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2.研究者

 他人から命を狙われる恐怖と高かった筐体への未練。


 人間とは何とも愚かなもので、結局高かった筐体をもう一度起動してしまう。


 今度はもう少し慎重に行動すると、子供でも考えられそうな言い訳を胸に再びログイン。


 二度目でも褪せる事のない感動。自分が生きている現実とは違う仮想現実世界。


 仮想にもかかわらず、本当にそこに存在するとしか思えない不思議な空間。


 今度こそはとちゃんとチュートリアルを受け、ナイフ片手に外に出る。


 ゲーム内は昼、見渡せばまばらに人もいる事だし大丈夫だろうと、そこらに生えてる草の採集をしようとした所で、影が落ちる。


 振り返れば、逆光で顔もよく見えない影が複数。


 あっという間に取り囲まれ、反射で逃げようとするも背中を一突き、


 平原に転がり、影達の顔を確認した時の自分はどんな顔をしていたのだろうか?


 嗜虐的な笑みを張り付かせたアバター達。


 こんな所までリアルに再現しなくてもと思ったその時、飛んできたのは一本のランス。


 PKの一人を突き刺し、そのまま慣性で近くの木に串刺しになるPK。


 先ほどまでの笑みが恐怖で凍りつき、足をもつれさせ転ぶ者。虚空に向かって媚びへつらう様な笑みへ転じた者。


 それらをあっという間に轢き潰し、駆逐してしまう馬にまたがった騎士。


 プレイヤー最強鈍色の騎士に救われた。


 ゲームの正式オープンから間もない頃、無法の限りを尽くすPKから何も知らぬ新人達を守ってきた騎士に憧れ、そのクラン『Kingdom Knights』に入れてもらったまでは良かったが、


 その時には既に自分は戦えなくなっていた。


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【王国】クラン『Kingdom Knights』


「ふっふっふ!今度こそ上手く行くぞ~。風精が突風を生み、火精の力を吹き飛ばしてくれる筈!つまりコレを使えば、誰でもファイアーストームを使えるって事だ!まあ最悪<火精術>ほどの威力が出なくても、道具で再現できればきっと使いどころもあるだろう!」


 誰もいないただただ丈夫なだけのクランホーム内訓練場で、これから戦闘の歴史を変える実験を始めようと思う。


 ちなみに歴史の証人は自分一人!だが研究者とはそんな物さ。電話を発明したベルは運よく助手に電話出来たらしいが、普通は一人で発見し小躍りする物じゃなかろうか?


 寧ろ人に見られてないが故にいざ感情が爆発して、あられもない醜態をさらしても自分の思い出の1ページにできるってもんさ。


 さて、風精と火精の力を抽出、凝縮して混ぜた液体に精神力を流す。


 すると、なんと言う事でしょう。


 轟音と共に爆風が走り、圧倒的エネルギーの奔流が周囲を焼き尽くしながら破壊し尽くす。


 「ん~なるほど確かに風は起きたが、指向性なんてもんは無いな。完全に放射状に広がる風に火精の力が乗って焼き尽くす感じか。ああでも火精の力が体に残っていつまでも焼き続ける訳じゃないのか!これは大発見だな。つまり単発の大ダメージ道具として使える可能性がある。火精のみだと強力な……異常な火ダメージの継続の所、一発大ダメージで終わるんだから、樽爆弾に変わる大ダメージ武器としての可能性を秘めてるぞ!問題は手に持って使うしか方法がないことだが、何とか有線で……出来れば無線で起動出来れば……トラップとして……」


 「おい!おいってばよ!何があったんだこれ!」


 「いや実験してたらやっちまったわ」


 「やっちまったじゃないんだよ!またどうせ錬金の実験なんだろうが、幾らなんでも危なすぎるだろそれ!誰も使わないから、さっさと捨てて普通の〔賢者の石〕を作ろうぜ!精霊の力ってのは<精霊術>で引き出すから安全に使えるもので、お前みたいに好き放題爆発させればいいってもんじゃねぇんだよ!」


 「いや、でももしこれが実用化すれば、手に収まるサイズで今の樽爆弾とかと同様の効果が得られるんだぞ?まさに革命的武器だ!何とかして制御出来る様に……」


 「はい!研究に戻らない!この惨状見て分かるな?お前がやったんだぞ?研究は掃除してからにしろよ!」


 「え?そんな……」


 焼け焦げた床に崩れ落ちるように座っても、爆音を聞きつけてやってきた同僚の表情は変わらない。はじめっから最後までただの鬼だ。


 仕方ない……やたら怖いので、ここは素直に掃除でもしますか。


 箒を手に取り、使えない瓦礫を片付けていると満足そうに頷く同僚。


 ここは見た目だけ掃除しているフリをして頭の中は研究を進める作戦で行こう。


 何しろ属性を混ぜるって言うのはありだと思ったんだよな~。少なくとも効果が少しはマイルドになるだろうと言う狙いはあった。


 何しろ水精と氷精は混ぜるのに成功している。


 何でも凍らせてしまう氷精は使えば自分が凍るし、水精は何でも溶かしてしまうので、どっちも性質が悪い。


 だが、水精で形を作って氷精で固めれば、自在に武器が作れるんじゃないかと実験した所。


 何故かデバフがバフに転換した。これが謎の精霊クオリティ。


 氷精と水精で凄い氷ができるのかと思いきや、程よい氷水で癒してやろうってか!?


 まあ、実際には氷精バフの『耐性』と水精バフの『回復』が同時に発動する優れものだ。


 難点は折角使える物になったのだが、発動するには液の入った容器を握りこんで精神力を流し続けねばならない。


 片手空いてたら普通は盾なりサブウエポンなり持つって言うね。何なら術士にバフ掛けてもらえばいいだろって、その通りなんだけどさ


 だったら<練金>の意味無いだろう!術士じゃなくても色んな精霊の力を使えるのがメリットなんだからさ!


 まあしかし、このバフデバフの転換が一番の問題だわ。


 水精と氷精で、近似系の精霊の掛け合わせがバフに転化するきっかけだと思って、陽精と火精を混ぜたが反応しそうでもう一押し足りないって感じ。もしかしたら陰と陽はちょっと特別な感じかもしれない。


 まあ、今は火と風だ。勿論バフには転化しなかった訳だけど、燃焼と衝撃の同時ダメージ、しかも継続ダメージが出ない事で火精単体で使うよりはかなり使い勝手のいい物になった確信はある。


 あとは外側だよな~誰でも使えるようにするための装置は誰かに作ってもらうしかない。


 ちなみに風はやたら激しい突風で吹き飛ばされる。対象を選ぶなんていう器用な制御は当然無理なので、使用者である自分が一番吹き飛ぶわけだ。


 まあそんな実験ばかり繰り返してれば、クラン内でもちょっと浮いてしまうのは仕方ない。


 何だかんだと、何かあれば駆けつけてくれて、説教してくれる奴らがいるだけいい場所だと思うし、なんとか一個でもいいから使い勝手のいい道具か装備でも持たせてやりたいよな~。


 「おい!手が止まってるぞ!また考え事か?」


 「ああ、悪い悪い。つい他にも、もっといい組み合わせが無いかなとか考えちまってよ」


 「まあ、材料も安くはないし、しょっちゅう実験できる物でもないんだろ?よく考えるのはいい事だとは思うが、結果爆発させて掃除させられてもな~」


 「そう言うなって、俺だって何とかいい物作って回せればとは思ってるんだからよ」


 「あれじゃないか?少し根つめすぎて視野が狭まってるとかさ。偶には都でもぶらついてみたら何かいいアイデアの一つも思い浮かぶんじゃないか?」


 「んなこと言われても、外はいつも通りだろ?」


 「いや、例えば最近噂の黒い怪鳥のことは知ってるか?」


 「え?あ……どうだろうな?噂になってるのか?」


 「なんだよ。『騎士団』内でもかなり噂になってるってのに知らないのかよ。じゃあ『騎士団』狩りは?」


 「ああ、なんか『Kingdom (うち)Knights』が狙われてるんだろ?って言っても俺は生産職だしそこらをほっつき歩かないからな」


 「まあそうだよな~。その『騎士団』狩りに遭うと、どこからとも無く黒い全身鎧の男が現れて助けてくれるんだってよ」


 「ふ~ん、でも顔とか見れば何となく誰か分かるもんじゃないか?」


 「いや、それがフルフェイスの全身鎧でな。中身は誰も見た事無いんだ」


 「じゃあ、何で男だって分かるんだよ」


 「まあな、俺も噂で聞いただけだから何とも言えないんだけど、既に何人も遭遇してるらしいから嘘ではないっぽい。男だってのは声で分かったんだと」


 「喋る相手なら普通に聞けばいいじゃん」


 「いや、話しかけても何も言わずに何処かに行っちゃうらしい。助けてもらって余計な詮索も出来ないって奴もいたな。そりゃそうさ、正体がばれたら今度はPKが集団で狙ってくるかもしれないんだし」


 「ふーん、しかし何で怪鳥なんだよ。全身鎧なんだろ?飛べ無さそうじゃん。ダチョウみたいに早く走れそうもないし……」


 「なんか鎧の意匠が鳥っぽいんだと、あと何故か全身鎧の筈なのに飛ぶって言う噂もある」


 「意味わかんね~理屈にあってねえもん。重量が重ければその分スピードが落ちるし、ジャンプ力もなくなるから一応平等なシステムなってるはずなのに、そこ逆らっちまったら、ゲームじゃないじゃん」


 「まあな~。とまあ、こんな風にゲームの中も色々不思議で溢れてるんだし、片づけが終わったら偶には散策でもしてこいよ」


 「あ~終わったらね。てっきり変わってくれるのかと思ったぜ」


 「流石にそんな甘やかしはしないっつうの」


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 【王都】-夜-


 「いたぞ!追え!」

 「うるせー命令すんなつったろうが!」

 「やる気が無いなら帰れ!うちは仲間何人もやられてんだよ!」

 「俺だって同じだっての!くそ!しかし何であんな重装備で飛び回りやがる!」

 「おら!無駄口叩いてないで、さっさと追うぞ!何とかあいつの正体を割らねぇと俺達のPKライフが台無しだぞ」

 「はは!何がPKライフだっての、だったら【帝国】かどっかで地味な田舎者プレイヤーでも狩ってろっつうの」

 「あ?こちとら【王国】PKで一番数集めてるっつうの!誰のお陰で『騎士団』の奴らに一泡吹かせられると思ってんだ」

 「誰もそんな事頼んでねぇよ!好きに狩ってサイトにアップして一儲け!シンプルだからPKやってんだろうが、そういう頭ごなしにルールやら秩序やら押し付けたければ、それこそ『騎士団』に入ればいいじゃねぇか、何なら俺が狩ってやるよ」

 「いい度胸だ!ちょっと都の表出ろ!白黒つけてやるぜ!」

 「おいおい、いい加減にしろよお前ら!今日は怪鳥を追い詰めるってんで集まったんだろ?やり方はどうこう言わねぇが、仲間割れして邪魔するなら、本当に帰るか、二人だけ都の外でやってろよ。誰も興味ないから」


 とまあ、PK共がやたらうるさい。


 いずれこんな日も来るだろうと思ったが、存外早かったな。


 最近は『騎士団』内でも単独での狩りは慎むように言われてるし、奴らも収穫が減って気が立ってるのだろう。


 だからと言って、掴まるつもりはもうとう無いが、アジトまでもう少し……。


 【王都】新街区と旧街区の入り組む複雑な地形の一角に、あからさまに他の家に挟まれて入り口の見当たらない建物があるなんて、誰も知らないだろう。


 普通にジャンプしたんじゃ到底登れない屋根。流石に他人の家の窓に足を掛けて登る変わり者もいないだろう。


 ある程度、PKを撒けたと思った所で、


 「ウイング展開」


 背中に仕舞ってあった羽を展開。勿論自分の意思で動かせるよな物ではないので、風を受けるためだけのグライダーって所。


 そして、一本の容器を取り出し精神力を送り込めば、突風が吹きその風に煽られて空を舞う。


 何とか重心を保って入り口のない家の屋根の上に向かい、鞭剣を使って強引に着陸……不時着。


 何度やってもこの着地の感覚がつかめないのだが、まあ仕方ない。この高さまで来れるのは自分だけだ。


 屋根の一部が入り口になっており、内部に向かう。


 階段を下りてすぐに、行き止まりの様だが、ここにも仕掛け振り返って階段をずらせば更に奥まで入れる。


 いくつかのギミックを通り抜け、辿り着いたのは広い地下空間。


 入り口横には受付があって、いつもニコニコしてるおばちゃんが一人。


 「戻りました」


 「お疲れさん。今夜は騒がしかったね。装備は預かるよ」


 いつもの会話、装備を任せて入ってすぐのソファに腰掛ける。


 飲食をしたければ受付に言えばいいし、宿泊も可能。一体何の秘密組織なのかもよく分からないが、結構長い事世話になってる秘密基地?


 当初はもっと複雑な別ルートで来ていたのだが、最近は空からのルートが一番早い。


 装備を外すとなんかもう色々ボロボロだ。


 取り合えず、おばちゃんにご飯を貰って今日は寝よう。

次週予告


 【王都】PKを狩る黒い影は追われる

  こうなる事は必然であったにも関わらず何故PKKを繰り返すのか

   そしてその力は本物なのか『ハリボテ』なのか

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