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52.語られない戦い

 以前よりサイズこそ一回り小さくなりパーツも幾つか脱落しているようだが、瘴気を纏いかつて【森国】で出会った頃とは段違いのプレッシャーを放つキジン。


 冑の隙間から赤い光が発せられ、思わずその不気味な雰囲気に飲まれてしまいそうになる。


 ペースを持っていかれるのを拒絶するように、目から視線を外してあえてキジンのパーツ一つ一つを観察していく。


 すると、直したと言う割りにパーツのあちこちがひび割れているのが分かる。


 そしてその罅の隙間から瘴気が漏れ、チラチラと薄気味悪い暗い緑の光が小さく爆ぜて、幽鬼を連想させ鳥膚がたった。


 「行ったようだな。あの男曰くここは危険物を封印する間だそうだ」


 「つまり、ちょっとやそっと暴れたくらいで外に影響は出ないって?」


 「その通りだ。状況は把握出来ているな?」


 「お前と戦えばいいんだろ?」


 「もしお前が負ければ、邪天使は完全体となりこの戦いに勝ち目はないだろう」


 「そりゃまぁ、漏れ出す瘴気だけで一つの都をヒトの住めない場所にするくらいだし、相当苦しい状況になるのは間違いないだろうが、外にいる連中だって一筋縄じゃいかんだろうし、何より俺が倒れても他の奴らが車がかりで襲えば、お前だけなら止められるんじゃないか?」


 「その筋は既に封じている。お前に敗れた時の事を覚えているか?」


 「ああ……自爆してたな?だから何だって言うんだ?」


 「あの男、このボディのパーツを集めてきて組み上げてはいるが、実際どの部位にどんな効果や意味があるかは殆どわかっていない」


 「……また自爆装置を積み込んでいる?」


 「正解だ。もし今自爆すれば、内在している瘴気が全てばら撒かれ、一帯の汚染度は今の比ではなくなる」


 「そうなれば……どうなるんだ?【教国】にヒトが住めなくなるのは困るんだろうが、邪天使に影響はないだろう」


 「残念ながらそれはない。邪天使は残りの核と瘴気を必要としている。ここで爆散すれば必ず吸収しに戻ってくるだろう」


 「逆に言えば、次の行動パターンを掴みやすくなるともいえるが……」


 「無理だろうと想像してしまったな?邪天使の能力の多彩さなら確実に、力を取り戻すだろうな」


 「ああ、駄目だこれ以上話ていても碌なイメージが湧いてこねぇ。一個だけ最後に聞かせてくれ、槍はどうしたんだ?」


 「ふん、アレはボディの一部に変わった。勝負は剣一本」


 日本刀を両手で静かに正眼に構えるキジンに対して、雷火と土石の物理仕様でベルトを発動、両手には氷精と石精のフィルムケースをセットしたフェニックステイルを構える。


 封印の間は広く、自分が戦うには十分なサイズがあるのも、キジンがこの場所を選んだ理由なのだろうか?


 強くなると言う手段を目的にしてしまったキジン、平気で修理だのなんだのと言って、会話が続いていたが、自分にしてみれば違和感しかない。


 コイツ絶対ロボットかなんかだろうと、もしくはサイボーグって可能性も無くはないが、いつからこのファンタジーゲームに未来ファンタジー要素混ざったんだと、誰でもいいから一回つっこませてくれ。


 そして、この強化されて復活した敵と戦う展開を誰か代わってくれ。自分はこういうので燃えるタイプじゃない。


 しかし、そんな自分の望みが叶う事もなく、キジンがじりじりと摺足で間合いを詰めてくる。


 お互いの武器の間の関係上、詰められれば不利なのは自分だ。つまり先手を取っていくのが定石であり、勝ち筋だろう。


 左手のフェニックステイルを振るいながら石精を発動するも、ゆらっと綺麗に回避された。


 しかし、シンプルな軌道の攻撃を避けられるのは予測済み、避けた方に回り込むように氷精を発動したフェニックステイルで襲う。


 低い軌道から掬い上げるように狙ったが、あっさり腿で受け止められ、弾かれた。


 どうやら装甲こそ貧弱に見えるものの、内側から溢れる魔素がダメージを軽減している?


 魔素の性質ってのは霊子を変質させるってのは<錬金>をかじった者なら誰もが知るところだが、コチラの術を軽減させてくるってのはどんな効果なんだろうな?


 つい生産職の性で魔素の性質について思いを巡らせている内に、大きく一歩踏み込んできたキジン。


 咄嗟の事ながら、横に回避しつつ、フェニックステイルを振って牽制する。


 刀を肩に担ぐかのように大きく引き、モーションの大きさから想像できないほど鋭く早い振りで、フェニックステイルを跳ね飛ばし、更に胴を薙ぎ払ってきた。


 体をくの字に曲げ、ダメージを少しでも減らすべく飛び退く。


 いつの間にか刀に纏っていたエフェクトがゆっくりと残像を残しながら消え、振りぬいた姿勢から再び正眼に戻るキジンに対し、自分は腹部を確認する。


 嫌な予感と言うのは当たるもので、ベルトに差してあったフィルムケースが数本割れている。


 「狙ったのか?」


 「当然だ。その腰のケースがお前の攻撃の肝だと分かっていて、潰さない選択があるか?」


 「俺に勝つってのは、正面から潰すって事じゃなくて?」


 「正面から潰しているだろう?潰す手段として、お前の切り札を奪うと言う選択肢が生まれたのも復讐心のなせる業だ。あらゆる手段を使ってお前を葬り去る。この身の内から湧き上がるエネルギー!長い時、己の事すら分からぬままきっとコレを手に入れる事を望んでいたのだ」


 ロボってこんな感じなのか?もっと合理的ゆえに他人の言う事なんか聞かないから怖いとかそういうんじゃないのか?


 しかしそんなコチラの混乱をよそにどんどん襲い掛かってくるキジン、何とか応戦はするものの明らかに地力が違う。


 切っ先で地面を割るような垂直斬り上げに吹き飛ばされ、壁に撃突し息が詰まる。


 車がかりで襲えばとか言っていたが、こいつはちょっとモノが違う。


 前のギミックに頼った戦いとは明らかに違ってどちらかと言えば力任せに見えるのに、その鋭さとスピードを見切れない。


 目で追えても体が追いつかず結局斬られている。となれば雷精フィルムケースで反射神経をと思ったが、既に割られていた。


 残るは使い所があまりなく腰の後ろの方につけていた陽精と陰精のフィルムケースのみ。


 「クソ!これは、俺一人の手には余るだろ!負けろってか?勝つって約束した矢先に負け確定イベントって運営は鬼かなんかか」


 つい、この場にそぐわぬ言葉と感情が溢れ出たが、キジンは特に気にした様子もなく答える。


 「お前は何故そんなに弱くなった?暗がりから他者を襲う外道な賊を更なる闇から襲う復讐者。それがお前の正体だろう?」


 「よく知ってるな」


 「邪神教団の情報とあの男が調べた【教国】内の情報を合わせた結果だ」


 「そうか……俺は弱くなったか?」


 「間違いなく装備の質は上がっているようだが、敵を滅する為に己を壊すような危険さは受け取れない」


 それは、最低限勝ち筋が見えてたから一か八か踏み込んで、自分の使える最大の攻撃を放っていたに過ぎない。


 今は様子を見る為にと最初に装備した混ぜモノフィルムケースしか挿さっていないし、それではいつもの蹴りの威力は出ない。


尾剣術 串


 話しながらフェニックステイルで奇襲をかけるが、それもあっさり避けられてしまうのは、既に自分の攻撃は全てキジンのデータに入っていると言う事なのだろう。


 「くっ!ひとおもいにやれ!」


 あらゆる攻撃が効かないとはっきり理解し、足から力が抜けた。


 「お前の闇は俺が引き継ぐ、ニューターに死はないのだろう?だったら次は陽の下を歩くのだな」


 そう言って、キジンの刀が振り下ろされ、戦闘に耐えうるとされていた封印の間の地面を削りながら赤いエフェクトが飛んできて、弾き飛ばされ、どこをどうぶつけたか地面に転がされた。


 目の前が一瞬真っ暗になり、久しぶりの死に戻りかと周囲を見るが、登録ポイントに自動で飛ばされるまでのカウントダウンが出ていない?


 すると、目の前に景色が戻ってきて、いつの間にか天井を見上げている。


 「しぶといな。<逆境>系スキルか何かか?」


 言われて、自分のスキルビルドを今更思い出した。生命力の上限を超えるダメージを食らっても1回は持ち堪えるんだった。


 折角格好つけて負け宣言したのに、台無しになった事で何故か笑いがこみ上げてくる。


 「ははは!そう言えばそうだな。これで俺は陽の下を歩けるのか?無理だな。結局俺は陰に身を潜めれば誰より歪んだ心を隠して、陽の下に出れば正々堂々戦うやつらを羨むだけさ」


 「安心しろ。今度こそ陽の下に送ってやる」


 「まぁ待てって、一個だけ思いついた事があるんだ」


 それだけ言って、腰の一番後ろに挿していた陰精と陽精のフィルムケースを取り出し、雷火・土石と入れ替える。


 「なけなしの二つか。確かに腰の一番後ろにあって手が届かなかったが、それでまだ戦えるか?」


 「だから早まるなって、今迄何となく水と火とか、土と風とか反する精霊同士は何の効果が現れないと思って、陽と相性のいい物を探したり、陰と反応する物を探したりしてたんだけどさ……」


 ベルトを起動すると、服の色が変化していく。


 金色地に黒いラインと模様の入った姿。


 「くっくっく……笑うしかねぇ……」


 「情報に無い姿だな。それでお前は何を笑う?もう色が消えそうだぞ?」


 言われて見ると、折角光ったアーマーの色が薄くなっている。やはり陰と陽は少しばかり特別と言うか、他の精霊の上位にでも当るのだろうか?


 すぐさま指輪使って自分の精神力をしこたまぶち込みベルトを回復させる。


 「さぁ、やろう」


 「ブラックフェニックス……今のお前は何を力に変えている?」


 「今の俺はカイザーフェニックス。復讐を忘れちまった抜け殻さ。約束だけが俺を戦わせるんだ」


 自分の言葉尻にあわせ、一瞬で滑るように間合いに入りこんできたキジンの膝を狙い、蹴りをかます。


 体勢を崩した所に顔を狙った回し蹴りを見舞う。


 たたらを踏んだキジンに追い討ちのフェニックステイルで、更に押し込む。


 日本刀を振り回し、コチラの攻撃を撥ね避けようとしているが、尽く狙いがずれて、ちまちまとダメージを蓄積していく。


 対して自分は陽精の効果だろう生命力がどんどん回復して、瀕死状態を既に抜けた。


 キジンが足を開いて、腰を低く構えると、一帯に衝撃波が走りコチラの攻撃を全て弾き飛ばす。


 「どうやら認識と座標がずれている。それが陰精の効果か?だがまとめて破壊すれば同じ事」


 言いながら刀にありったけのエネルギーを込め、周囲の瘴気まで一気に濃くなったかと錯覚する禍々しい雰囲気を発する。


 そうなれば、現状自分に出来る最大の攻撃は一つだ。


 ベルトのスイッチを押し、服のパイピングが金に輝き、反対側はより深い黒を纏い、周囲の光すら奪うようだ。


掃蹴術 篇吟


 飛び上がり、落下の勢いを乗せたキックでキジンに飛び込む。


 キジンの刀からはこれまでで最も禍々しい纏めきれぬ暴力的な赤の雷電が迸り狂ったように襲いかかってくる。


 両足の蹴りを同時に使い、キジンの攻撃を押し込み、ぶつかり合うエネルギーの奔流が封印の間を破壊しつくす。


 そしてぶつかり合いで圧縮されたエネルギーは臨界を越え、自分とキジンを容赦なく部屋の両端へと吹き飛ばす。


 息も絶え絶えでゆっくり立ち上がると、キジンは反対側の壁の隅でぐったりと力なく項垂れている。


 何がどうなったのか、重すぎる体を引きずるようにゆっくり近づいていくと、キジンの声が聞こえてくる。


 「ダメージ限界 コア 保存ヲ 優先 自爆シマス」


 「うおっ!クソが!また限界越えて、自動で自爆かまそうってか!」


 今出来る限界速度で、キジンに近づき、ベルトの二本のフィルムケースをを乱暴に引き抜く。


 そしてフェニックステイルに挿さっていた氷精と石精をベルトにセット。


 「また、全力で戦おう約束だ」


 聞こえているか分らないが、ベルトを起動し、自分ごとキジンを封印する。


 |

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 荒れ果てた封印の間に【教国】製の対瘴気装備を身に纏った男女2人の姿。


 「全く……世界の危機を救ってくれるのはありがたいが、自分まで一緒に封印する事はなかったろうに」


 「それしか方法が無かったんじゃないの?私達が後を託されたんだから文句言う事じゃない」


 「珍しいな。いつもはお前の方が不満げなのにニキータ」


 「別に?やるべき事をやった相手を責める趣味がないだけ。それより処理を急がないと」


 「そうだな。それはそうなんだが、仮にも長い事一緒に仕事して戦ってきた相手がいつ覚めるとも分からん封印を施されてるのに、心配とか何か無いのか?」


 「別に?だって不死鳥は何度でも復活するんでしょ?」


 「……違いない」


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 現実 


 「なぁ、あんた。煙草を植え込みに捨てるのは、やめてくれないか?」


 「あ?なんだ?お前!何か文句あるのか!」


 「そりゃな。世の中喫煙者に厳しいのは分かるし、人気の無い所で吸いたいのも仕方ない。だが、植え込みに吸殻捨てて俺の家燃えたらそりゃ困るだろ?携帯灰皿持ってないのか?」


 「い、いやあるけどよ……」


 言いながら見知らぬおっさんは煙草の吸殻を拾ってどこかへ行ってしまった。


 築何十年かもよく分からない木賃のボロアパートに似つかわしくないフルダイブVRの筐体。


 大学に通う為一人上京し、結局ゲームにはまってる息子を見たら両親はなんと言うか、時々ふとそんな事を思うが、そんな現実からは目を逸らし、家を出る。


 まだ夕時だが、夜飯を作るのは面倒だし、外で食べようと道を急ぐ。


 行きつけの安くてボリュームのある定食屋は遅い時間になると酒飲み用のメニューになって割高になってしまう。


 なんでも店主のこだわりと言うか経営方針で、若い奴に安く食わせる為に夜は少し高いんだとか。


 正直他所と比べればそれでも安い気はするが、バイトで生活費を賄ってる自分としては安ければ安い方がいい。


 ちなみに一緒に食べに行くような仲の相手はいない。男も女もだ。


 一応、学校にバイトと一応普通の学生らしい生活は送っているものの、


 昔から一言多いというか、放って置けばいいいい事をつっこんでは、周りから浮いて、結局自分から距離を取る性格の所為か、基本何をするのにも単独行動が身についた。


 結局世の中攻撃する奴が悪い、どんな理由があれ有形力の行使は犯罪になっちまう。


 勿論、暴力が許される世の中で生きて行ける自信はこれっポッチもないが、それでもおかしい事をおかしいと言うだけで、寧ろ暴力にさらされ、暴力を振るった当人はたいした業を負わされずに放免されるのが世の中じゃないか?


 だから皆、出来るだけ関わらないように、運を天に任せて生きるしかない。本当に生き苦しい。


 あるかもしれない不幸な未来を思い、びびる自分が好きじゃないが、厄介ごとに巻き込まれるのも嫌だ。


 必然自分を押し殺して、静かに地味に生きる事が一番だといういつもの結論に達しながら、定食屋に入る。


 本当に安くて、それでいてボリュームの多い日替わりの定食を頼むと、その日はアジフライだった。


 本当肉厚で、そこらの定食屋で食べれるレベルの物じゃないと思うのだが、そういう時は察しの悪い子供に戻り、無心でがっつく。


 そして、米を食い切って一息ついた時、ふと視界に写ったのはさっきのポイ捨てオヤジ。


 思わず頭を抱えた所で、目が合い、一気に緊張する。


 そのおっさんがゆっくり自分の座る席に近づいてきて、何もいわず自分の伝票を取り上げちらっと見る。


 「さっきは悪かったな」


 それだけ言って、伝票を持っていって店主に何か話す。


 どうやら、一食浮いたようだ。運ってのは悪いときばかりじゃないらしい。

作者挨拶


 丸一年お付き合いありがとうございました

  若い頃から特撮が好きで自分なりに文章で表現しようと言う試みでしたが

   やはりとても難しかったという言葉に尽きます

    今後はこれまで以上に特撮に関わる全ての人をリスペクトし

     自分なりの表現を追及していきたいと思います

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