19.準備
【馬国】から持ち帰った金属のような石はどうやら隕鉄?らしい。
まあ鉄とは組成が違うのだが、宇宙から降ってきた金属って言う捉え方だ。
何で隕鉄が重精なのかその辺の理屈はさっぱりだが、そういうものとして受け入れるのがいいだろう。
早速重精の力を抽出する為に実験用具を揃えていると、結局いつも通り邪魔が入る。
「よう!今回は長旅立ったじゃないか!どこ行ってたんだよ!」
「ちょっと【馬国】にな。見ろよこれ」
「なんだこりゃ?金属なんだか石にも見えるし、不思議だな?」
「これには重精の力が宿ってるだとよ。探しに探した風精の近似ってわけだな」
「へ~~~!凄いじゃんか!やっときたか!それでどんな効果があるんだ?」
「だからそれを調べる為に、こうやって抽出しようとしてた所にお前が来たんだろ?」
「そうか悪い悪い!まあいいじゃんか!最近これと言って噂もなくて暇だったし【馬国】で何かなかったか?」
「別に?普通だけど」
「普通ってなお前!旅先に行ったら、土産はなくとも土産話の一つくらいあってしかるべしじゃん!」
「何がしかるべしだ。しかしお前が噂話の一つも拾ってこれないなんて随分このゲームも平和になったな」
「ああ、そうなんだよ。PKは例の返り討ちから大人しいし、事件起こす奴もいないし、例の黒い怪鳥?とか言うPKKの噂もないし、急に無風状態でさ。逆に気持ち悪いよな」
「逆に気持ち悪いって、なんだよ」
「いやほら、嵐の前の静けさって言うのか?妙にざわつくんだよな~。結局やる事無いからって皆地道にクエスト始めちまうしさ」
「じゃあ、お前もやったらいいじゃないか。クエストこなさないと強くなれないって事なんだろ?」
「まあな、今日はもういくらかやってきた。そういえば噂って程でもないけど、NPCがいろんなクエストを急に振り始めたらしくてさ。まあそれで静かってのもあるんだろうけど、それってさ強敵が現れる前触れなんじゃないかって思うわけよ」
「へ~、今までそこまでうるさくクエストの事言わなかったNPCが急にね~。俺は元々<錬金>やる為に定期的にクエストこなしてるし、別に変わった事なかったけどな」
「それだけかよ~。何かもっと何か話題ないのかよ!【馬国】って言ったら前にレギオンボスに挑戦して負けたりとか、それくらいしかないんだよ」
「話題な~……。そう言えば何か急に他人の事スケベ扱いしてくる変なピンクのNPCには会ったな」
「なんだそれ!そういうのだよ!面白そうだったら俺も会いに行くわ!」
「いや、別に面白いとかそういうのじゃないけどな。そう言えば、防御の話したんだけど、お前にとって防御ってなんだ?」
「防御?俺は軽装だし、回避とパリィ位かな?なんだ急に、戦闘やりたいのか?いいぜいくらでも教えるぜ!」
「ん~、武器使われると俺は何も出来ないからな。要は相手が完全に敵だと認識するまでどうするかって話なんだが」
「不意打ちへの警戒とか、戦闘への切り替えとかそういう事か?そういうのは上手くやるしかないよな。しかし防御ね~、確かに力を溜めておくってのは一つだけど。結局勢いつけて押し流しちまった方が強い気もするがな~」
「だよな。なんなら不意打ちで攻撃して、そのままこっちの土俵でやる方が有利な気がするんだよな」
「……あっ!いた!防御の達人!寧ろ防御から戦いの起点作る異常に強い奴!」
「誰だよ?青騎士か?確かに重装タンクだし防御は上手いだろうが」
「青は仲間を守るのが上手いけど、攻撃はそこまでじゃないんだよな。あれだよ隊長!隊長はブロックの達人でな、スキルと併用する事で相手の一瞬動きを止めるのさ」
「一瞬でどうすんだよ」
「その一瞬であのショートソードが喉を貫いてるんだよ。すると今度は急所判定でまた硬直する」
「うげー、はめ殺しって言うか塩漬けって言うか、一回防御されたら立て直せずにそのまま終わるってか?やっぱり噂どおりやばい奴だな」
「でもそういう事じゃねぇの?防御して相手の様子をよく見て戦い方を考えてから反撃に移るって話じゃないか?」
「なるほどな。確かに相手を知る為の時間を稼ぐ防御の話をしてたかもしれない」
「じゃあ、ちょっと訓練場行って練習しようぜ!」
「何でそうなるんだ?」
反抗した筈が、結局訓練場で白い騎士と向かい合う。
「いいか?お前はいつも横にいる仲間からの攻撃に反応しちまうが、こう相対して避ける事に集中すれば、もしかしたら大丈夫!かもしれない」
「かもしれないね……ハイハイ」
「変な欲を持たずに、とにかく避ければいい!」
言うが早いか、真っ直ぐレイピアでついてきた所を体を横に捻って回避。
「こうか?」
「出来るじゃねか!いつも攻撃が怖くて体が変な反応するって言ってたけど、相手に集中してれば全然平気じゃん!」
「言われてみるとそうだな?なんでだ?前は体が寧ろ固まって、全然動けなかったんだが……?」
「よし!じゃあ回転上げてガンガン行くぞ!」
基本はレイピア使いの白い騎士の攻撃は基本突きの連打。右へ左へ、時々しゃがんで、追撃されれば転がってかわす。
思った以上に全然いける。いつの間にかトラウマ克服してたのか?
その時横にヒト影が現れ、ビクッと体が反応し、変な格好で体が固まった所にレイピアが突き刺さる。
「おい、イジメか?お前がそんなことするなんて見損なったぞ?」
「ちげーよ青!コイツのトラウマが克服されて、戦闘できるようになったかもしれないから、回避の練習してたんだよ」
「喰らってるじゃないか?」
「お前が急に横から出てきたから、体が固まったんだろうが!まだコイツは相手を敵と認識して集中してないと無理なの!」
「そういう事か、まあ程々にしろよ。追い込みすぎて寧ろ悪化したら責任なんて取れないんだからな」
「分ってるっつうの!」
「いや、今のお前のスピードはマジでやる時のスピードだから言ったんだ。重ねて言うが十分気をつけろよ」
そう言って、青い騎士はまた訓練中の外へ行ってしまった。
「大丈夫か?」
「ああ、だがまだ急にくると体が固まるな」
「そういう時は一回大きく逃げるしかないな。固まる反応を逃げる反応に変えて、冷静に状況を確認し直せば、多分お前ならやれる!」
「そういうもんかね?」
「ああ!青も言ってたが、俺が本気でやる時のスピードについて来れるんだから、相当の反射神経だ。勿論フェイントも使ってないし、視界に入るように少し距離とってはいるが、それでもこれを避けるってのはちょっとした才能だぞ!」
「そんなもんかね。じゃあ騙されたと思ってもうちょっと続けてみるか」
「だな!あとは武器だがどうするんだ?あのベルトとかナックルとか靴だとか、どういうスキル構成で使う気だ?あれか、素手系スキルで固めていくのか?そうなるとかなり接近だし……でもこれだけの反応速度があればできない事もないか?」
「いやいや、まだそこまで決めてないからな。まずはちゃんと戦えてパーティ組めなきゃ、話にならないだろう」
「ああ、それもそうだな。ちょっと焦っちまったが、まずは避けられるっていう自信からだよな。じゃあ行くぜ!」
その後も繰り返される突き攻撃をひたすら避け続ける練習。本当にこの白い騎士はよくこんな事に付き合ってくれるなとも思うが、これがこいつのいい所なんだからありがたい。
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【王国】夜-アジト-
一人【訓練】では残念ながら回避感覚を養う事はできないが、やはり自分の基礎である節尾剣を操る感覚は常に磨いておかねばならない。
回避からの蹴り、そして節尾剣の攻撃へと繋げていく。
重精の抽出に関してはまだフィルムケースの容量に足りなかったので、クランの調達部隊に頼んで【馬国】へ買い付けに行ってもらった。
最近立て続けに出てきた強敵に焦れる部分もあるが致し方ない。
とりあえず、火精と氷精で止めを刺してきたが、きっと敵はまた次の手を考えてくるだろう。
しかし基本的にヒトの死なないゲームだと思ってきたが、改人についてはどうなったのだろうか?まさか魔物扱いで死亡か?
その辺はまたいつもの男に聞くしかないか、そう言えばずっと男って言ってたが、そろそろ呼び方考えないといけないな。
何しろ一緒に行動するとなれば対面で話す状況ばかりとは行かない。
【馬国】で男は隊長を追うように去っていき、自分は待っていた馬車で一番近い都からポータルで帰ってきたのだが、向こうはどうなってるんだかね~。
装備は受付にいつも通り預けたらパワーアップもやってくれるって言うし、いつの間につなぎがついてたのかも謎だ。
【訓練】をしながらとめどなく色々考えていたら、いつの間にか男が現れた。
「向こうはいいのか?」
「ああ、とりあえず一旦待機で、納得している。まあすぐにまた次の聖石の話をする事になるだろうが、こっちも準備は必要だろ?」
「まあな。一応装備の方は話が通ってたんで預けてあるぞ」
「あいつらに対抗するためには今のところお前のその制御の効いてない精霊の力だけが頼りだからな」
「随分とまた高く買ってくれてるようだが、あの改人ってのは何なんだ?」
「今うちの連中で調べてる所だが、分ってる範疇で言うなら、邪神の化身の細胞と適合して、無限の再生力を持つ厄介な連中だ」
「確かに異常な回復力だとは思ったが、邪神の化身の細胞と適合ってのは?」
「どうやって調達したかは知らんが邪神の化身の細胞を取り込み、核化する事で魔素を取り込んで無限再生するんだ」
「じゃあ、あの火で焼いた奴は?」
「火で焼いた奴も凍らせた奴もまだ生きてるぜ。今は封印中だ。核と本人を切り離さない事にはどうにもならんな」
「封印ってのは?」
「氷精と石精で状態を維持したまま周りの影響を受けなくさせる処置だ」
「動かないからてっきり死んだのかと思ってんだが、しぶといもんだな」
「止めるには核に一定以上のダメージを与えるか、回復が追いつかないほどのダメージを与えるか、あとあいつらがつけていたベルトを破壊するかだな」
「ベルトが弱点なのか?」
「ああ、弱点って訳じゃないが、回復用の魔素供給装置になっていたみたいだ。そっちは装置なんでバラバラになっちまってあくまで予想だがな。だがあのベルトから取り出した液を体に注入してただろ?」
「確かに、ミノタウロスの所で見た奴は打ち込んで変形してたな」
「つまり一定以上の魔素を自分に打ち込むことで一時的な強化も可能って事になるな」
「なるほど……向こうもこちらの研究してるだろうし、厄介だな」
「確かにな。さて今回の報酬だが、何か必要なものはあるか?」
「別に、例の服もパワーアップして貰えるんなら他に何が必要なのか逆に思いつかないんだが?」
「相変わらず困った奴だな。あの改人を止められる可能性があるのはお前だけだってのに、報酬の要求はなしって、話にならんだろう?」
「そうは言ってもな。重精の力の目星も付いたし、そんなすぐに欲しいものなんて本当にないぜ?」
「そうか……じゃあせめて武器と防具は気合入れて作らせるから安心しろ。流石にケンタウロスの所であった奴に一撃で生命力をごっそり持ってかれた時はこっちも冷や汗かいたからな」
「それについては一応回避の練習中だ」
「なんだ、回避に目覚めたのか?!やっとか~じゃあ<身体強化>と<感覚強化>に<反応>と<戦形>取っておくといい!お前みたいに防御手段がない奴には必須だぞ。ずっと刺されるの待ってたんでどうしようかと思ったんだが、やっと目覚めたんだな」
「目覚めたかどうかは知らんが、敵に集中すれば変な反応はしなくなったな。まあ純戦闘職になる気もなかったが強敵ばかりだし仕方ない。ちょっと真面目にスキルを鍛えるか」
「だな。じゃあ次が決まったらまた連絡する」
「分った。……ところでアンタのことなんて呼べばいい?」
「どうした藪から棒に」
「いや、外に行ったとき呼び方が決まってないと不便だなと思ってな。別に正体が知りたいとかそういう事じゃない」
「なるほどな。じゃあ蠍とでも呼べ。多分それが一番俺の正体に近い」
「ふーん、蠍が正体とは毒が怖そうだ」
次週予告
強敵を退けその情報を得る事に成功
更には友の助言を受け新たな戦闘スタイルを生み出す
順風満帆に見える黒い怪鳥の前に現れる次の敵は『鉄壁』肉体を持つ改人




