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6.正義

 「あの餓鬼共はどうなったの?」


 「まあ、一応それなりに身分のある家柄だしな。表沙汰には出来ん。だからお前みたいなのが十分に恐怖を味あわせてくれたお陰で、当分は大人しくなりそうだ」


 「そう、結局当分程度の事か」


 自分がPKにやられた恐怖はずっと心に巣くってるって言うのにな。


 「ふん……さて報酬だが、金はまあ<練金>で随分稼いでるだろうし、納得いくものじゃなかろうが……」


 「自分にとっては周りを気にせず【訓練】出来る環境と、戦い方を教えてもらっただけで十分だよ」


 「そうは言うが、それに俺が甘えたらあっという間に信頼ってのは崩れちまうもんさ。そうしょっちゅう頼むような仕事じゃないが、信頼できる相手は一人でも多い方がいい。っつうわけで、これを受け取れ」


 そうして渡されたのは、なんか普通の皮の篭手。指先は開いてるから指が動きづらいとかは全く無いけど、なんだろ?ちょっとはちゃんと防具装備しろってことか?


 でも今後PKKやる事になったら逃走スピードが大事になるからって、軽装にしたんじゃなかったか?


 「これでどうしろっての?」


 「それは〔盗賊の篭手〕っつう表にゃ出回らない代物だ。そいつを装備した状態で相手に触れて<強奪>スキルを発動。尚且つ、奪う物を明確にイメージできないといけないんで、他人から物を盗むなんてのはそう簡単な事じゃない」


 「じゃあ、次の仕事はスリだってか?」


 「ふん!そんなもん誰が頼むかよ。ニューターの賊は映像を残すだろ?そいつを奪うのに必要じゃないか?」


 なるほど、ニューターつまりプレイヤーはPK時に映像を残して、PKサイトにアップする。


 そうする事で報酬を得ているわけだが、確かに他人が持ってるアイテムを奪うなんて事はスキルでもなきゃ出来ない。


 非合法には非合法をか……。


 PKサイトを運営してる奴を潰せればかなり資金源は削れるし助かるんだがな。そもそも普通のプレイヤーを狩ってもちょろっと金を落とすだけ。


 逆にPK共はPKを繰り返せば繰り返すほど落とす財が増えていく。じゃあ財がそもそも無かったら、どうなるか……。このゲームには逮捕って概念があるからな~早々試せないよな。


 そんなリスクを負ってでもPKをやるのは、きっと弱者をいたぶるのが楽しいからか、強者を罠にはめるのが快感だからか。


 いずれにせよ自分がやり返されると思ってない想像力の欠如してる奴らをいずれ刈り取る。


 その時恐怖を与える練習のためにも、この仕事は悪くない。


 「じゃあ、あの皮服?に合わせて上手く偽装しないとな」


 「ああ、あまり大きく形は変えられない代物なんで、寧ろそのつもりであの皮服も作ってあるぞ」


 「ふぅん……塗装とかも無理なのか?」


 「可能だぜ。色塗るか?」

 

 「ああ、そもそもなんであんなゴテゴテした形なんだかと思ってたんだわ」


 「ヒトってのは特長的であればあるほど、そこに目がいって他の事を覚えてないもんだからな」


 「詐欺師の手口じゃねぇか。碌なもんじゃないな。でもまあ丁度いい。ちと特殊な塗料を仕入れてくるわ」


 「分かった。その塗料っての持ってくれば、ちゃんと塗装はこっちでやるし、メンテもできるから安心しろ」


 「そういや、今回借りたままの鞭剣でやったが、こいつもアップグレードできるのか?」


 「勿論、何でもかんでもと言うわけにはいかないが、頼める当てはある。とは言え、なんにしても素材次第だな。狩りでもやってみるか?実用テストは今回済んだんだしな」


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【海国】嵐の岬クランホーム


 「ねぇ!聞いた!海賊港に出たって!なんなんだろうね!こんなニュースが出回るなんて初めてなんだけど、なんかのイベントの前触れかな?」


 「え?いや、自分は例の道具が出来たって聞いてきただけなんだけど」


 「えぇぇ……ノリ悪い~。たまには自分の研究以外の事も興味持ったほうがいいよ!じゃないとすぐ行き詰っちゃうんだから」


 「ああ、自分のクランでもそれは言われるけど、黒い怪鳥だっけ?【王国】でも噂になってたよPKKがPKに追われてるってさ」


 「え~おんなじ二つ名じゃん。でもこっちのは正義のヒーローなんだよ!人知れず悪を裁く黒いヒーロー!」


 「いや人知れず裁いちゃ駄目じゃん。そもそも黒いヒーローとやらは相手が何で悪だと決めてるんだよ」


 「そうだけど~でも単独で何十人もの相手をなぎ倒すらしいよ?しかも黒い総金属っぽいのに、滅茶苦茶身軽で、足も速くて、太陽を直接見たかのような神々しい光と共に光臨するから、多分霊鳥の使いじゃないかって言われてるんだよ!」


 「なんーーーっじゃそりゃ!そもそも霊鳥って何?」


 「私も直接見た事無いけど、このゲーム内の土着の信仰対象で陽精の力を宿すと言われてる鳥で、世界を守る一柱らしいからある意味精霊と同格と見られてるのかもね」


 「何で神の使いが【海国】の倉庫でヒトを薙ぎ倒してるんだよ!それも何十人とか言ってるけど、どうせその辺は盛ってるんじゃないのか?」


 「え~そんなの私に聞かれたって知らないし~タダの噂だし~」


 「いやなんでそんな具体的な様で、色々盛ってそうな噂が流れるんだよ」


 「知らないの?新聞に書いてあったらしいよ?毎日家に届くやつじゃないけど、雑貨屋さんとかに売ってるやつ」


 「まじかよ。新聞なんてもん気にした事も無かったわ……」


 「だからもっと他も見てみなって言ってんの!さて、じゃあアンタの得意な話に移ろうか」


 そう言って取り出すのは自分が使ってる容器よりもう少し長いペンライト程度の筒とベルトとなんかの布?


 「なんか色々出てきたが、全部必要な物なのか?」


 「まあ、そう焦らないの!まずこの筒がご依頼の品だね。まあアンタから預かった容器を徹底的に調べたけど、ありゃ随分と凝った代物だね~」


 「容器?アレは中の精霊の力で変質しないようにプラチナベースで特殊金属にして、徹底的に丈夫にした物だが?」


 「そうだね。私はてっきり中の液は使い切りなのかと思ったら、アレはあくまで凝縮した精霊の力で、流し込んだ精神力で精霊の力を引き出すもので、液自体はあのままなのね」


 「ああ、初めはぶっかけて試したりしたが、そういう類の物じゃないのは確かだな」


 「うん……金貨数百枚するものをぶっかけて使うあんたの神経を今全力で疑ってるよ。デモね上手くすればそういう類の物に変質させる事も出来るのだよ!」


 「なっ!本当か?分かったその方法も買おう!凄い発見だぞそれは!他の精霊の力の使い道も……」


 「ハイ!ストップ!使い方を言うとね。とにかく薄めずに広げるって感じかな」


 「どういう事だ?」


 「例えばガソリンって燃えるじゃない。でも燃えてるのは揮発した部分で液が燃えてるってのはまた違わない?」


 「ああ、そうなのかな?どうだろう」


 「そうなのよ。だからそれも液は燃えないのは分かってるんでしょ?」


 「液は変わらないな。揮発させて使うって事か?」


 「NO!化学物質じゃないんだからそうはいかない。私達が精神力っていってるこれを満遍なく上手く流して爆発させる必要がある。つまり別の媒介に染み込ませて使うが正解」


 「なるほどね~性質変化の事は分かった。それでそいつの構造は?」


 「うん、まずこのスイッチを押すとアンタから預かった術士の石とさっきの媒介がぶつかって精神力が流れ込む。あとは十分に満遍なく回ると爆発するっていう簡単な仕掛け。ほんの数秒で爆発するけど、何度も実験するにはお金がね。アレだからさ」


 「そうか……それでその筒もプラチナで出来てるのか?」


 「んな訳あるかい!投げるんだから消耗品でしょ?ギリギリ中身が勝手に反応しない程度の代物よ!それでも作るの結構かかったんだから!」


 「ああ、じゃあ溶液込みで、結構な値段になっちまうな。切り札用か」


 「いや、染み込ませて使うんだから数滴よ。まあそれでも金貨100枚位にはなっちゃうかもだけど!」


 「そうか!何とか使えなくも無いレベルじゃん!いやコレは助かる!」


 「あっそうなの?まあいいや。それは試作品ね。レシピも一緒に渡すからあとはお好きにどうぞ」


 「ああ、それで金額は幾らになる?これ一個で金貨100枚じゃ、研究費用は相当な物だろう」

 

 「う……ん、あの術士の石で手を打とう」


 「あのって、実験用で渡したやつだろ?アレはこっちの必要経費だから成功報酬は別でいいぞ」


 「(えぇぇ……【砂国】の術士プレイヤーに見せたらこぞって、全財産はたくとか平気で言ってたのに、この人本当に意味わかんない)」


 「どうかしたか?」


 「ああ、いや。それでついでにこれも作ってみたんだけど、感想聞かせて欲しいのよ」


 「ついでにって……」


 「前に言ったでしょ!私を動かすのは好奇心だって!アンタのその容器そのまま上手く使えないかなって考えた結果できた試作品」


 「え?握りこまなきゃ使えない物をベルトで???」


 「要は必要な精神力を流し込めればいいんでしょ!こっちのベルトにはアンタから預かった術士の石の中でも一番精神力を溜めておける物が入ってるの。だから反対側に容器を指して連結すれば!」


 「自分が燃える?」


 「なんでやねん!氷水だよ!アンタ使い勝手が悪いからって折角実用のバフ効果をふいにしてるじゃん!だからベルトに刺しておいて戦闘の時だけ石と連結させて起動すれば手が空いた状態で、自分にバフが掛けられるでしょ!」


 「でも、手に握るから自分全体に掛けられるんであって、ベルトだけバフ掛けてどうすんの?」


 「それでこの服だよ!見たまえ!これを着ておけば効果が体に触れるからちゃんと意味があるだろう!」


 「ああ、何か敷き物かなって思ってた。それ服だったんだな。それにしてはなんかこう……服っぽくない」


 「何を言う!あの噂の隊長も愛用していると言う全身タイツ様だぞ!ベルトとセットでこれを着ておけば、耐性と回復バフが乗ったままになるって寸法よ!問題があるとすればあんた生産職だから戦わないかもしれないけど」


 「いや、これは凄いな。術士の石が溜め込んでる精神力が切れるまではずっと使えるし、そもそも術士の石は日常の余剰精神力を勝手に溜めておくもんだし。悪くは無いんじゃないか?」


 「でしょう!術とかだと込める精神力量で力の増減できるけど、この溶液はONとOFFしかないんだから、こういう単純な装置がいいのよ!」


 「ただ、一点言うと全身タイツを愛用してるって変態じゃないか?」


 「まあ、やっぱり頭一つ抜けてる人って、ちょっと変だからさ」


 「あと取り付けられるスロットが他にもあるのは、何でだ?」


 「う~ん、これはあくまで予想だけど、近似の精霊でバフ効果に転化してるっぽいじゃん?だから火とか土とかもバフ効果作れるんじゃないかって思って、念の為の拡張用」


 「そうか、今迄攻撃に使える道具のイメージで実験してたから、あまり考えてこなかったけど、こういう装備が出来るなら、研究するのもありか」


 「一本作るコストが高すぎてあまり勝手なことは言えないけどさ。土精と石精は近似で確定じゃない?なんかNPCからそういう話聞いたことあるし」


 「言われれば、そうだよな。もしその二つがバフに転換した場合。生命力精神力の最大値にバフと物理防御バフが付くか」


 「石精は重量も増加するけどね!」


 「あっそうか!それもバフ扱いになるのか!ノックバックに強くなったり重量武器を扱う場合に攻撃力が増したりするんだもんな」


 「うん、言ってて思ったけど、氷水と土石、両方使う場合と片方しか使わない場合と出てくるよね。その辺もう少し考えないと!まあそれは試作品だからもしアンタがその気なら更にアップグレードの研究も進めるよ?」


 「それはありがたい!他にも作りたいものはあるだろうから、合間でいいから進めてくれると助かる。それで……」


 「一応今回は全部込み込みパックだから、もし開発費が足りない時はまた連絡するよ!あんた所属は?」


 「一応『Kingdom Knights』に連絡してくれれば、大抵いる」


 「えええええ!アンタ『騎士団』だったの!全然騎士っぽくないじゃん!」


 「まあ、そりゃ<練金>メインだし……」


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【海国】秘密基地-夜-


 「くそ!朝刊に間に合わなかったぜ!」


 「まずい事って、噂がばら撒かれる事だったんだな。想像もしてなかったわ」


 「ああ、逆にあいつらの正体が大事にならずに済んだってのが不幸中の幸いだな。本当にそれ位しか救いが無い状況だぜ」


 「ああ、随分身なりが良かったし、また表に出しちゃいけない件だったんだろ?それであの女何者だ?」


 「朝刊書く時点で察しが付くだろ?新聞記者だよ。どこにでも現れて、足跡も残さず消える厄介な相手だ。寧ろよく見つけたな」


 「多分陽精で、目が見えなかったんじゃない?寧ろ碌に見えなくてもあのスピードで逃げ切るのは確かに化け物だけど」


 予想外の事態にお互い言葉を失ってると、ボンゴレパスタが運ばれてきたので、取り敢えず食べる事に……。

 

 「なんか記事を見る限り、ヒーローだとか勝手に持ち上げられてるらしいが、どうする?」


 「どうするって、そっちが依頼主だろ。服装変えろってなら別にそれでいいが」


 「ふむ、お前とこうして仕事してそれなりに経つが、一応裏ではこの格好は既にある程度知れ渡ってるし、恐怖の対象にもなってる」


 「ふん、どうせ復讐の対象にもなってるんだろ?賊にやられたから、やり返して今度は賊に追われて逃げる。どうしようもない連鎖だ」


 「だが突き抜ければ、そんな事も無くなる。【帝国】の死神紳士って知ってるか?」


 「いや初耳」


 「ふん、裏社会じゃその名前を聞いて震え上がらない内は半人前以下って言われる本当の畏怖の対象さ」


 そんなのヒトもいるのか、それこそ自分の目標に近いな。


 「そうだ。装備変更の事で相談なんだが、変えるにしろ変えないにしろ、このベルトを上手く隠せるようにしたい」


 「なんだこりゃ?」


 「自分に氷水の効果をかける装置。今迄鞭剣の柄にしまって握りこんでたろ?アレを手に持たずとも発動できるんだ」


 ベルトを手渡すと物珍しげに眺めてギミックを弄り始めたので少しそのまま放って置く。


 「成る程な。上手く誤魔化しつつもギミックは弄れるようにって事か。製作者には、ばれるもんなどうやっても」


 「ああ、そういう事だ。裏の仕事を続けるのも、この服に恨みが溜まるのも構わないが、正体がばれるのはちょっと困るだろ」

 

 「そうだな。その辺は上手くやるから任せておけ」

次週予告


 人知れず後ろ暗い者達を影で罰していた事が

  勝手に正義の虚像を作り出す

   無責任な賛辞と煮詰まる恨みに対し、『新たな力』を探し求める

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