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4.発明家

 【王都】旧街区にあるあからさまな建築資材置き場。


 老朽化した建物を壊し整地された広場の片隅にある掘っ立て小屋の地面には怪しげな入り口があった。


 謎の男が何者かも分からないまま、付いて行けば幾つも面倒なギミックのある狭い通路を右へ左へと……。


 急に視界が開けたと思ったら、部屋の中央にソファセットのある部屋?


 カウンターがあるところからバーのようにも見えなくないが、ちょっと趣が違う。


 強いて言うなら隠れ家って所か。


 「まあ普通に手に入るものなら大抵揃う。来たい時に好きに使えばいい」


 「どうも……それで戦い方を教えてくれるって言うのは?」


 「ああ、まあ落ち着け。戦って歩き回って、大分体力が低下してるんじゃないか?まずは飯でも食いながら話そう」


 自分をソファに座らせ、カウンターに行き、わざとらしくすら見える笑みを貼り付けたニコニコとしたおばちゃんに何か伝えると戻ってきた。


 「じゃあ、戦い方の前にあんたの目的は?ただで秘密基地に連れてきて、挙句鍛えてくれるだけって事はないんだろ?」


 「まあな。所属やなんかを言うにはまだお互いの信頼が足りないと思うが、目的は簡単だ。俺達はいつでも手が足りないし、所属がばれて困る事も少なくない。何も言わずに仕事を手伝ってくれる奴がいると助かるって所か。だが俺の眼鏡に適う奴はかなり少ないぜ」


 「ふーん、まあそんな所か。でもただの生産職の自分がお眼鏡に適うとは……度があってないんじゃないの?」


 そんな事言い合ってると、運ばれるパスタ。にんにくとオイルと鷹の爪だけのシンプルなぺペロンチーノ。今更毒を盛ってもどうしようもないと思うし、普通に戴く。


 「まあ、なんていうか、アレだ。結局は人柄ですよってやつ。戦い方なんてすぐに身につくが、ヒトの本質はそう簡単に変わらない」


 「復讐に血道を上げる様な捻じ曲がった人柄がお好きとは、やっぱり眼鏡が曇ってるな」


 何故か笑われ、奥の部屋に連れて行かれると、本当に何もないただ広いだけの空間。


 取り合えず、木剣を持たされお互いに構えるが、木剣ですら相手が武器を持つとやたら気持ちが焦ってしまう。


 男が振る剣を大袈裟に避けては、自分の攻撃するタイミングが掴めない。なんなら避けるだけで気持ちが一杯一杯だ。


 「なるほどな。こりゃちっと道は険しそうだな」


 「ふん、俺を放り出すか?別にこの秘密基地の事は言わないぜ」


 「いや、何言ってる?人柄が重用だって言ったろ?まあ武器の選択次第だな弓とかどうだ?筋力を育てるには時間かかるし、隠れ潜むタイプの短弓使い、所謂猟兵なんて悪くないだろ?普通だと<調薬>使いなんかが毒や麻痺なんかと一緒に使うが、お前さんは<練金>使いなら精霊の力と一緒に使えば、それはそれで足止めも威力も期待できる」


 「悪くはないね。でもそれで賊に恐怖を与える事はできるか?二度と他人を狙いたいなんて思えなくなる程後悔はさせられるか?」


 「ふふ……ははははは!そうだなやっぱり見込んだとおりだ。賊共は勘違いしてる自分は奪う物だと、それが同じやり口でやられたら、やり返されただけだと思ってずっと連鎖する。そうだな最大限の恐怖を味あわせてやらないとな。絶対に真似できない形で……」


 「出来るものならそうしたい。でも絶望を味あわせるほど俺は強くない。どうすればいい?」


 「鞭剣なんてどうだ?蛇腹剣や連節剣なんていう奴もいるが、物はあっても使える奴は殆どいない代物だ。術士の精神力、生産職の器用さ、時間のかかる操作【訓練】。はっきり言って効率は最悪だぞ」


 見せられたそれは、刃の沢山ついた拷問具か処刑具のようでもあり、威圧感は十分。簡単に真似できない武器だというのもいい。


 ただそれ以上に自分の薄暗い欲望を満たしてくれるのはコイツだけだという確信が、鞭剣を手に取らせた。


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【海国】トルトゥーガ


 「あ~~~くっそ暑いな~~~~」


 ゲーム内最強クランの嵐の岬があるトルトゥーガに限らず【海国】は南方にあってとにかく暑い。


 ただ、海風がいくらか辛さを緩和してくれるので【砂国】よりはマシとも言われてる。


 何はともあれ、嵐の岬のクランホームへと向かうが、なんと言うかとても治安悪そう。


 なんなら、裏の鎧で来れば良かったか?


 今の自分は本当に普通の服と白衣。一応は研究職としての矜持!何の効果も無い白衣だ!


 多分近づいたら『ゲヘへへへ』とか言いそうな凶悪な顔のNPCがこちらを見ているが、無視無視!


 え?嘘?ナイフ舐めてるヒトがいる……ここまであからさまに悪いNPCだらけとは思わなかった。


 ビクビクしながら歩いてると……、


 「おい兄さん。あんたみたいなのが来る都じゃないぜ?」


 声を掛けられ振り向くと、そこにはあからさまに人が振るには大きすぎる大剣を背に背負った偉丈夫。


 うわ!絡まれた!!と思いきや?


 「なあ、ボス!いきなり声掛けたら誰だってびびるだろうがよ。客人かもしくはクラン加入希望者かもしれないだろ?」


 「だから俺は優しく声かけたろうが」

 

 「ああ、はいはいこういうのは俺に任せておけって!なぁあんた。どうせうちのクランに用があって来たんだろ?」


 「あ、あの嵐の岬に発明家がいると聞いて来ました」


 「あ~なるほどな!サイーダに用があんのか。珍しいっちゃ珍しいが、あんたも生産職なのか?」


 「一応<練金>を嗜んでます」


 「はぁ、なるほどね。金策にはもってこいの生産職だし、別に変わり者でも無さそうだが、何でまたうちの変人に用があんだ?ああ警戒するな。警戒してるのは俺の方だぜ仲間の安全を守れない奴が信用されると思うか?」


 「それは、そうですね。一応自分が作った道具があるんですが、未だに安全に使うことが出来ないので、何か安全に使える装置か何かアイデアが無いかと思いまして」


 「うんうん、なるほど筋は通ってる。一応仲間の安全のため立会いはつけるがいいか?」


 「別に隠す事でもないので構いませんけど」


 「んじゃ、案内するからついて来いよ。ちなみにどうしても秘密の話ならちゃんと言えよ。ある程度こっちも経験あるし、やりようはあるからな」


 何とも見た目の雰囲気とは違って、気の利く人達だ。


 そして荒くれ者風NPC達も一目置いているようで、変な熱視線はいつの間にか消えた。


 しかし、自分も結構【訓練】を積んできたつもりだが、この二人はかなり強い。


 偉丈夫と術士風の人当たりのいい男。


 どちらも妙な風格を感じるのは気のせいではないだろう。


 今迄箸にも棒にもかからない半端なPK共を相手にしていたが、やはり真っ当に攻略してる本物は違う。


 そして一軒の小奇麗な食事処にしか見えない建物に案内され、その奥に連れ込まれる。


 そこにいたのは女性なのだが、何かを一心不乱に作っていて全くこっちを見ない。


 「おい、サイーダ!他所からの客だし程ほどで切り上げて話を聞けよ。悪いなあんた。ああなると余り他人の話を聞かない奴なんだ悪気はないんだけどな」


 言うが早いか立ち去ろうとする術士に、


 「今回は俺が立ち合うぜ」


 「いやボス、何言ってんだよ。それとも<練金>にも興味あったのかよ?」


 「何言ってんだは俺の台詞だぞ。こいつ只者じゃない……相当な【訓練】を積んでいやがる。生産職がブラフなのか、見極める必要がある程度には、な」


 「いや……まじかよ。俺は近接職じゃないから、いまいちそういうの分からないけどよ。あんた何者だ?ボスが警戒するって事はマジなんだろ?」

 

 「一応<練金>メインの生産職ですけど戦闘も多少は……」


 「多少だ?確かに魔物討伐は少ないだろうな。その所為でステータスはちと物足りない。だ・が・な!そういう奴でやたら強い化け物を俺は知ってる。お前は完全にそのタイプだ。少し集中して魔物狩りをすればあっという間にステータスが補強されて、手がつけられなくなる」


 「うるさーーーーい!さっきからなんなの!他人が集中して作業してるのに!」


 「だから客が来てるんだよ」


 「知らないよそんなもん!私が興味惹かれるような面白い話ができるっての?」


 なんか、キレて挑発してくるのだが、どうしたもんだか……二人の視線が熱いので、話してみますか。


 「コレを見てくれ。コレの使い方を考えてるんだ」


 まずは現物を見せ相談するつもりが、横から奪い取られる。どこからどう見ても小さい女の子だが、


 「コレは風精と火精の力を抽出して凝縮して混ぜただけの何の目的もない素材だヨ。普通道具ってのいうのは何らかの目的を持って作る物ナノニ、なんか作っちゃったっていう道具とも言えない物ダネ!」


 あっという間に鑑定して、言いたいことを言いたい放題だが、全面的に正しい。


 「おいおいシャーロッテどこからともなく現れて、客人の邪魔するなっての」


 「うるさいヨ!面白い物持ってくる客人がいたらアタシを呼ぶのが筋ダロ!」


 「そんな筋がいつの間にか出来たのか分からんが、コレをどうやって使うんだ?」


 「基本的に手に持って精神力を流せば起動できる。でもどれもコントロールの効かない物ばかりなんで、コイツは何とか使えそうな所まで持ってこれたから相談に……」


 「ふ~ん面白いじゃん。それで精神力を流すとどうなるの?コレ」


 「爆発する。一定量の精神力を流した途端、爆発。強いて言うなら溶液の量を減らせば、爆発の規模は多少抑えられるってくらい。結局握って精神力を流す以上使い手の食らうダメージは変わらない」


 「はっはっは!そりゃまた、難儀な物作ったね~。爆発の威力がコントロールできそうにないなら、規模……つまり距離のコントロールで使えるようにしたいって訳だ。それなら方法はあるよ」


 「本当か?一応<練金>やってるのである程度お金は用意できる。実験で結構使っちゃってるので、足りなければ稼いでくる」


 「いいね!分かりやすい提案だ!だが大間違い!!!いいか?私を満たすのはいつも金じゃない知的好奇心だ!」


 「いや、金も稼いで貰わんと困るんだがな?この前買った実験道具の金はどうするんだよ。実験道具を古道具に出すか?」


 「ん……金で手を打とう!だがさっき、ど・れ・も!って言ったのを私は聞き逃さなかった。そう!聞き逃さなかった!さあ!ちゃきちゃきだしな!」


 まるで借金取りのように金を要求しつつ、他にも出せという噂の発明家。


 取り敢えず今の所出来ている溶液を全て取り出して、机に並べるなりさっきの小さい子が全部解説。


 使った事もないのに、全て正解。やっぱりこのクラン並みじゃない。


 「ふぅん、この氷精水精を混ぜたやつだけは実用だね~。この変化について研究はどの程度進んでるの?」


 「何と言っても素材を山ほど喰うんで、中々進まない」


 「だったら、こんな風精火精混ぜてないで、近似の精霊の力を混ぜる研究すりゃいいのに」


 「バフになったら、結局術士がバフかければいいって話になるだろ?」


 「ふぅん、でもアンタは研究を続けてる……、武器になるものが作りたいんだ?じゃなきゃ火精にこだわらないもんね……。まあいいや!それで幾ら出せる?」

 

 「手持ちは金貨100枚。足りなければ引き出してくる」


 「ひっひっ100枚!」


 「やっぱり足りないか?そりゃそうかそれ一本作るのに金貨数百枚はかかるしな。分かってるそれはあくまで手付けだ。あまり持ち歩くのも物騒だしな。それで幾ら必要だ?」


 「「「一本金貨数百枚!!!」」」


 「だろうネ。大量の宝石やらなんやらから無理やり引き出した精霊の力を更に凝縮してるんだからサ!」


 やっぱりこの子供只者じゃない。


 「えっと、うんと、そうだね。一つ<練金>使いのアンタに用意してもらいたい素材があるんだけど、それがあればかなり安く上がるよ?」


 「自分に用意できるものなら」


 「術士の石は知ってるだろ。あれがちょっと値が張るし手に入れるのに時間がかかる代物なんだよね」


 「ああ、手持ちである程度は持ってる。杖の素材になる石だろ?」


 「そう!それ!持ち歩いてるだけで余剰の精神力を溜め込める石よ」


 「こんなものどうするんだ?」


 「溶液に精神力を流し込むんだから、石に溜め込んだ精神力が流れ込む時間差で投げる時間を稼げるでしょ!」


 「全然構造が思いつかない……」


 「まあアンタは溶液混ぜる仕事、そういう仕組みや構造は私の仕事。それで持ってる石を見せな!」


 またかつ上げのように言ってくるが、一応手持ちの術士の石を全部取り出す。


 「んあ……な、なんちゅうサイズと純度と量!」


 「生憎今の俺の熟練度じゃコレが限度なんだが」


 「いや、アンタ普段コレどうやって捌いてるのよ」


 「まあ、余りそういうのは言えないが、普通に売ろうとしても断られるな」


 「でしょうね~!なんかもっと普通に気軽に店売りできるレベルの物はないの?」


 「あるにはあるけど……ああ実験用か。いきなり上手く行く訳ないし、丁度いい塩梅を探るんだな。分かった。粗悪品も全部置いていく」


 こうして一先ず依頼は出せたが、あっさり上手く行って良かった。泊まっていかないかと言われたが、自分はまだやる事があるので、やんわりお断りした。


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【海国】とある島-夜-


 船着場でやたら明るい男に金の代わりに欠けたコインを渡すと、やはり明るい声で、


 「毎度!」


 と言いながら近くの島に渡してくれた。


 丁度潮が引いている時間なのか、辺りが濡れたままの地面。そしてちょっと見つかりにくい影にぽっかりと穴が空いている。


 潜り込めば、元々いた島に向かう長い通路。そして急に視界が開けたと思ったら、いつもの秘密基地。


 精一杯の南国感を出す為か、控えめに明るい色のタペストリーが張られてる位しか違いが見当たらない。


 「お疲れさん」


 「あっどうもお疲れ様です」


 受付は日焼けした綺麗な白髪を短く刈り込んだおじさんだった。


 いつも通りに配置されてるソファに座り込むと、いつもの男が現れ向かいに掛ける。

 

 「どうやら上手く話はまとまったようだな。ここからはお仕事の話だ」


 「分かってる。それで、今回の仕事は?」


 「ちょっと悪戯が過ぎる若造どものお仕置きさ。びびらせるだけでいい。簡単なお仕事だろ?」


 「ふん!あんた自身が非合法っぽいのに、何で非合法の連中を取り締まってるのやら……裏社会のボスか何かかよ」


 「余り詮索はしない方がいい。いつも通り手筈は整えておく。お前もいつも通りだ」


 「分かった……」

次週予告


 研究者である自分にどこか似たものを感じる発明家

  信頼し仕事を任せてきたが、同時に研究者にも裏の仕事が舞い込む

   復讐の為に力を手に入れた『代償』とは

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