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31.黄金鎧

 防具を破壊されるも何故か生き残って数日。


 普通に考えて、アレだけ正面から大ダメージを貰い行動不能に陥っていたのだから、トドメを刺されてもおかしくなかったのに、見逃された。


 邪神教団の目的がよく分からず困惑しつつも、今は何も出来ないので、気持ちを切り替えるために【闘都】で休暇としゃれ込んでいる。


 昔何かの漫画で一流はすぐに立ち上がり次勝つ為に動き出すなんて書いてあった気もするが、今の自分は休みたい気分だ。


 結局例の試合は順当に戦闘員A……隊長が順当に勝ちあがり、聖石を手に入れるだろう。


 仮に今日負けたとしても、相手は炎の巫女……つまり闘技場の女王ガイヤ。


 このガイヤはレディをスポンサーに持つニューター、つまりプレイヤーで、目下闘技場最強プレイヤーと言われている。


 そしてレディは代わらずこちらの協力者のまま、もし聖石を手にいれた場合、こちらに流してくれると既に話が決まっているそうな。


 全く蠍もレディも見えないところであっさり話を決めて、何とも陰険な事だ。


 そんな中自分はこの前の夜会、ただただ敵の出す情報に振り回されっぱなしだった訳だが……?


 「俺としては十分な成果だと思っているから安心しろ。レディも別にコレといってお前の責任を追及するようなことは言っていなかったしな。寧ろ客が危険にさらされているのに何の対応も出来なかったあの屋敷の主人を追い落とす事で利が出たらしいから、ご満悦だったな」


 なんてこった。陰険コンビは他人の不幸に漬け込んで、一儲けときたか。


 「まぁ、俺の失敗が悪い方にでなくて良かったが、それにしてもアレはどういう事だったのか、混乱で未だに調子が戻らないんだがな?」


 「ふむ、今回四天王それぞれ目的が違ったようだ。一人はお前も戦った四天王ベガだが、コイツは裏社会でも有名な脳筋、何を目的としてるかは知らないが、次から次へと有名な術士を襲い闘いを挑むそうだ。脳筋ならば筋力自慢と戦えばいいのに不思議なことだな」


 「まあ、変な奴だったがあからさまに悪い奴でもなくて、毒気を抜かれたがな。だが問題はこいつを倒したと思った所で……」


 「砂使いに襲われたんだな?それでお前は一人疑っていると?」


 「ああ、例の闘技に一人砂使いがいただろう?声は似ても似つかないが、声を変える装備なんか存在してもおかしくない。何で俺を生かしたか分らないが、ベガの危機を救い、連れ去ったのは間違いないだろう」


 「まあこちらでも追うが、一旦お前は気にしなくていい。今回の戦果としては通常の『改人』を一体と四天王を一体倒したが、核を敵の手に戻してしまったと言う所だろう」


 「分ってる。つまり、何も出来なかったって事だ。不甲斐ないことこの上ないし、言い訳もしない」


 「うむ、戦果は上々だ。何しろこちらでは手の出ない敵相手にお前なら十分通用すると証明されたわけだ。問題があるとしたら、敵を完全に無力化する方法がないことだが、コレに付いては大急ぎで研究中だから、時間の問題だ安心しろ」


 「俺の評価が下がらないのはありがたいけどな。結局あの混沌とした状況はなんだったんだ?」


 「ああ、四天王の一人がレディを貶めたいらしい……」


 「その割にはやり方が妙に稚拙と言うか雑だったが?」


 「そこだな。つまり敵はカマって欲しいんじゃないか?本気で追い込もうという訳じゃない。ちょっと迷惑をかけて、気にして貰いたいとばかりの悪戯だ」


 「悪戯にしては趣味が悪いっつうか、面倒くさすぎるがな。なんだ地雷系のファンでもいるのか?」


 「否定は出来ないな。レディ自身、自覚があるらしいんだが、詳しい事は話さない。その所為でこちらは無駄な労力を割かなきゃならないが、それは言うまい」


 「無駄な労力って……もしかして俺が疑ってる砂使いか?」


 「まぁ……それは気にするな!兎にも角にもお陰で四天王の内三人の姿が見えてきたわけだ。一人は脳筋、一人はレディと因縁のある者、そして【森国】の武人風とな」


 「見えてきたって言ってもベガ以外は正体不明みたいなもんじゃないか。しかも【森国】でやりあった奴はそもそも雷精が効かなかったんだぞ?何がしか手を打たないとまずいんじゃないか?」


 「まあな。それについては俺に腹案がある。だが一旦俺は引き上げるぞ。お前に客が来たらしい。また【王都】のアジトで会おう」


 そう言って音も無く立ち去る蠍、そして客と言えば……。


 最早遠慮も何も無く入り込んでくる二人組み、白い騎士と【海国】の発明家。何か変なテンションの二人な所為か気が合うんだろうな?


 「おい!まだこんな所にいたのかよ!決勝戦見に行かなかったのか?」


 「ああ、満員だったからあとで配信で見ればいいかと思ってな。どっちが勝った?」


 「え~!あんた観てないのに結果だけ聞いて満足するタイプ?まあいいけど!戦闘員Aっていうのが勝ったよ!何かパワーアップしてた!流石グループB!御約束と言うものを理解ってる!」


 「そうなんだよ!戦闘員Aから異形の怪人に変身して倒しちまったんだよ!しかも決め手はお前のフェニックスフレアボム!アレで一気に潮目を寄せてさ~!いや~お前の研究って本当に役に立つんだな~」


 「役に立つんだな~じゃねぇ!役に立つに決まってるだろ!俺がどれだけ苦心してあそこまでもっていった武器だと思う?名前こそ何でああなっちまったか分らないが、あの威力は早々出せるもんじゃないし、何より素材さえあれば大量生産できるんだぞ?このゲームの戦力革命だってなぜ分らん!」


 「そうだそうだ!あのただの危険物をあそこまで実用にしてやったのはこの私だぞ!私の発明が役に立たない訳がないだろ!喧嘩売ってんのか!」


 「いや、悪かったって!威力だけで自爆するしか方法がない武器にもちゃんと使い道があったんだなってそういう事だろ?……なんだ?」


 白い騎士が話していると、外からドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。


 そして、ノックもせずに飛び込んでくるのは緑のヒーロー。相変わらずコスプレ(戦闘装備)のままだが、一体何事だ?


 「おい!まだこんな所にいたのか!そろそろ戦闘員Aが都から離れるぞ?」


 「だからなんだ?って言うか急に部屋に飛び込んできて、開口一番にそれを言われて状況を把握できる奴がいるのか?」


 「なんだって!戦闘員Aの奴もうこの都を離れるのか?それで方向は?どっちの門から出る気なんだ?」


 「え?って言うか一人で帰ろうとしてるの?馬鹿じゃない?あんなに大目立ちして一人で都の外に出るとか!どれだけ自信過剰なのよ!」


 「多分知らないんだよ!今までポータル使って移動してたのか、はたまたコレまでは運が良かったのか……」


 「だから戦闘員Aが都から出るからって何なんだよ?」


 緑のヒーローが言うには戦闘員Aは闘技が終わってその足で都から出ようというらしい。


 そもそも戦闘員Aは目下指名手配を受けている身だから、目的を果たしたらさっさと出て行くのが当たり前だろうに、何を慌てているんだ?


 そして、その事の重大さが自分だけ分かってないのが苛立たしい。何でこいつら変な所で察しがいいんだ?


 「おいおい、ブラックフェニックス!……今は装備して無いからその名前じゃないほうがいいのか?まあいいや。いいか?闘技場と言ったら闘技場名物だろ?コレだけ大きな大会だ相手も相応の戦力を用意してると見てもいいだろ?」


 「そういう事!闇から悪を葬り去るダークヒーローブラックフェニックスたるもの、そこはちゃんと把握してて当然でしょ?」


 「ああ、お前かなり対人戦やりなれてるから闘技場プレイヤーだと思ってたんだが、違うんだな?いいか?闘技場で勝って浮かれてるプレイヤーを狩るPKがこの都周辺にはうじゃうじゃいるんだよ!それを通称……」


 「いやそれは知ってる。だが、なんでそんなに慌てるんだよ。それは戦闘員Aの問題だろ?何よりアイツの逃走速度なら簡単に振り切れるって。何だよ何かよっぽどでかい事件が起きるのかと思ったぜ」


 「いやいやいや、お前も決勝一回戦で当った仲だろ?自分に勝った奴が何処の馬の骨とも分らないPKに狩られていいのか?いやそんな事はない!一度戦ったら戦友だ!万の言葉を交わすより一度剣を交えた方がよっぽど分かり合える!俺達はそんな不器用な生き物だろ?」


 いや、白い騎士のテンションが上がりすぎて、謎の生き物認定されるんだが?


 「じゃあ助けに行けってか?俺はこの前装備壊されたばかりだから無理だぞ?」


 そう言いながらボロボロの装備を取り出して見せると、サイーダがそれを取り上げつつ、アイテムバックから何やらごそごそと取り出した。


 「ふっふっふ!こんな事もあろうかと!ブラックフェニックスパーフェクトフォーム!その名も『カイザーフェニックス』フォームを既に完成させていたのだよ!さぁ我を称えよ!」


 サイーダが異様なテンションで取り出すのは黄金に塗装されたブラックフェニックス装備一式。


 確かに前に一度装備を見せた時やたら興奮して解析していたが、まさかこの短時間でコピーするとは……それえもキンキラキンに塗装しやがって……。


 「いや、その金装備で行くのか?ホントにか?正気じゃないだろ?あの装備の機構をこの短時間でコピーしたのは凄いと思うがよ」


 「ちがーーーう!言ってるだろパーフェクトだと!そう!あの装備ではまだ100%出せていなかったフィルムケースの力を限界いっぱいギリギリまで引き出せるようにしたのだよ!それはもう綱渡りの絶妙バランスでな!」


 「そんな危険なもの使えないだろうが、しかも戦闘で……」


 「いいからコレを着て友を救いにいけよ~!ヒーローだろ~!ツンツンしながらピンチには駆けつけちゃうのがダークヒーローだろ~!」


 何か黄金装備を押し付けて、絶対に着せる気しかないサイーダだが、せめてこの彩色センスだけはどうにかならないもんか?


 「まあ、装備問題も解決したし、一緒に戦闘員Aを救いに行こうぜ!アイツは世界を守る為、強敵と戦う力を手に入れに来たんだ!それを送り出すのが負けた俺達の仕事だろ!」


 「いやそれはお前達が勝手につけた設定だろうが?」


 「いいから!復讐に彩られた黒い怪鳥が一度負けて復活してパワーアップとか!そんな激熱展開、誰も予想して無いから!皆準備不足のまま突っ込むのに、お前だけ設定てんこ盛りなんて羨ましい!正直羨ましいけど!ここは主役をくれてやる!」


 なんかもう緑の中では自分が戦闘員Aを助けに行くことは決まっているようだ。


 まあ正直な所この装備の配色センスを除けば、PKを狩るのに否はない。


 寧ろ調子こいて優勝者を大人数で囲んでいたぶる可能性もあるし、そんな外道を痛めつけたならそりゃ楽しいかもしれん。


 任務が上手くいかなかった腹いせ、適当な理由をつけて大暴れして切り替えるのも悪くはない気がしてきた。


 「分った行く」


 それだけ言って新たな装備を身につけると、黄金の装甲に隙間から見える黒い下地の全身タイツが、何か如何にもヒーロー過ぎて、逆に最近のヒーローでは2号的ネタポジションの配色じゃないか?


 まあいいか戦えれば、と思いつつ現地に向かう緑のヒーローに付いていくと何故か走り書きのメモを渡された。


 「何だこれ?」


 「取り合えず出来合いだが、今考えたお前の設定だ!何も知らない連中の度肝引っこ抜いてやろうぜ!」


 度肝を抜かれるって言葉はあるが、自分が度肝引っこ抜くってのはどんな表現だ?と思いつつ、メモの中を確認すると……。


 「まじか?コレを叫ぶのか?俺が?」


 「ああ!絶対格好いいぞ!」


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 【闘都】のいくつかある出口の一つ、最も人通りの少ない風に砂でも舞ってそうな無骨な風景を一人の地味なローブの男が歩いてくると、下品な笑い声と共に姿を現し道を塞ぐPK。


 PKはPKらしく不意打ちでも何でもすればいいのに、よっぽど自信があるのだろう。


 いくらかの問答の後、PKの仲間がぞろぞろと、よくもまあこのゲームにコレだけの数のPKがいたなというほどに集まってきた。


 しかしそれでも余裕の雰囲気を隠さない地味なローブの男。いくら闘技の優勝者とは言え、普通コレだけの人数に囲まれたら焦りの一つも見せるだろうに、どんな胆力をしているのか?


 何処からとも無く……陰になる場所で楽器モチーフと見られる戦隊ヒーロー達が勇壮な曲を掻き鳴らすと、崖上にプロミネンスレッドを中心とした戦隊ヒーローが上がり口上を述べる。


 あっけに取られてるローブの男とPK……。それはそう、PKだっていきなり戦隊ヒーローに喧嘩売られるとは思ってないだろう。


 そしたら今度は寂しげな曲調に変わった。


 合図をされてそのまま崖上に登り、渡されたメモをこっそり見ながら叫ぶ。

 

 「俺は復讐を止めた・・・なぜなら全てのヒトに戦う理由があるからだ。ならばその苦しみを共に背負おう。いつか平和な世界が来ると信じて!カイザーフェニィィィックス!!」


 そうか~自分は復讐をやめてパワーアップしたんだな~知らんけど。


 その後も次から次へとヒーロー達が崖上に上がり、出尽くしたと思ったら今度は怪人たちも口上を述べていく。


 本当に急ごしらえでよくここまでやるな~とは思うが、皆大真面目だ。


 自分がここに辿りつた時には時間が無く、大慌てで自分が一番最初に立たされる所だった。


 理由は言わずもがな、自分だけパワーアップフォームを用意してたから。


 だが段取りがよく分らないからと、ヒーロー達の中でもリーダー的存在のプロミネンスレッドに一番手を頼んだと言うわけだ。


 さて、乱戦の始まりだと思ったら、水色のヒーロースカイブルーが手を差し出してくるので、フェニックスフレアボムを渡した。


 「ヒーローは爆発だ!!!!」


 叫びながらフェニックスフレアボムのスイッチを押して、PK達のど真ん中に投げ込むと爆風と爆熱が一気に膨れ上がり一帯のPKを吹き飛ばす。


 自分は仲間が近いと戦いづらいので、離れつつ両手の節尾剣で外側からPKをちまちま狩る。


 ついでに、目の端でドリルのような槍を持つ、怪人マスク・ド・ツタンも確認しておく。


 こいつがあの砂使いかどうかは分らないが、警戒しておくに越したことはない。

次週予告


 復讐をやめたカイザーフェニックス

  黄金に輝く鎧は希望の未来を切り開くのか?

   少しづつ姿を現す四天王を倒すべく『孔雀』狩りに向かう事になる

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