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38.芝居

 ある日とある酒場。


 他愛のない噂話で盛り上がるのは、古今東西酒を嗜む場ではよくある事。


 「なぁ、アイツは闘技に呼べないのかよ?折角プレイヤー主導でそれなりに人気のあるコンテンツになったんだぞ?ヒーローVS悪の組織」


 「アイツってブラックフェニックスだろ?設定は格好良かったし、武器も両手連接剣とかかなりファンタジー寄りの癖つよだったし、俺は好きだぜ。でもスタイルが闘技向きじゃなかったからな~」


 「ああな。寧ろあの武器で予選抜けられたのが奇跡だもんな。身体能力だって相当器用さに振ってなきゃ、あんなファンタジー武器使いこなせる訳ないし、結局武器の意外性とフェニックスフレアボムって言う切り札があってこそか」


 「そうそう実際の所、正面から一対一じゃ一回戦負けだったろ。本人に興味あるなら是非出てもらいたいが、どちらかと言うとストーリー演出側の補強要員になっちまうんじゃないか?」


 本人達に悪気のないちょっとした話だが、聞く者によっては許せぬ話かもしれない。


 そして、どうせ誰も聴いて無いだろうとタカをくくってる時ほど、厄介な人間に聞かれていると言う所までがワンセットだったりする。


 「ちょっと!!!アンタ達!ブラックフェニックスが弱いとか!どの口が言ってんの!やるのか!あぁぁん!!」


 「ま、まあ待て嬢ちゃん。アンタが何者か知らんが、別に弱いなんて言ってないだろ。ただ闘技に出て貰いたいけど、向いてないだろって言う話をだな」


 「だ~か~ら~!アンタ達はアイツの何を知ってそんな勝手なこと言ってんの!アンタ達なんかあっと言う間にケチョンケチョンのボコンボコンのペッコペコになっちゃうんだから!」


 「いや、待て待て。俺達もそれなりに闘技場じゃ名の通ったプレイヤーだぞ?まだランカーとはいかないが、それでもここ最近じゃそれなりに経験も積んで、NPC相手にだってそれなりの勝率出せるようになってるって言うのにだな。そんな簡単にブラックフェニックスにやられる訳ないだろ」


 「だから!アンタ達が何でアイツの事分った風に話してんのよ!どうせ闘技場でちょろっと戦ったのを見たことあるだけでしょ!あんなの全然!!!本気じゃないんだから!」


 「いやいや、それは闘技に対する冒涜だろ!皆それぞれちゃんと準備して、それでも全部使い切れずに修正してを繰り返してるってのにだな。実は手を抜いてましたなんて言うもんじゃないぞ」


 「違うの!何かクエストかなんか受けてて本気出さなかっただけなの!本当はもっとも~~~っと強いんだから!」


 「も~~~っとって、そんな訳あるか!クエストで闘技に制限があるなんて聞いた事もないし、大体どうやったら、逆にそんなハンデを負えるんだよ」


 「しょうがないじゃん!ブラックフェニックスだもん!闇の中で悪と戦う為に、表じゃ振るえない力もあるの!」


 「そんなもん有るかよ。何だ嬢ちゃんブラックフェニックスのファンだったのか?それならいずれあいつとつなぎを付けられたら、闘技出るように誘ってみるから、あんまりな……」


 「違う!そういうんじゃなくて!本当に強いの!この前のヒーローショーみたいな闘技大会なんて実力の10分の1も出してないの!」


 「はいはい、分った分った。ブラックフェニックスは強いよ。でもな?実力の10分の1も出さないなんて有る訳ないだろ?そんなの武器も防具も何にも装備しないで、戦うようなもんだぜ?」


 「だ~か~ら~!アイツの本気はベルトの力を使ってからなの!」


 「何でそんな事知ってるんだよ?」


 「私が作ったからだよ!ベルトの力を使えば本当に強いんだから!この前のはヒーローが変身しないまま戦ったようなもんなんだから!」


 「ぶはははははは!ベルトで変身と来たか!じゃあなんだ?戦闘員Aみたいに一瞬で装備を換装出来たりするのか?確かに装備が急に変われば、俺達だって戸惑うが、それで10分の1って事はないだろ?」


 「装備は変わんないけど、色は変わるよ!純粋術士以上のセルフバフが掛かるんだから!使う精霊の力を変更する事で、色んなモードがあるんだからね!」


 「その話是非詳しく、聞きたいな」


 ヌッと高身長にかなりがたいのいい男が現れ、尋ねる。


 急に横槍が入り、冷静になって口を滑らせたと思っても時既に遅し。


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 「と、言う訳らしい」


 「らしいじゃねぇよ。それでなんで俺がブラックフェニックスとして、闘技場に行かなきゃなんねーんだ」


 「いや、俺もその場にいた訳じゃないから分らんが、サイーダが『これ以上は情報漏洩だから!闘技で戦う前に教えられないから』とか言ういい訳で逃げたらしい」


 「確かにいつも装備の事で世話にはなってるし、多少の事は手伝う気もあるが、ブラックフェニックスとして表立って闘技に出るっつうのはだな……」


 「分ってる。この前の砂使いのヤバイ女みたいなのがお前の敵で、秘密裏に戦わなきゃならないんだから、そりゃああまり表立って手の内は明かせられないよな。でも色が変わって蹴りで精霊の力を使える事は、ばれてるんだよな?」


 「まあ、俺の方も向こうの『改人』の情報を得ようとするように、向こうも俺の情報は日々アップデートしてるんじゃないか?」


 「じゃあ、ここはブラックフェニックスの兵器開発担当を救うと思って、ベルトの力を使ったお前の実力を見せたらいいだろ?」


 「まじかよ」


 「まじだよ。って言うかそのつもりだから、一応その格好で来たんだろ?」


 「いや、お前がブラックフェニックスの格好で闘技場に来いって言ったんだろ?そしたら、囲まれてこの控え室に押し込まれたんじゃないか」


 「そうだな。それじゃそろそろ呼び出しがあるから、頑張れよ」


 「はぁぁぁぁぁ?????」


 そして、本当にあっという間にアナウンスがあり、専用通路を通り抜けると、スポットライトが自分だけを照らし追いかけてくる。


 よく状況が飲み込めないまま、リング上まで上がっていく間にナレーションが入って、状況が少しづつ飲み込めてきた。


 [復讐に飲み込まれ堕ちた不死鳥は、再び灰より生まれ変わった]


 [あらゆるヒトに戦う理由があると、そしてその苦しみを共に背負おうと……しかし黄金に輝いたのは束の間の事]


 [復讐という彼自身の戦う理由を失い、戸惑う]


 [真っ黒に塗り潰された心こそ彼の力の源、黄金に輝く正義に力は宿らない]


 [正義と力の狭間、揺れる彼に闇への誘いがその肩に触れる]


 リング中央に立つと、今度は女性の声が聞こえてくる。


 「例え貴方の表情がどれ程復讐に歪み、醜くその牙を向こうとも、闇は全てを覆い隠してくれるわ。貴方には貴方の星がある。それは全てを照らす太陽じゃない。苦しむ貴方自身を救える力があれば十分じゃない?」


 「…………」


 「私は貴方の復讐を肯定するわ。闇の奥深くにこそ、救いがある。光の下で取り繕うだけが取り得の者共なんて、私達とは相容れない存在よ」


 「だとしても、その救いの闇を利用し、やりたい放題の外道共に死を望む程の苦しみを与えなきゃ、俺は俺でいられない」


 ゆっくりと明転していく会場、視線の先には体にぴったりとフィットした星空のような黒地にスパンコールの輝くローブの女が立っている。


 手に持つ杖といい、十中八九術士だろう。


 それならばと、ベルトに土と氷のフィルムケースを挿して起動。黄色地に白いラインが入る。


 生命力と精神力の底上げをしつつ、耐性を高めて術対応仕様で、まずは様子見と行こう。


 ちなみに剣は前に使っていた節尾剣にした。


 フェニックステイルの方は、まだ邪神教団も対応出来てないっぽいし、現状秘密だ。


 明転してもどこか暗さを感じさせる照明のカラーは、闇の中での戦いを演出しているのだろうか?


 どうやら、相手の女も自分も闇の世界の人間って扱いっぽいもんな。


 両手に束ねて持った節尾剣を緩め、その先端が地面に着くと同時に、女が術を発動する。


 「リンクス!」


 声と共に、空から星の光が幾つか振り堕ち、そして形作られる野性味の強い猫。


 試しに節尾剣を一振りして、攻撃を加えようとしたが、あっさりと回避されてしまった。


 まあ俊敏だという事が分ればそれでいい、それなら術士である本体を狙うまでだ。


尾剣術 串


 左手の剣を地面に突き立てると、女の足元から節尾剣が襲いかか……らない?


 自分が剣を突きたてるのと同時に女も杖で地面を叩き、別の術をぶつけて相殺してきていた。


 その間に、俊敏な山猫が襲い掛かってきたので、右手の節尾剣を使い、


尾剣術 円


 だがするっと間を抜けるように避けられ、距離を取り直された。


 すると女が杖を再び空に掲げ、


 「モノケロス」


 と呟く。


 静かな声にも関わらず、その声はよく通る。


 よく考えたら闘技にも関わらず、観客の声が殆ど聞こえない。


 周囲に<気配>は感じるのに、誰もが息を詰めてこの闘技を見守っているようだ。


 その間に山猫の額から一本角が生えた。


 てっきり、ユニコーンかなんか出てくるのかと思ったら、山猫へのバフとは……。


 猫から虎のようなサイズへと変わり、毛皮の下には尋常じゃない筋肉を感じさせる。


 それでいて、節尾剣を振っても捉えられないスピードは変わらない。


 なればと、女に節尾剣で襲い掛かるが、それは山猫の頭から生えた角で弾かれてしまった。


 どうやら、スピードで完全に上回る相手のようだし、こんな時は……風精と雷精のフィルムケースを取り出して、取り替える。


 緑地に紫のラインが入り、山猫の動きをよりはっきりと捉えられるようになった。


 山猫に近づかれないように、左手で牽制しつつ、女に右手の節尾剣で斬りつける。


 しかし、女は全く動揺せずにまた術を使う。


 「ジェミニ」


 角付きの山猫がそっくりそのまま二体に別れ、両側から襲い掛かってきた。


 一体の攻撃を回避しつつ、


尾剣術 円


 周囲一帯を振り払ったが、それも避けられてしまった。


 そして、飛び掛ってきた所に、


掃蹴術 鬼憂


 蹴りでカウンターを見舞うと、距離が詰まっていた所為か、はたまた雷精バフで攻撃スピードが上がっているからか、攻撃が当り山猫を地面に転がす。


 しかしダメージは大した事なかったのか、山猫はスグに立ち上がった。


 当然その間何もせず棒立ちの訳もなく、右手のまぜーるくんなっくるに水と土のミニミニフィルムケースをセットし、地面を殴りつける。


 自分の周囲の地面に術エフェクトが掛かり、山猫のスピードがあからさまに落ちた。


尾剣術 縛


 山猫を縛り付けて、尾節剣を縮めつつ近づき、雷精のフィルムケースをセットした方のボタンを押す。


 パイピングが紫に光り、もがく山猫を蹴れば、痙攣した山猫が消えていく。


 残るは、もう一体だがいつの間にか女の足元に戻り、こちらの攻撃を待ち構えていた。


 風精のフィルムケースを抜いて、火精に差し替えると赤地に紫のラインへと変化する。


 風精はアタッチメントに挿し込み、身構え、火精のボタンを押すのと同時に、


掃蹴術 駝懲


 そして、アタッチメントも操作すると言う忙しい動作を間違えずにこなす。


 背中から発する風圧で、一気に押し出されるが、雷精のバフで反射神経が研ぎ澄まされ、正確に女の方を狙って蹴りを放つ。


 直線的な攻撃に山猫が割り込んできて、それを蹴り飛ばしながら焼き尽くす。


 辛うじて回避した女が、地面に膝を着きつつ杖を掲げたので、


 左手の節尾剣を手放し、陽精のフィルムケースを抜き取り、発動。


 薄暗く感じた会場に強い光が放たれ、一気に視界が真っ白に変わる。


 多分女の方は何も見えていない筈だが、杖先で地面を叩くシルエットが見えたので、アタッチメントの風精の力で空中に逃走。


 ただでさえ陽精で光で満ちている所に、地面から更に光が放たれ、何がなんだか分らない。


 完全に前後左右を見失い、重力に引かれるまま地面に叩きつけられるもスグに立ち上がる。


 完全に真っ白な視界だが、多分近くに女はいるであろう。


 それならばやる事は一つだ。


 フェニックスフレアボムを起動して地面に落としつつ、自分はもう一度空中に逃げる。


 大爆発の効果で更に高く打ち上げられるが、陽精の効果も消えた。


 視界を取り戻し、空中ながら火精のフィルムケースを抜き取り、重精に変更。


 落下の衝撃を消して、何とか降り立つが、既に女はいなかった。


 [かくして黒き不死鳥の化身は復讐の闇の代わりに精霊の力を手に入れ、冥星の導き手を光の中に葬るのであった]


 そうかあの女、冥星の導き手って二つ名だったのか。道理で星か星座使いだと思った。

次週予告


 闘技場での楽しい?ひと時はあっという間の事

  【闘都】に巣くうのは裏社会の有名人ベガ

   四天王達を倒すにはまだ力が『不足』している

    まずは組みやすい脳筋から潰す

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