15.聖石
いつもの仕事。
箸にも棒にもかからないくだらない連中に痛い目を見せるだけの仕事にも随分慣れた。
今回潰した取引は、お金持ちの坊っちゃんが禁制品の取引の元締め気取りをしていたのが始まり。
親のコネで普通じゃちょっと調べにくい倉庫を使い、禁制品の保管所にしていたと、
そこからブツを手下のチンピラ達にばら撒かせていたって言う事らしい。
それ以上詳しい話は聞いていない。自分はあくまで大暴れしてぶん殴り後悔させてやるのが仕事だ。
普通に全うに裁くのにはちょっと面倒な案件、それを分かって好き放題やる奴らに痛い目を見せる事を望まれている。
今回もまた少しやりすぎる程度に痛めつける。
それだけの予定だった。
「おい、アンタ。何者かは知らんがいい腕だな」
「・・・・・・」
「黙まりかい?まあいいさ。やり口を見るにプロって訳でもなさそうだ。よっぽど何かに恨みがあるんじゃないか?」
話しかけてきたのは、坊っちゃんの取引相手。正真正銘の裏社会の人間だろう。まあ腕は大した事無いし、トドメをさすのに造作もないが……。
「まぁ、確かに俺はプロに雇われてるだけのチンピラまがいだが、それがどうした?」
「ふん……その腕でよく言う。そこらのチンピラじゃ到底相手にならんだろ?でもプロって言うには無駄が多いのも確かだ……まるで恨みと憎しみのまま暴れているようにも見えるが、実は己を刺しに来る相手を待ってる」
「分ったような事を言う奴だ。それでお前が俺を刺してくれるのか?」
「無理だな。普通にやってアンタを刺せる奴はそうはいない。何でアンタが刺されたいのかは知らんが、でもそれが恨みを晴らす事に繋がるんだろう……破滅的だな」
「悪いか?刺されりゃ誰でも痛いし、嫌なもんさ。それでもそれを乗り越えられなきゃ、次に進めない事もある。俺はこうやって碌でもない相手を弄っている時は不思議と刺されても怖くないんだよ。でも最近じゃそんな根性のある奴もいないがな」
「そうか、でも刺されるのが怖いのは誰でも当たり前の事だし、気にする事無いんだろうと思うがな」
「時間稼ぎは終わりか?」
「どこに時間稼ぎの意味がある?別にお前の好きなタイミングでその剣を振り下ろせよ。俺は初めから破滅する事は決まってたんだ。それが今だってだけだ」
「どういう事だ?」
「お前が先にやった坊っちゃんなんかは本来真っ当に生きてれば、何でも出来ただろう。だが俺や仲間なんかはこうやって生きるしかなかった。いずれ捕まるだろうとも思っていた。まあこんなズタボロにされるとは思っていなかったが、それも因果応報だろう」
「それで?ずっと諦観して生きてたとでも言うのか?」
「いや、俺達みたいな育ちの人間にそんな悟りみたいなもんが勝手に湧き上がる訳無いだろ。だが出会っちまったんだわ……救いってやつに」
「悪党に救いだと?」
「そうさ、神の世界は不平等だ!生まれも育ちも皆違う!だから全部平等に破滅させ!世界をやり直す!それが邪神教さ」
「邪神教……」
「そうだ。それはなアンタみたいな奴も平等に祝福してくれる。何でアンタがそんな風になったかは知らないが、その原因を作った相手すらも平等に破滅させてくれるんだ。悪にしかなれなかった者も、悪に耐えるしかない弱き者も、平等な破滅に惹かれる。もし興味があるなら調べてみる事だ」
「調べ事は苦手なんでな。まあ話としては面白かったぜ」
そう言って、既に動けない相手に剣を振り下ろしてトドメを刺す。
まあゲームのシステム上、トドメを刺した所でNPCは死なないしどこかで拘留されるんだろう。
ちなみに依頼も何もなしにそこらを歩く普通のNPCはそもそも攻撃出来ない。攻撃しようとした瞬間に時間が止まって警告されるって言う話だ。
取引現場から出るといつも通り男が待っていた。
「ご苦労さん。あとは片付けておくから、先にアジトに戻ってるといい」
「なぁ……一個聞きたいんだが、邪神ってのは敵性勢力でいいんだよな?」
「そうだぞ。邪神の勢力が力をつければ力をつけるほど、創世神の勢力に属する俺達にとっては住みづらい世界になる」
「じゃあ寧ろ邪神勢力を削れれば、この手の裏社会にしか居場所がない連中も少しは生活が楽になるのか」
「どうだろうな?こいつらは結局好き好んで裏社会で生きているんだろうからな」
「そうなのか?」
「そりゃな。どの国だって裕福な者がいれば貧困な者もいるが、最低限食っていけるようには保護されてる筈だからな」
「そういうもんか」
「何を吹き込まれたかは知らんが、この手の連中の話はあまりまともに聞くものじゃないぞ?」
「ああ、分ってる」
-----------------------------------------------------------------------------------------------
【王国】クラン『Kingdom Knights』
「はぁ~あ~あぁぁんあ~」
「盛大に意味の分からん変な溜息ついてんじゃねぇっての。<練金>の出来栄えに影響が出るかもしれないだろ」
「溜息くらい出るだろ?ずっとあのクソ寒い【帝国】の雪の中でじっと我慢してたってのによ。いつの間にかちょっと離れた所でPKと隊長がやり合って、結果自分の力で逃げ切っちまったらしいじゃないか」
「らしいな。詳しい事は知らんが、待ち構える場所が悪かったんだ諦めろ」
「まあな。土地勘のない場所だったし読みが甘かったのは認めるがよ。15人だぞ!15人のPKを斬って一人で逃げ切ったって、もう無敵じゃん」
「なんで15人だって分るんだ?」
「そりゃ賞金稼ぎの掲示板で思いっきりやられた奴らが愚痴ってたからさ」
「あ~そういう外部サイトみたいなの俺はあまり見ないからな」
「そうなのか?まあという訳だから俺は溜息つくのに専念するわ。はわんわ~あぁぁ~」
「だからなんで変な溜息をこんな所でつくんだよ。他でやれ」
いつものしょうもないじゃれ合いをしつつ、そろそろ<練金>に戻ろうとすると、
「よう!私が来たぞ!」
唐突に現れたのは『嵐の岬』のサイーダ。
「どうしたんだ急に?」
「どうしたんだ?じゃないよ!アンタが大金置いてったんだろ!作ったよそりゃもう夜なべして!」
そう言いながらガチャガチャと自分の研究用のデスクに色々と並べていく。
「夜なべって言っても、このゲーム最大8時間しか連続ログインできないじゃないか」
「だから例えだよ!他の発明は一旦置いておいて、それに集中したって事!」
「なぁ、何者なんだ?」
サイーダと話してると、溜息をつくのに専念してた筈の白い騎士が聞いてくる。
「ああこちら『嵐の岬』のサイーダ。前に話してた発明家だよ。風火を実用化してくれた人」
「へ~!ああ俺は……」
「知ってる知ってる。流石にゲーム内でも有数の有名クランの有名プレイヤーくらい知ってるっての!
どこかの世間知らずと一緒にされちゃ困るよ!」
「それで?これらはどういう道具なんだ?ベルトはスロット拡張頼んだと思ったけど?」
「ふふん!聞いて驚きなさい!このベルトなんとまぜーる君ナックルの研究を経た事で、二つのフィルムケースの溶液の力を混ぜる事に成功したの」
「ふーん」
「ふーん……じゃないわよ!あんたやっぱりアホなのね!いい?今迄直接混ぜてきた溶液を混ぜずに混ぜたのと同じ効果を発揮できるの!これがどういう事か分かる?」
「……フィルムケース一本分の力を丸ごと使える?」
「正解!それが一つ!更に前に言ってたじゃない合成パターンが増えてスロットが幾つ必要か分からないって!だからパターンさえ分ってれば二つスロットがあればいいの。寧ろ原液のまま使う場合装備にかかる負担も大きくなるから二つくらいにしておいた方が、安定的に全力を引き出すことが出来るって訳!」
「天才だ!これは早速試してみよう!」
すぐさまベルトを装着し、試してみようとすると、
「おい!実験は訓練場で!な?」
「お前は好きに変な溜息をついてるのに、何で俺だけ」
「周りの被害考えたら当然だろ!ちょっと移動するだけなんだから諦めろ」
致し方なく、サイーダがデスクの上に広げた道具たちを両手に抱えて訓練場に移動。
早速氷精と水精をベルトのスロットに挿して発動。
無事起動し、特に異常は無いのだが、
「何かめっちゃ光るんだけど?」
青と白のエフェクトと燐光が何か眩しいし、恥ずかしい。
「あひゃひゃひゃひゃ!それで表歩いたらすげー目立つぞ!」
「うるさいな!仕方ないじゃん!精霊の力が強すぎて光っちゃうんだって、右にセットしたら右側が、左にセットしたら左側がその色になるんだけど、その性質がこいつを完成させたんだよ!」
そう言って金属部品の埋め込まれた皮ブーツとラインが入っておしゃれになった全身タイツを差し出してきた。
とりあえず、鏡のある部屋に持っていって両方装備し直して訓練場に戻る。ちなみに鏡がないとちゃんと装備できているか確認できないのがこのゲームの面倒システム。
「それでこのブーツは何?」
「何?じゃないよ!アンタが<蹴り>で精霊の力使いたいって言ったじゃん!」
そう言いながらベルトについたレバーを倒す。
するとさっきまでやたら光ってた燐光が収まり、ベルトに精霊の力が収束するのが分る。
「え?光らなくなった。こっちの方がいいんだけど」
「何言ってんの、ずっとそのままだとベルトに負担がかかるから早く案山子蹴りな!使いたい精霊の力側のボタンをちゃんと押すんだよ」
二本並ぶフィルムケースの氷精側のボタンを押すと全身タイツのラインが白くなり、ブーツも同様に真っ白に変色する。
そのまま案山子を蹴れば、凍って砕けた。
「こりゃまた……思っていた以上に強力だな」
「でしょ!しかもアンタに返ってくる精霊の力はもう片方の水精と混ざってバフに転換してるから、ノーダメージ!」
「これは、ありがたい!フィルムケース握って発動するよりずっと使い勝手がいい」
「そりゃね!ただちょっと制御に精神力の消費が大きくてさ。術士の石に溜め込んだ精神力消費量が多いのよ。つまり使えば使うほど稼働時間が減るって訳」
「それこそ必殺技って訳か、ちなみに今迄作った混ぜてる方のフィルムケースも使えるんだよな?」
「それは大丈夫。光りたくない時は混ぜてる方使うんだね。まあ今回はこんな所、まぜーる君ナックルの実用品の方はもうちょっと待ってね。今色々と考え中だから」
「そうか、研究費が足りなかったらいつでも言ってくれ。最近は真面目に生産やってそれなり稼いでるからな」
「アンタのそれなりは全然信用できないんだけど、まあいいや!じゃあ私は【王都】観光して帰るから!」
突然現れ作った道具の説明をするなり帰るサイーダは本当に凄いマイペース。
それとなく眺めてた白い騎士は、
「何でそれフィルムケースなんだ?」
「フィルムケースってのは光に反応しやすいフィルムを入れる特殊なケースだからだ」
「でもそれに入ってるの液であって、フィルムじゃないじゃん」
急に真っ当な事を言ってくるが、でもこれはフィルムケースに決めたのだ。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
【王都】秘密基地-夜-
今分かっているバフのセットを実験して、一段落着いた所にいつもの男が戻ってきた。
「なんだ?てっきり当分は隊長にかかりきりだと思ったんだが?」
「そうだな。中々厄介な相手だぜ……お前と違って、きかんきって言うのか?普通に相対してれば話の分かる奴だが、気に入らなければ平気で暴れかねん」
「そりゃまた、大変だな。なんでも賊を15人斬って逃げ切ったらしいじゃないか?まあ負けん気が強いからこそ戦っても強いのかも知れないがな」
「そういう部分もあるんだろうな。悪い奴じゃなさそうだが、折れることを知らんと人生色々苦労するだろうな」
「いずれにしても無事合流できたんだから当初の目的は果たせたんだろ?これから隊長をどう扱うかはアンタ次第だし、どうでもいい事さ」
「まあお前はそういう余計な事に嘴突っ込まない所が助かる。さて悪いがちょっと仕事の話だ」
「別に悪くはないが、どんな仕事だ?」
「今回隊長には聖石を集める仕事を任せた。素知らぬ顔でな」
「?何を素知らぬ事にしたのか分らんが?」
「どうやら隊長は聖石関連で今回の事に巻き込まれたらしい。だから敢えてその道に踏み込ませる事にした。その方が黒幕を釣り出せる可能性が高まるだろ?」
「言ってる事は分からんでもないが、それが俺と何の関係があるんだ?」
「隊長以外にも聖石を手に入れようとしている奴らがいる。その妨害をして欲しい。逆にそこから黒幕を辿る線が見えれば尚助かる」
「なるほどな。それで聖石ってなんだ?」
「ああ、まあ一般的には御伽噺に出てくる石だな。遠い昔12英雄が邪神の化身を封印した時に神より賜ったといわれてるなんでも願いの叶う石さ」
「そりゃまた随分と凄い石だな。でもそんな大昔の石じゃ誰かしら願いを叶えて貰ってるだろ?それとも何か条件さえ満たせば何回でも無限に願いをかなえてもらえるものなのか?」
「いや、石一つにつき一回だな。だがそんな使用済みの石を集めたがる奴らがいるのさ」
「んで、俺が妨害担当、隊長が収集担当ってことでいいんだな?」
「ああ、そういう事だ。幸か不幸か隊長は指名手配犯なんで、ポータルは使えない。普通に走りあったら到底追いつけない相手だが、ポータルの分だけ有利だ。一先ず【馬国】の北辺の森に向かうぜ」
「なんだ?今回はあんたの部下を使わないのか?」
「今回部下は隊長につけた。随分嫌味をタラタラ言ってたから、意外と性格が合うかも知れんと思ってな」
「そうなのか?何か無口で余計な事はいわない性格に見えたが?」
「まあ、あいつもアレで気難しいのさ。てな訳で男二人旅になるが異存は?」
「ないな。早速行くとしよう」
夜の【王都】から男二人ポータルで【馬国】に向かう。
次週予告
昼は<錬金>の研究職としてプレイヤーのクランに属して生活し
夜は仕事を請けながら爪を磨いて、PKを狩る二重生活
しかしそんな日常は終わり、力を得た黒い怪鳥の前に立ち塞がるのは『改人』




