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16.改人

今回は構成を現在黒い怪鳥のみとさせていただきます。

 ゴトゴトと荷馬車に揺られ辿り着いたのは【馬国】北辺の森。


 【馬国】は殆どが広大な一枚フィールド、風の吹きぬける高原地帯。


 【帝国】と比べる物でもないのだろうが、冷たくそれでいてすっきりした風が感覚を研ぎ澄ませる。


 一枚フィールドは本当に広大で、しかも意外と起伏に富んでいるときて、慣れない余所者だと簡単に高原迷子って事になるらしい。


 と言う事なので自分といつもの男はポータルで【馬国】北辺の都に飛び、そこからは男の手の者の扱う荷馬車に乗って移動。


 途中で食べた料理はなんていうのか、羊肉と玉ねぎを詰め込んだ小ぶりながら具の詰まった肉まん。


 寒風吹きすさぶ土地に相応しいと言うか、体の温まる料理に舌鼓を打ちながら、


 そのうち<料理>を覚えるのもいいかななんて思ったり、馬に乗れればこんな高原を旅するのも面白そうだなと思ったり、


 何にもない様で、意外と楽しい馬車旅。


 旅ってのは何かと予定を詰め込んであちこち見て回るのもいいが、こうやって何もない状況を揺られるのも旅なんだろう。取り留めのない考えが、逆に自分の中のモヤモヤを形に変えて払ってくれる気すらする。


 そして森で降りる事になった訳だが、今回の仕事は聖石の保護と言うか、


 狙ってくる奴らの妨害。


 つまり嫌がらせだ……自分の一番好きな仕事が回ってきた事に暗い笑みを隠せない。


 森の中に、カーン!カーン!と甲高い音が鳴り響いているので、


 「アレは何だ?」


 「ああ、ここいらの連中は普段木を伐って暮らしてるのさ。高原の方は本当に何もないからな……しかも南に行くほど砂漠化していくそんな土地柄だ。この北辺の木が多く生える所から木を供給する事で成り立つ生活ってのもあるさ」


 成る程、つまり樵が聖石を守ってるのかね?樵の英雄がいたのか?


 そして遠目にヒトらしき姿が見えたので、ちょっと止まり観察すると、牛頭?


 「どういう事だ?」


 「ん?ああ言ってなかったか?最初の聖石を持ているのはミノタウロス族だ」


 「ミノタウロス族って……言う程沢山いるのか?」


 「ああ、何を驚いてるんだ?そうか!【王都】は割りとヒュムばかりだから獣人を見た事なかったのか?でも【馬国】の都には結構いたろ」


 「ああ、何か犬の面を被ってる奴らがいると思ったら、本当に頭が犬だったのか」


 「ああ犬人族な。普段は温厚だが戦闘になると剽悍で素早く力強い、身体能力に秀でてる奴らだから喧嘩にならないように気をつけるんだな。特にお前は身体能力補正のスキルを取ってないんだから」


 「そりゃ誰彼構わず喧嘩売るような真似はしないが……そうか。それでミノタウロスってのは保護しないといけない様な種族なのか?何か見る限り筋骨隆々過ぎて俺が保護される立場に見えるんだが?」


 「あ~まあ、そん所そこらの奴らじゃ相手にならんぞ。もうな肉体が凶器!族長ともなれば、剣を筋肉で弾く本物の鋼の肉体を持ってるって話だ。訳分からんだろ?でもなこの森に住む虎くらいなら普通のミノタウロスでも素手でぶん殴って動きを止めて真っ二つに裂いて焼いて食うらしい」


 「まじかよ……そりゃ邪神の化身とやらを倒す英雄にもなるのか?」


 「はは!そりゃ古の英雄ってのは相当秀でた存在だったらしいから、もっとやばかったんじゃないか?伝説によるとそれまでミノタウロスは魔物じゃないかと思われてたらしい。何しろ同種族意外は皆敵だと思って襲い掛かる凶暴な種族で、敵味方の区別も付かなかったのを種族の天才と呼ばれる存在が現れて他の種族と協力して邪神の化身封印に力を貸したって事らしい」


 「そりゃまた、脳筋にしてもいき過ぎだろ。本当に近づいて大丈夫なのか?」


 「今ではそんな事は無いぞ。何しろ聖石に種族全体の頭が良くなって他のヒト種とも仲良く暮らせるようにって祈ったらしいからな」


 「へ~聖石ってのは本当に効果のある物なんだな。じゃあ保護対象の事は分ったとして、ここからどうやって聖石を狙う奴らを邪魔するつもりだ?」


 「まずは族長と接触するぞ。既に俺とは別の機関の者が族長と接触して聖石がある所までは確認済みだ」


 「あんたの所の機関の事は分らないが、だったらその時事情を話して聖石を預かったらよかったんじゃないか?使用済みなんだろ?それとも手放せない理由があるのか?」


 「邪神の化身は封印されたって言ったろ?つまりいつか目覚めるって事だ。その時に聖石を集めに来る者がいるから、それまでちゃんと保管して置く様にどの英雄の子孫も言われてるものなのさ」


 「それが【帝国】の隊長ってか?どうやって聖石を集める者かどうか見分けるんだかな」


 「ミノタウロス族の場合相撲だそうな」


 「鋼の肉体相手に相撲をとる馬鹿がいるのか?」


 「相撲を取って貰わん事には聖石を手に入れられないんだから、そこは【帝国】の隊長に任せようぜ」


 「そうだな。俺は絶対嫌だぞ?幾ら火精と石精で強化しても、流石に鋼の肉体と勝負ってのはまともな神経の奴がやる事じゃない」


 取り敢えずの情報を頭に叩き込んで、木を伐ってるミノタウロスに接触する。


 「あの、実はちょっと聖石の件でお尋ねした事があるんですけど?」


 「聖石って何ね?おいしいの?」


 「(おい!これはしらばっくれてるのか、あんたのとこの調査が間違ってるのか、どっちなんだ?)」


 「あのだなミノタウロスに代々伝わる不思議な石の件なんだがな」


 「あ~!最近よく来るね。普段あまりお客さんは来ないし歓迎するよ」


 「それはありがたいんだが、ちと厄介な連中がそれを狙ってるらしくてな。それで変な奴を見かけなかったかって言う……」


 「ん~~~~~~~~~~~?あっ!いたね。何か【教国】の方から来たって言うヒトがいたから族長の家に案内したけど、相撲しないで帰ったね」


 「(何か既に退散したらしいぞ?どういう事だ?)」


 「(いやそれはうちの別機関の者だ。厄介な連中はもっと強引な手段で来る筈だ)」


 「他には怪しい奴は見なかったか?」


 「う~ん最近来たのはそのヒト達と君達だけだね~。それで何人で来たの?」


 「いや、そりゃ二人だが?」


 「じゃあ、後ろにいる人達は?」


 言われるがままに振り返ると、ローブを目深に被った大柄なヒト影が一つ、それに従うように取り巻きが数十人?


 「(つけられたか?)」


 「(いや、そういうのを発見するのは俺の専門だ。早々簡単につけられるとは思えん)」


 「そっちのローブのヒトは何か急に現れたのね。不思議」


 「痛い目を見たくなければ素直に聖石を渡せ」


 地の底から響くような低音声が腹にズシッと来る。


 じりじりと輪を縮めてくるローブの集団にミノタウロスも斧を構えて臨戦態勢を取っているのは、素朴そうな性格ながらにも危険察知能力は優れているからなのか?


 そして、ローブの取り巻きの一人が飛び掛ってきたところをミノタウロスの斧の一撃で弾き飛ばし、近くの大木に激突!


 「うっ……」


 息の詰まる音だけが聞こえたが、絶対くらいたくない危険な一撃に誰も一言も発さない。


 やっぱりミノタウロスに任せて置いて良かったんじゃないか?


 念のため、近寄ってローブのフードを取ると更に仮面。本人も悪い事をしてるっていう自覚があるんだろう。


 じゃなきゃローブに仮面なんて完全に顔を隠すような真似は中々しないだろう。


 まあ自分も他人の事は言えない格好だが、念のためいつもの装備で来て良かった。


 ベルトに関してもそこまで大きく形が変わったわけでもないので、ちゃんと衣装内に収まったし、


 このままこいつらが引かないなら戦わねばならないだろう。


 「危ないから下がってるね!」


 ミノタウロスの警告と同時に数人が一気に襲い掛かってきたが、一人はやはりさっきと同じように弾き飛ばされ、


 もう一人はいつの間にか潜伏していた男が首を狩る。


 自分も尾節剣を引き抜き、


尾剣術 円


 集まってくる敵をまとめて斬りつけるとちゃんと手応えがあるので、こいつらが軽装である事は間違いない。


 重装備相手だと分が悪くなるのが自分の武器の不満点。


 「ふん!周りを木に囲まれているのに、そんな大味な武器で!」


 何か賢しい事を言ってくる取り巻きもいるが、今まで自分がどれだけコイツのコントロールだけ【訓練】してきたと思ってるんだ?


 木をすり抜けて、寧ろ敵の背後から突き刺して貫通させ、引き抜く。


 「ごばっっ!」


 何かを吐き出しそうな悲鳴を上げて倒れこむ敵に構っている暇は無い。何しろ敵は数十人。


 しかし、ミノタウロスの無双が止まらない。


 斧一本で、疲れを知らずに次々と斬り倒し、あっという間に周囲は死屍累々。


 そして最初に声を掛けてきた明らかに優れた体を持つ一人が再び話しかけてくる。


 「ふむ、大人しく聖石を渡す気はないという事か」


 「いや、じゃあちゃんと交渉すればいいだろ。何で襲い掛かったんだ?」


 「ふん!笑止!何で俺がお前達如き卑小な存在と交渉せねばならん?お前達はただ命令を聞いていればいいのだ!」


 「馬鹿か?馬鹿なんだろうな。それでどうするつもりなんだ?」


 自分が言うが早いか、ローブを剥がした敵。


 全身が筋肉で盛り上がり、それを強引に拘即具で押さえつけているかの様相。皮膚の色も青く皮膚の下の浮き出る血管も明らかに紫。


 「ふー!ふー!やってやるぞ!オオォォォォオン!」


 雄たけびを上げ、一気に走り寄ってくる。途中木の枝にぶつかっても弾き飛ばしてただ真っ直ぐ……。


 そしてジャストミートのミノタウロスの斧が敵の首を刈り取り、その場に仰向けに倒れる敵。


 想像以上にアホ。


 しかしミノタウロスは一切油断せずに倒れる相手にトドメの一撃。まさに唐竹割りというような綺麗な垂直斬り。


 完全に力を失って、その場で力を失った敵は一体何をしたかったのか?


 「さて、どうする?」


 男を振り返って尋ねた瞬間。


 「おい!まだだ!危ないぞ!」


 警告を受けた時には羽交い絞めにされていた。


 「お、お前の所為で俺は全部失ったんだ!クソ!全部全部壊れちまえばいいんだ!」


 ギリギリと締め上げられ生命力が削られていくのが分る。それでも幸いなのは腕が体の前に入っている事。


 ベルトを起動。


 念のためにセットしておいたのは雷火。


 それでも羽交い絞めを引き剥がせないのは、相手の膂力がそれだけ優れているせいだろう。


 しかし自分の尾節剣は精神力で動かしているので、相手の力に抗すれば十分だ。


 尾節剣を動かし敵の首に巻きつけ引き抜く。


 出血エフェクトを発しながら、両腕を離した敵を


掃蹴術 火喰


 蹴りで更に引き剥がし距離を取り、追撃の


尾剣術 串


 地面に向けて尾節剣を伸ばすと、敵の下から生えてきた尾節剣が敵を串刺しにし、更に引き抜くことで大ダメージを与えると、また倒れて力を失う敵。


 すると敵の下腹付近にある装置が動き出し、何か薬液を体に打ち込んでいる?


 再び息を吹き返した男が、


 「くそ!これは使いたくなかったが仕方ない!」


 ベルトの中から黄色い薬液の入った注射器を取り出し、首に打ち込む。


 すると、体の拘束具が引きちぎれ、どんどん異形化していく。


 皮膚が青いとは言え、それでもヒト範疇だった敵は、ボコボコとふくらみ、


 脚はヒトのまま上半身だけ筋肉の塊になり頭すら筋肉に埋ってしまった。


 「グラァァァァァア!!!」


 大きく叫び完全に理性を失ったと見られる敵は手当たり次第近くにある木をなぎ倒す。


 そんな暴れまわる敵を前に隙を突いて、斧で襲い掛かるミノタウロスの一撃はざっくり敵の腕に食い込むが、


 お構いなしに振り回される両腕に弾き飛ばされるミノタウロス。


 そして斧が刺さった腕は内側から盛り上がり斧が外れて、落ちてしまった。


 「なんつう回復力だ……どうすっか」


 「よっぽど強力な継続ダメージを与える武器でもなけりゃどうにもならんだろうな」


 「だよな~……」


 正直な所滅茶苦茶に振られているだけの腕だが、


 丸太のような腕が出鱈目に規則性もなく振り回されてる上、結構早い。


 しかし、ここは覚悟を決める所だろう。


 雷火を引き抜き、代わりに一本ずつ火精のフィルムケースと雷精のフィルムケースをセットすると、


 黒いハリボテ鎧の隙間から赤と紫の燐光を発し、準備完了。


 レバーを倒せば燐光が収束し、今回は火精側のスイッチを押す。


 全身タイツに走っているラインが赤く輝き、やはりハリボテ鎧の隙間から光が見え隠れするが、今は構っていられないので、


 両手に尾節剣を引き抜き敵の両肩に巻きつけ、尾節剣を収束させる勢いを利用して蹴り抜く。


 「ぐぞ!お前に後悔させる為に、それだけの為に改人になったって言うのに……邪神サマ……セカイニ ビョウドウナル ハカイヲ……」


 勢いよく燃え上がる敵の断末魔が静かな森に響き渡る。

次週予告


 ざわつく裏の世界

  強大なる敵の復活に気がつくのは世のごく一部

   その世界の変革の中心にいる『異常』な人物を密やかに支援する

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