23.武人
頭領に連れられ森の間の道を進み、徐々に出てくる魔物が強力になってきた頃、目的地へと辿り着いた。
森の中の魔物はとにかく擬態と奇襲を得意としていたが、日頃夜間戦闘で鍛えてきた探索用スキルが生きたおかげか、自分にとっては無難な狩場で助かる。
擬態さえ見破れば、妙に硬いとか早いとかそういう特殊ステータスの敵じゃなかったのも幸いしたか。
いずれにせよ分布する魔物と自分の相性は悪くないって事だ。
しかしお手軽状態はここまで、目的地は小さな祠が一つあるだけでヒトの気配一つない静まり返った森の奥、切り立った壁には木の根が張り、ぽっかりと大穴が空いている。
「何か臭うな」
「これが瘴気の臭いじゃぁ、これより先は儂には入れん」
「そうか、道案内助かったよ。じゃあ行ってくる」
「ぅむ、この瘴気の濃さだと確実に大型の邪神の尖兵がぉるからの重々気をつけょ」
ゆっくり、息を吐ききって洞穴の内部に進む。
洞穴の内部は予想通りというかなんと言うか、かなり暗いものの、スキルの恩恵で全く見えないと言う程ではない。
こういう土の洞窟はいつ崩れるかなんとなく不安なものだが、壁一面に木の根が張っている所為か、妙に安定感を感じているのは不思議なものだ。
ただ、歩いている足場からも時々根が出てて、引っ掛かるのはいただけないが、贅沢を言っても仕方ない。ただの一本道をひたすら進む。
ふと思うのが、この洞穴は何のために作られたのか?って事だ。何しろ表には小さな祠が一つあるばかり、つまり何か資源を掘り起こしたとか言うモノではない筈?
ふと壁の木の根の間に何か震えるように動く物体を見つけた。
近づいてよく見てみると、ぶよぶよとした液体とも個体とも言いがたい黒い何か。まあゲームをする人間なら何となく想像はつく、スライムだ。
モノは試しと試作剣を取りだし、火精のフィルムケースを仕込んで精神力を流して赤い剣身を発生させ、そのままスライムを斬ってみる。
あっさりと切断されたスライムは半分近く蒸発して消えてしまったが、どうやら核が残っている方が残って、切断される部分は蒸発して消えてしまうようだ。
しかしその蒸発する時に発生する臭いがきつい。ただでさえ洞穴中に硫黄泉のような臭いが充満しているのに、スライムの蒸発で臭いが強くなる。
ここまでスライムは反撃してこない、ただ震えるばかりだ。多分小さい内は魔素を広げる役割しかないのだろう。魔素を広げて更に仲間が発生することで、いずれ大きな個体が発生するとかそんな感じか?
核を潰すとあっさり全体が蒸発して消えて、後には何も残さない。つまりアイテムや素材ドロップのない敵という事だ。
これはプレイヤーが好き好んで倒すタイプの敵じゃないなと思いつつ、近くを見やると、何気にそこら中にスライムが隠れていた。
何しろ大人しい生き物?なのでただでさえ暗い洞穴の中、黒歩い半透明のスライムは見つけづらい。
精神力の消費が激しくなるが仕方ないと、次々スライムを潰し、プレイヤーなら誰もが最初から持ってるアイテムバッグから精神力回復用の薬を取り出して飲む。
アイテムバッグは中身をまさぐる必要はないし、しまう物のサイズとバッグの大きさの関係ないいわゆる四次元バッグだが、中身はスタックで仕切られ物を持てる数は限られている。
仕様はやはりゲームだが、アイテムをバッグから取り出すのに目を瞑って、アイテムバッグの中身の画面を起こさないといけない事や、出すまで多少時間掛かることから、戦闘中に道具を出すというのはかなり難しい。
緊急で使う物は予め出して、別のポシェットや何かにしまって置くのが無難だろう。
今はスライムたちが別に反撃もしてこないので、バッグから出して丸薬と液薬を飲んでいる。再使用に多少クールタイムが必要なのが、ちょっと面倒だ。
ちなみに小さなポシェットを装備して最低限の薬は緊急で使えるようにしているし、それはプレイヤーなら常識の範疇となっている。
しかし、この剣はちょっと消耗が激しいな。フィルムケースに精神力を流しっぱなしにする関係上、仕方ないのだろうが、術士の石を渡してある程度は無消費で使えるように改造してもらうとするか。
ベルトの方も余剰精神力を溜められるようになっているが、剣もとなると術士の石に精神力を溜める為の時間がちょっと長くなるか?
まあその辺は、作ってもらってから相談だな。要は回復まで時間をおければいいわけだし、術士の石に溜めた精神力が切れたら、直接精神力を込められるように切り替え可能なら尚助かるといった所の話でしかない。
ちょっと軌道の独特な試作剣を狭い空間で振り回す感覚をつかみつつ、一本道の洞穴をひたすら進んでいると、急に天井が高くなった。
まあ大体こういう場所はボスが待ち構えているものだ。何しろど真ん中にでっかい葛饅頭が鎮座している。
臭いのきつさから言って絶対腐った葛饅頭だろうが、コイツはと大人しいって事はないんだろうなと思いつつ、近づいていく。
既に剣身は発生させて臨戦態勢だが、さてどう攻撃してくる?
あるラインを境に緊張感が増すのは、敵に警戒されているという事だろうか、大型スライムから一本触手上の何かが伸びてきたので、斬り落とす。
あっさりと赤い剣身で斬り落とせた事にほっと胸を撫で下ろした瞬間には、無数の触手が襲ってくる。
剣を思い切り振れば、延びる剣身で一気に大量に斬り落とせる。手応えも何もないが、切れた触手が地面に落ちては蒸発しているのだから、効いてはいるのだろう。
しかし触手が落ちた傍から新たな触手が生えてくるので、休む時間はない。ひたすら集中してガンガン斬って斬って斬りまくる。
どれほど斬り続けたろうか?ふと剣身が消えた瞬間に自分の精神力が切れたことを悟る。
すぐに飛び退いたが、それでも追ってくる無数の触手に警戒しつつ離れた位置から大型スライムを観察するとかなり小さくなっていて、核が透けて見えている。
ならばと試作剣をしまい、ベルトに風精と氷精のフィルムケースを挿して起動!
緑地に白い模様の浮かび上がり、準備が整った所で走り出す。
風精の効果で移動速度が大幅に上がり、ちょっと走るだけで触手は自分に追いつかない。
中央に鎮座してた大型スライムが、ここにきて大きくジャンプして頭上から襲いかかってきたので、こちらも風精で強化したスピードのままスライムに向い、氷精側のボタンを押す。
白く発光して足からスライムに飛び込むと、凍ったスライムの核を砕いて、貫く。
凍ったままバラバラになったスライムが地面に一欠片落ちる度に瘴気へと変っていく、何とかトドメは刺せたが、こっちは空欠だ。
苦労した相手だったが、結局何も落とさないのが邪神の尖兵って敵らしい。なんともいやらしさで言えば、名前に邪神とつくだけの事はある。
ふと、奥にもまだ道が続いているのを見つけて、精神力を回復しつつ向ってみる。
何の変哲もない土で出来た階段を登っていくと外に出れたのだが、目の前の空間には何もない。
下に落ちるか、上に登るかの二択を迫られる切り立った壁に、上を見てみれば張り出した岩の様な物が見えたので、尾節剣を取り出して巻きつけて引っ張ってみる。
かなり丈夫そうな手応えなので、そのまま尾節剣を縮めて上に出てみると、崖で途切れた丘の上から丁度沈みかけの夕日が見えた。
【森国】に来てからというものの、ちょっと薄暗い場所に慣れすぎた所為か、妙に眩しく感じるが悪いものではない。
その時背後から気配がしたので、振り返ってみると……。
「貴様が我らの邪魔をする怪しい男か」
「俺が怪しい男だったら、あんたはなんだって言うんだ?」
相手は夕日に照らされる黒いフルアーマーの渋い声の武人?腰に刀と手に槍を持っているが、甲冑は金属のファンタジー複層装甲って感じで、自分のようなハリボテとは明らかに重量感が違うように見える。
完全に全身を鎧で覆い、肌の見える場所が全くない相手なので声と武装しか情報が無い。
しかし自分を邪魔者と断定すると言う事は、邪神教団なのだろう。邪神教団というのはローブを着ているか、すぐに再生する半裸男のイメージだったから、かなり意外な見た目なのだが【森国】の邪神教団はこんな感じなのか?
余計な問答に興味は無いのか、ゆっくりと槍を頭上に構える相手に、自分も両手に尾節剣を構えて警戒する。
かなり離れた位置から槍を突いてきた事に、驚く間もなく鳥状のエフェクトが飛んできたのを転がって回避。
お返しとばかりに、
尾剣術 串
地面に剣を突き刺せば、鎧の男の真下から襲い掛かる尾節剣をあっさり掴んで見せられた。
「こんなものか、曲芸と変らぬ」
「ふん!うるせーよ!なんだってやらにゃ生き残れねーんだよ!」
反対の手に持った尾節剣を振って殴るが、微動だにしない相手が今度は槍を振り回す。
すると、一帯を薙ぎ払うようなエフェクトが派生し、吹っ飛ばされた。
ぎりぎり崖から落ちる事はなかったが、現状こっちの攻撃は何も効かない上、敵は自分より間合いの狭い武器でも術で圧倒してくる。
しかも紙装甲の自分では一発でかなり生命力が持ってかれるというおまけ付き。
「ふむ、見た目の割りに身軽かと思いきや、ただの見た目だけという事か。何故この程度の相手に改人が三体も?」
「さあな。その改人ってのが弱すぎるんじゃねーか?」
言いながらも片方の尾節剣をしまい、ベルトに風精と雷精のフィルムケースを挿して起動。緑地に紫色の模様が入る。
「それが、切り札という事か。やってみろ」
そう言いながら槍を地面に突き刺し、無手でこちらを迎え撃つ格好の敵に、風精で強化した移動速度で一気に距離を詰め、飛び込む。
何がどうなったか分らないまま、ひっくり返されいつの間にか空を見ていたが、足元にいる敵の下腹蹴り上げる。
冑で表情も見えないが小首をかしげた所に、雷精のボタンを押せば、鎧のラインとパイピングが紫に発光して、足から紫のエネルギーが敵に吸い込まれた。
一瞬ビクッと振動した相手だが、そのまま自分の足を掴みぐるっと一回転して放り投げられた。
「なるほどな。これでは改人共ではひとたまりもないか。腕は足りないがその武器に一定評価を与え、及第としよう」
「な……どういう事だ?」
軽がる片手で放り投げられた筈だが、地面を滑り気に激突してやっと停まった。息が詰まる中、何とか聞き返すと、
「お前の成長に期待するという事だ。足りない身体能力はこのまま邪神様の尖兵を狩っていれば、すぐに身につく。あとはその見た目だけの紙同然の装甲だが……まあ腕のいい職人がいるようだ何も言うまい」
それだけ勝手に言い置いて、どこかに立ち去る鎧の敵。その敵の背中に言葉を投げかけるも、
「おい、お前何者だ!」
「まだお前は名乗るに値しない」
完全に雑魚扱いだ。生き残ってほっとする気持ちと屈辱が綯い交ぜになって、立ち上がる気力が湧かない。
そのままぶっ倒れたまま、ぶつかった木を眺めていると、いつからそこにいたのか、真横に頭領がいた。
「完敗じゃのぅ、命ぁっての物ダネと言うし、いつまでもふて腐れるもんじゃなぃぞぃ」
「それもそうだな。しかしいつから見てたんだ?」
「崖から顔を出した所からじゃぁ。戦うのはじじぃには向かんから見てぉった」
「全部見てたのかよ。戦闘の苦手な爺さんに聞くのもアレだが、俺に勝ち目はありそうだったか?」
「あるぞぃ。ぉ主はまだ伸びしろがあるからの、ぃくらでもやり様はぁるて、あまり気にするもんじゃぁなぃ」
そうか、自分は元々生産職だし、弱いのも当然か。立ち上がると頭領がさっさと森の奥に進み始めるので、追いかける。
次週予告
邪神の尖兵は倒せたものの
更なる強敵とのぶつかり合いに圧倒され意気消沈する黒い怪鳥
それでも周囲の彼に対する『期待』は変らず新たな仕事を請ける事になる




