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5.代償

 夜になる度、秘密基地を訪ね【訓練】する日々。


 基本は鞭剣の扱いを徹底的に自主練、それ以外にも戦闘のコツ的な事を教わるが、所謂近接戦闘職的な駆け引きはてんで駄目だった。


 そうなると、とにかく距離を取るための練習を積まねばならない。


 じゃあ、ステップやらヒット&アウェイのような出入りができるのか、それも無理。


 インファイトなんてもってのほか。


 はっきり言って自分に向いた戦闘手段なんてこそこそ追跡して、遠くから毒かなんか使うしかないんじゃないか?

 

 結局大嫌いなあいつらと同じ卑怯戦法しか使えないのか。


 なんなら、あいつらの方が奇襲でダメージを倍加するスキルを幾つも重ね強者を屠ってる分、よっぽど真っ当なんじゃないかと、己に問う日々。


 それでも辞めなかったのは、たったの一回復讐のため受け入れたナイフの一撃。


 なんでか分からないが、あの時は全く恐怖を感じなかった。ただただハイになっていただけかもしれないし、そうじゃないかもしれない。


 弱者を足蹴にしてニヤつくPKを潰してやりたい……。


 そして手に入れた戦法は三段階。


 まずは徹底的に距離を取って鞭剣、


 近づかれそうになったら<掃蹴術>って言う<蹴り>系のノックバック中心の術で突き放す。


 それでも近づかれたら、自分が普段研究してる<練金>で使える精霊の力で敵と一緒に自滅。


 ひたすら【訓練】の夜を過ごしたある日の事、例の男に依頼を頼まれた。


 いずれこの日が来るとは思ったが、今の自分で大丈夫だろうか?正直裏社会で戦える実力とは思えないぞ?


 「まあ安心しろ。今日はちょっと良いとこの坊ちゃんのおイタが過ぎるんで、ちょっと怖い目見せてやってくれって程度のもんさ。ついでに言うとそいつはこれからお前が必要になる装備(ブツ)を持ってる。どういう事か分かるか?」


 「やりすぎてもいいから、動けなくなるまでやれって?」


 「察しが良いな。俺達も後方で待機して不測の事態には備えるが、出来れば所属不明のお前が、徹底的にやってくれると後が楽だ」


 「分かった。場所やその他打ち合わせしておく事は?」


 「ふん、お前は何だかんだ研究職で素直だ。絡め手だの工作だのは任せておけよ。強いて言うなら身分を嵩に着て弱者をいたぶるどうにもならん無能だ。痛めつける方法でも考えておいてくれよ」


 それだけの指示で、向かわされる【王国】のとある街。


 海辺で港もある所為か結構豊かそうだが、こんな所でそんな悪さする奴いるのかね?


 マフィアとかギャングってもっとこう……それしかないから裏社会に入るってイメージなんだけど。


 そして、何より格好がおかしい。変な鳥を模したような冑に妙に凝った形の皮鎧?って言うか服。


 自分でも装備できるように配慮して軽く作ってくれたんだろうが、ただの仮装だぞ?コレ……。


 しかし、現地で見せられた光景は今の自分の格好など忘れさせるには十分だった。


 いやがる若者に、商人を襲撃させ、さらにその商人から奪う。


 金の為と言うより、人をいたぶるのを楽しむかのような姿に、完全に脳が冷めた。


 どこの馬鹿な餓鬼かは知らんし、どうでもいい。


 そいつと取り巻きがアジトにしている店に単独乗り込み、


 イキッた取り巻きの若造を鞭剣で串刺しにして、こちらが容赦なく攻撃する事を伝える。


 それでも流石と言うかなんと言うか、手に手に武器を持つ若造共。


 まずは近づかれないように、徹底的に鞭剣で叩きのめす。なんならついでに店もぐちゃぐちゃにぶっ壊せば、憂さも晴れる。


 一人の首を鞭剣で巻き取り、思いっきり引けば、首周りを斬り裂き、その場に倒れこむ。


 その間に店のカウンター裏を伝ってきた卑怯者が飛びついてきたので、


<掃蹴術> 火喰


 ただの前蹴りだが、術効果の所為か壁にめり込む勢いで吹き飛ぶ若造は、その場で動かなくなった。


 その間にも距離を詰めてくる二人を


<鞭剣術> 据殺


 まとめて打てば、その場に崩れ落ちたのでそのまま首を刈り取る。


 問題は目的の相手がいない事。店のバックヤードに向かうと、裏口から逃げようとしている餓鬼。


 しかし、どうあがいても裏口が開かないのか、手元にあるものを適当にぶん投げてくるが、なんて事無い。


 「お、俺の親父が……」


 みなまで言わせずに、足を刺し貫き、その場にひざまずかせる。

 

 観念した様子に近づいていくと、手に持ったナイフで刺しかかってきた。


 「なるほどな……」


 つまり何やってもいいって事だコレは。


 餓鬼の髪を掴み強引に引き上げればだらしなく開く口に石を突っ込み、そのまま引きずり倒し、石を吐き出さないように足で踏みつけ、


 少し待つ……。


 空気に触れると勝手に熱を持つ不思議な石。多分火精と関係あるのだろうと、研究した末……。


 餓鬼が暴れ出す。そして目と言わず鼻といわず耳と言わず火を噴出す。


 散々暴れ、痙攣し徐々に痙攣が治まると、例の男が現れ。


 「見せてもらったぜ。思ってた以上の成果だ。さすがにこの能無しでも、やっていい事と悪い事があるってのは分かったろう。後で、報酬は渡す。今日の所はコイツと退け」


 すると現れたのは小柄の女性。しかし到底油断できる雰囲気じゃない。自分なんか比べ物にならない使い手だろうが、それでも自分にこの仕事を依頼する必要があったのか?


 その日はどっと疲れ、秘密基地でログアウトして、すぐに寝た。


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【海国】トルトゥーガ


一応嵐の岬とはコレと言ったトラブルもなく依頼を引き受けたもらう事はできた。


 本当は引き上げてもいいんだが、偶には外でも見て回れって言われたしなと、気分転換にそのまま【海国】をぶらついている。


 どうやら【海国】ってのは幾つもある島それぞれに領主がいて、全部まとめて【海国】だそうな。


 つまり領主によってと言うか島によって結構雰囲気も違う。


 そして、このトルトゥーガは、治安が悪い部類。と言うか力がモノを言うタイプの都らしい。

 

 ポータルがある以上都の一つで間違いないはずだが、なんと言うか海賊の都を自分みたいな生産職がぶらついていたら……。


 「おい……兄さん。嵐の岬の客人だって?ちょっと顔貸せよ!」


 「いや、あのぉ。どういったご用件ですか?」


 「あ?この都は嵐の岬の物だと思ってデカイ面して歩いてんじゃねぇってんだよ!」


 「でかい顔なんてしてないんですけど」


 そんな話は一切聞いてもらえず、何故か変な広場に連れ込まれてしまった。


 「ここじゃ、腕っ節の強さがモノを言うんだ。お前みたいなヒョロイの迄でかい顔されたんじゃこっちも面子が立たないもんでな。悪いがやらせてもらうぜ」


 そう言いながら、立会人と見られる男に金を渡す。いかつい兄ちゃん。


 「喧嘩して賭け事でもしてるんですか?」


 「ああ、フリーファイトだな。一応ルールはあるがこの島のやつらは気が荒いし、酷い目に合う前にギブアップした方がいいぜ」


 と、立会人の男が教えてくれる。まさかこんな事に巻き込まれるとは、面倒くさい。


 しかも相手が素手って事は、道具も使っちゃいけないんだろう。何とも面倒くさい。


 よく分からないまま、取り敢えず手持ちの金をいくらか男に渡し、兄ちゃんの前に立つ。


 「はっ!いい度胸だ!オラ!」


 何の合図もないまま殴りかかってきた兄ちゃんだが、取り敢えず前蹴りで、距離を取る。


 まあ武器を持ってないし、何より動きも遅いからどうとでもなるだろう。


 腹を抱えながらそれでも強がって殴りかかってくる兄ちゃんに、


<掃蹴術> 駝懲


 一回引いた足を畳みこむ様にしてから、突き出し更につま先で腹肉を抉るように引っ掛ける。


 「ガハッ!!!!」


 随分と大袈裟に崩れおちるが、油断は出来ないので追撃。


<掃蹴術> 鬼憂


 払い蹴りだが、エフェクトは切り裂くような鋭い弧状。


 膝立ちだった兄ちゃんの頭にヒットして、待ったがかかる。


 そのままどこかへ運ばれていく兄ちゃん。そして立会人の男に金を渡され、あっさり御開き。


 てっきり復讐でもされるのかと思ったが、全然そんな事はなかった。


 ポケットの中に握りこんだ陽精の容器が汗で変な感触だ。


 「本当にボスの言うとおり、やる奴だったんだな~」


 急に声をかけられ、本当に口から心臓が飛び出しそうだったが、嵐の岬の術士だった。


 「何?全部あんたの仕掛け?」


 「違う違う。この辺りを歩いてると誰でも絡まれる小さいクエストだ。何度も繰り返すと、地下闘技場に連れ込まれるらしいが、試してみるか?」


 「何で研究職の自分がそんな事……」


 「でも、腕はいいみたいじゃないか?ポケットに手を突っ込んでるのは何仕込んでるんだ?あの見せて貰った<練金>の容器か?」


 「まあ、それ位しか身を守る手段がないんだから仕方ないだろ」


 「ふぅん、そんなもんかねぇ。まあ俺も術士だし、殴りあったり斬り合ったりは苦手だがな。まあなんだ戦闘を見せて貰ったし、飯でも奢るか?この島の飯屋は知らんだろ?」


 「ああ、丁度探してた所だけど、何があるんだ?」


 「魚一択~!」


 連れて行かれたのは通り抜ける風がちょっと涼しい。普通にオープンな南国風の食事処。


 怪しげで、危険な香りはどこに行ったのやら、急にリゾート感のある店構えに逆に警戒心が働く。


 「なんなんだこの店?」


 「だから普通に飯食える店だっつうの。この島も結構広いから、行く場所さえ間違えなけりゃ普通に楽しめるんだよ。少なくともこの通りなら安全だし、買い物にも困らんぞ」


 「じゃあ、逆に誰かが悪さをするとしたら、どこなんだ?」


 「ああ……まあ、さっきの通りは柄が悪い雰囲気を楽しみたいだけの場所だからな。ああ~西の方の港は海賊の停泊所だから近づかない方がいいな」


 「都に海賊がいるのかよ」


 「まあ、傭兵的な立場なんだろうな。でもクエストで偶に海賊討伐ってのもあるから悪いもんは悪いんじゃないか?」


 「全く何が何やら……。じゃあその海賊とつるんで悪さする若造とかもいるの?」


 「なんだ?随分変な事に興味もつ奴だな。いるかもしれないが、俺はそういうのはちと分からん。興味あるならうちの奴らに聞いてみるか?」


 「あ……いや別に治安悪そうな土地柄だからなんかそういうのあるのか気になっただけだ」


 その時料理が運ばれてくるが、エスニックと言うかなんと言うか、魚!!!!って感じの煮物焼き物、パエリア?


 香辛料が効いてるのは【砂国】と取引があるからなのかね?


 詳しい事は知らないが【砂国】にはスパイスの魔術師って言うプレイヤーがいるらしいし。


 普段あまり食べない種類の食事に舌鼓をうちながら、何となく【海国】の事を聞く。


 偶にはこういうのも悪くないか。


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【海国】トルトゥーガ海賊港-夜-


 あからさまな倉庫内での取引。


 一人は海賊、一人は身なりの良い若い男。

 

 両者でかい箱の中身を確認し交換した所で、


 「しなれ鞭剣!」


 鞭剣を倉庫の天上の梁に巻きつけ取引の中心に飛び込む。展開したウイングで空気を掴み多少減速しつつ、陽精の容器に精神力を込める。


 強力な光で皆目を潰されたので、自分が着地に失敗した所は見られていないだろう。


 鞭剣を振り回し、全方位攻撃!


<鞭剣術> 界殺


 強力なノックバックの発生する術で、そこら中に積まれた木箱に激突する取引に参加した者達。


 このまでは何にも見えないので一旦陽精の容器は仕舞う。


 さてこの場には自分を除くと両者5人づつの取引で合計10人。だが護衛が何人か隠れてないとも言えない。


 今回も詳しい事情は知らないが、碌なことをやってないのは確かだろう。こんな所でひそひそと取引をしてるんだから、そりゃあそうか。


 何とか立ち上がろうとするものから鞭剣で叩き伏せ、どんどん戦闘不能にしていく。


 そんな中死んだ振りをしていた身なりのいい男が、走り出す。


 どうやら回復系の術の使い手だったらしい。復帰して逃げていく足を絡めとり転ばせそのまま引き寄せる。


 恐怖に歪む顔の真ん中を爪先で蹴り潰せば、そのまま気絶してしまったので、放置。


 他にも回復の使い手がいるとも分からないし、サクサク片付けていた所で、


 箱の裏から物音。


 鞭剣で攻撃すると同時に逃げ出すその影は女性?


 そのまま追うが、かなり足が早い。倉庫から外に出ると見失ってしまった。


 「どうした?終わったのか?」


 例の男と出くわしたが、まあこいつは大体何処かに隠れて仕事ぶりを確認してるのだろう。そんなことより、


 「一人女がこっちから逃げていった筈だ」

 

 「いや、そんなのは来なかったぞ?


 「そんな訳あるかよ!裏の仕事してるあんたらが逃がすなんて、そんな事……グルか?」


 「まてまて、本気でそんな事はない。神に誓ってもな。だが心当たりがないわけじゃない……ちとまずいかもな」


 「どういう事だ?あとアンタみたいなのが神に誓っても何の信憑性もないぞ」


 「いや、俺の身分を知れば、信じるさ。だが問題はその女の件だな。大急ぎで手は打つが、真面目にお前は大人しくしててくれ」


 「あ、ああ……そんなにまずいのか?」


 「そりゃな時間との勝負だ。悪いがアジトまで連れてく余裕は無い。装備は鞄にしまって、なんも知らない振りして過ごしてくれ」


 「……分かった」

 次週予告


 裏の仕事は容赦なく悪を罰する事

  裁くことすら生温い悪はどこにでも潜んでいる

   だがヒトはすぐに誤解する悪を討つものは『正義』だと

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