって気もするけど五行なら土と金は別もんだもんな。
でもそうなると金の近似も探すのか……考えたくねぇ。木だってよく分からないし……。
しかも四属性は相反に対して五行は循環だからな~。<練金>なら四属性の様な気がするんだよな。
「あれ?爆発して無いじゃん?」
「だから今日はバフの実験だって言っただろうが、結果としては色々動いてみないといけなかったし、ここで実験して良かったけどな」
「ふ~んそれで、今は何の考え事だ?」
「ああ、他の精霊って何がいるのかなってさ。特に火と風の近似精霊が全く思い当たらなくて」
「なるほどな~全く思いつかないな」
「全く興味ないなの間違いじゃないか?」
「悪気は無いんだが、やっぱり無理して興味を持つってのは中々難しいもんだな。ところで聞いたか?」
「何をだよ。いつも急に聞いてくるが、俺は噂とかそういうのに疎いんだよ」
「悪い悪い!なんか魔将とか言うのが復活するから【帝国】の隊長と共同作戦らしい。古の巫女?とか言うのが、命と引き換えに封印したらしいだけど、魔将が復活するからその古の巫女の子孫の力が必要らしくてさ。なんか隊長こっちに向かってるらしいぜ!」
「らしいだらけで逆によく分からないんだよ噂ってやつは。それでお前のポイントはどこなんだよ」
「え?魔将と戦うって事は敵は将だから集団戦だろうし出番あるかなって事かな」
「じゃあ、魔将が復活するって話だから近々集団戦があるかもよ!でいいじゃないか」
「そう言われればそうだな。まあでも他にもポイントはあるぞ!将って事は1000人戦闘かもしれないって噂があってだな。そんなのできる奴いないだろ?普通にやれば負け戦だし、特殊任務みたいなのもあるかもしれないじゃないか!そうなると最強揃い踏みって事もあるかもしれないじゃないか!」
「今度はかもしれない攻撃かよ……。最強って言うとうちのマスターに隊長に最強のPKに……」
「【闘技場】最強ガイヤと最強とは言われてないけど最長射程ビエーラと旦那のカヴァリー」
「旦那のカヴァリーは何で最強なんだ?」
「知らないのかよ?元々β組のビエーラ白い黒神が有名だったんだけど、正式オープンから始めた旦那は変な生き物に乗って跳び回りながらすれ違いざまに首を狩っていくから最近裏では『首狩り騎兵』って呼ばれ始めてるんだぜ」
「そりゃまた物騒な二つ名だな」
「まあな~でも一番やばいのは、夫婦揃った時だぜ!変な生き物の後ろに乗った白い黒神が移動狙撃して来るんだ。じゃなけりゃ白い黒神率いるクラン『六華』の矢の嵐の中でも平気で走り回れるらしいぞ首狩り騎兵はよ」
「フレンドリーファイヤは無いのか?術やなんかだと敵味方認識はあるけど、確か精霊と契約してるからコントロールが効いてるって言う設定の筈だぞ?何しろ<練金>にそんな敵味方の区別は無い、攻撃は全部誰にでも当るし、バフはある程度相手選べるか?」
「<練金>の場合のバフは大体使用した本人が対象だもんな。ソロプレイヤーがセルフバフで使う位しか使い道ないよな」
「そういうお前に、見せてやろう。これが新開発した樽爆弾に変わる武器だ!このサイズで大樽爆弾顔負けの大爆発。俺じゃ投げても飛距離が足りなくて実質自爆になる」
「……やっぱりお前おかしいよ……自爆する道具をそんなに嬉しそうに見せられて俺……なんてコメントすればいいんだよ」
「もっと量産できる体制が整ったら<投擲>を鍛えて擲弾兵になれるじゃないか」
「お~!確かに!接近戦出来ないお前に遂に光明が射したか!じゃあやっぱり他の精霊の事も真面目に考えないとな!そうだな…………」
「いやそんな無理しないでも、なんか思いついたらでいいぞ」
「……きたきたきたきた!思いついた!」
「まじかよ……何でそんな簡単に」
「あれだ!ガイヤだよ!確か【海国】でなんかの大型ボスを倒して炎の巫女から雷炎の巫女になったって一時期噂になってた!ただ結局炎の巫女で通ってるから、据え置きらしいけど」
「……まじかよ……噂も馬鹿にならねぇな!雷精はありそうだな。石よりは絶対それっぽいぞ!」
「雷って言うと風の仲間って事になるのかね?」
「雷風って訳か、ありそうだな風神雷神とか疾風雷神みたいな言い方もあるし、スピード特化って事か?」
「分んないけど、他の普通のゲームのイメージだと風魔法で雷使えたりとかあるじゃん?」
「風から生じるって言うんだと火もなんか似てるけどな」
「そうか?まあその辺の属性みたいなのは俺はよく分んないけどよ。一緒に魔物狩りとか出来るようになったらいいな」
「ああそうだな」
次は雷精を探すか……。状況はいい方に進んでるか?
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【王国】秘密基地-夜-
誰もいない空間でひたすら鞭剣を振り回す。
時折魔物を狩り、溜まった熟練度を【訓練】で血肉に変える。
実際の理屈はよく分らないが、大凡そういう事だと勝手に思ってる。魔物狩りと【訓練】が強くなるための両輪って事は間違いないだろう。
今は土石発動したままでの鞭剣【訓練】に集中している。何しろ鞭剣は基本精神力で動かしているから、自分の動きが少しくらい遅くてもどうにでもなる。
勿論、ちゃんと操るには自分の腕のスピードやボディコントロールも必要になるのだが、その辺は<練金>で鍛えた器用さと日々の【訓練】が効いてると思っておこう。
しかし、土石発動状態だと動きは遅くなるが、代わりに体が振られる事がなくなり、かなり攻撃が安定する。
これなら多少無茶な連撃も可能になるだろうと色々実験中。
正直この状態なら、両手でそれぞれ鞭剣も振り回せるかもしれない。かなり勢いをつけた攻撃でも体が持っていかれないから、一撃の重さが段違いだ。
一応負傷した時のためにどちらの手でも操れるように【訓練】しているが、両手同時だと、どうなるのだろうか?
物は試しと思ったが、二刀流系のスキルやアビリティをまだ持ってなかったのを思い出し、思いとどまった。
焦っても仕方が無い、ずっと【訓練】してきたが、結局日々の積み重ねが一番効果がある。
「よう……いい感じに仕上がってきたな」
「ああ、新たなバフで安定感が出たんでね。でもその分動きは遅くなる」
「みたいだな。状況に合わせて使い分けるしかないだろう。その為のベルトなんだろ?」
「上手く隠せるようになったのか?」
「いつも言ってるだろ。見た目が特徴的なほどその特徴に目が行って、他の物はよく見えなくなるのさ」
人形に着せられた状態のハリボテの皮服は少しゴテゴテが落ち着いてスレンダーになったが、全体的に鳥感が凄い増した。
そして肝心のベルトだが、外側だけ意匠に合わせて作った所為か寧ろサイズが大きくなっている。
内側はそのままだし、操作には問題ない。
変なでっかいベルトの鳥人間。確かにこれだけ分けわかんない要素が詰まってれば正体が割れずに済むか?
基本は氷水、必要に応じて土石に切り替え、同時セットも出来る様だがその分稼働時間が減ることは間違いない。
そうなったらなったで、鞭剣に仕込んだ氷水で凌ぐけどな。
「悪い感じじゃない」
「そうか、だが状況は悪い感じだぞ」
次週予告
順調にパワーアップを果たした復讐者
しかし悪は安寧の時を与えてくれない
統制の取れない悪が群れて『仲間』達に襲い掛かる