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13.指名手配

 ある日PKのお決まりの文句、


 「覚えてろよ!お前はもう裏じゃ賞金首だからな!鳥野郎!」


 今までは普通に聞き流していたが、賞金と言うのはPKサイトで特定プレイヤーのPK動画を載せることで貰えるお金の事。


 どうやら戦闘プレイヤー達がお金を出し合い、上級プレイヤーの研究の為に始めたのが最初とされているが、いまだ出資者の正体は掴めていない。


 その気になれば、自分がお金を出して特定プレイヤーの情報を集める事も出来る様だが、今の所用も無い。


 いずれどうしても勝てないPKでも見つけたらその時は、考えよう。そんな程度の認識だった。


 しかし、ふと思う。自分の賞金って幾らくらいなんだろうか?


 はっきり言って、私怨か研究で投入する賞金も違うのだろうし、それがそのまま強さのバロメーターとは思わない。


 だが、金額によってはどれくらいの本気度で狙われているのかの目安位にはなるのではなかろうかと、ログアウトした後、ついついPKサイトを開いてしまった。


 TOP画面から並ぶのは有名プレイヤー達の顔画像。


 クリックすれば動画に飛べるが、TOP画面になるほどの猛者達は一度も倒された事がないのだろう。動画が一つも存在しなかった。


 そして、次の画面には知っているプレイヤーもいれば知らないプレイヤーも玉石混交。


 動画が上がってる者達は一度以上PKされた者達なのだろう。


 そんな中ふと目に止まるのは、集団戦を制した軽装のプレイヤー。


 勝手にライバルだと思ってる相手もまだ誰にも狩られていない模様。


 ただし、返り討ちにあったらしき者たちからの一方的なコメントはついていた。


 曰く人とは思えない残虐性、目で終えないスピード、一体複数を圧倒する異常な戦闘能力。よってチートじゃ無いかと。


 そんなもの弱い奴らの遠吠えに過ぎないと思ったが、それでも真面目に確認する奴もいて、運営に問い合わせた所『仕様です』と回答を貰ったとの事。


 言わない事じゃ無い。結局PK何ぞする奴らは物事を自分に都合のいいようにしか見ていない。


 どんなに道理を尽くした所で、自分達が正しいと思っているのだから説得など出来ないのだ。


 つまり、体で分らせるしかない。わざわざ高い筐体を買って、ゲーム内で過ごすと言う夢みたいな体験が出来ると言うのに、自分勝手な事を繰り返し他者に迷惑をかけて平気な奴らは、自分と同じ目に合ってもらう。


 そう……もうゲームやめようかなって思うまで追い詰める。


 ゲームの値段、簡単には出来ない体験。それらを台無しにさせてやる。もう戻れない泥沼に足を踏み込んだ事を後悔させるそれだけだ。


 別にゲーム出来ないからと言って、生活に何の支障もないだろう。折角買った高すぎる筐体を横目に一生後悔したらいい。


 いや、何ならこのゲームの研究や認可がもう少し進めば、別ゲームも出るだろう。その時は大人しくルールとマナーを守れるプレイヤーになればいいさ。


 それまで指を咥えてお預けか、泥沼プレイを続けるかそれだけの選択だ。


 自分は泥沼に浸かる事を選んだ。いずれPK共の恨みで潰されるその時まで、奴らのくだらない欲望を邪魔し続けるのみ。


 しかし、自分の手配書が見つからないなと探していたら、調査中の欄にあった。


 何しろまだ正体不明の為、似たようなプレイヤーを誤って狩った場合、賞金の行方を決められないので、保留なんだって……。


 「駄目じゃん」


 思わず呟いてしまったが、自分の事を狩っても一銭にもならないんじゃ当分PKも本腰は入れないだろう。


 つまり、PKはただ自分に狩られるだけの可哀想な獲物でしかない。気合入れてPKKしますかね~!


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【王国】クラン『Kingdom Knights』


 火精+土精!は何回案山子を殴っても効果が出ないので、おかしいなと思ったのだが、よく考えたら土精は地面に効果が現れる事が多いと思って、床を殴ったら、


 「暑い……」


 訓練場の床に火精の効果が乗り継続ダメージ床になってしまった。


 まぁ『まぜーるくんナックル』で使用したので、すぐに戻るだろうが訓練場内の気温が上昇して凄く暑い。


 訓練場の外に出て、一旦考え事タイム。


 って言うのも、風に関しては空間と言うか空気中範囲に効果を伝播するって感じだった。


 そして土も地面の一定範囲に効果を一時的に定着させるイメージだ。


 つまり風土は相反ながら効果的には影響する空間の指定イメージなのかな?


 風だけだとただ吹き飛ぶだけだし、土だけだと揺れるだけなんだけど、組み合わせのイメージはそんな感じ。


 となると……風水と土水が気になるな。


 「うわ!熱っ!!!あいつまた何かやりやがったな!」


 訓練場から聞きなれた声が聞こえてきたので向かってみると、案の定。


 「よっ!熱による継続ダメージ床が出来たぜ!これなら使いやすいだろ」


 「使いやすいだろじゃねーよ!どこ行ってたんだ」


 「いや、熱くて考えに集中できなかったから、外で思考を巡らしてた」


 「また迷惑な事を平気で……」


 「まあまて、おかげでこの状況を何とかする手段を思いついたんだ」


 そう言って、水精+土精で床を殴ると、鎮火。


 「お……おおぅ……お前にしてはちゃんと制御できてるじゃん」


 そう言いながら訓練場に入った瞬間足を取られてその場に転倒する白い騎士。


 「ふむ、水+土は泥沼だったか、足が取られて移動力鈍化効果って感じだな。スピードが遅くなるだけならダメージを食らうわけじゃ無いし、もっと使い勝手がいいな!」


 「アホか!まともに歩けないじゃねぇか!滑るし、くっ付くし、どっちにしろ歩きづらい事この上ないぞこれ!」


 「まあすぐに効果は切れるから、ちょっと一旦ゆっくり歩いてくれよ。別に泥沼効果って言ったって本当に泥が発生してる訳じゃなく、精霊の力で足元の感触がおかしくなってるだけだから」


 そう、火+土もそうだったが、別に訓練場の床が燃えて消え堕ちたりはしない。ただ床が異様に熱くなるだけだ。


 ちなみに普段の訓練場の床は木製。所謂剣道場みたいなつくりの建物だ。


 足元に十分気をつけながら案山子の所まで進み、風+水をセットして殴ってみると、今度は霧が発生。


 やっぱり空気中に水の効果が蔓延するみたいだな……。


 「おい!今度は視界も悪くなったぞ!どうなってんだコレ!」


 「霧を発生させて視界を悪くする効果の様だ。コレもいざってとき使えるな。目が潰れるほどの閃光よりはいいだろう」


 「それはそうかも知らんが、次から次へと変な事を……」


 「何言ってるんだ。ここ最近じゃかなりまともだし、何より自分自身がダメージを食らわない範疇に抑えてるんだから、長足の進歩と言っても過言じゃ無い」


 しかもコレにて、火風水土をくっ付ける検証は終わった。


 勿論もっと効果範囲を大規模にした場合何が起きるか分らないが『まぜーるくんナックル』を使用する範囲に置いては十分実用的な効果ばかり、今後自分の戦闘に無くてはならない武器となってくれる筈だ。


 こうなる時になるのが、雷石氷?って事になる。?は風精の近似だと思われるが現状不明。


 雷石で強力な磁石の様な効果だった。雷氷は何にもなし。あとは石+氷!


 早速セットして案山子を殴ると、エフェクトは出る……が、何が起きてるのかよく分らない効果再び。


 石精系はこれがな~。地面を殴っても何も起きないという事はやっぱり、相手に対して効果が発揮されるのだろうが、分らん保留。


 となると、あと試してないのは……。


 「おーい!実験に夢中になるのはいいがよ。運営からのメール見たかよ?」

 

 「ああ【帝国】の集団戦最強って噂の隊長が、指名手配くらったんだろ?でも別にクエスト的な事で、実際悪さしたわけじゃ無いって書いてあったんだから、ほっとけばいいじゃないか」


 「そうそう『騎士団』(うち)もそのスタンスだったんだが、言ってみれば運営公認鬼ごっこみたいな物だし、面白半分で参加するPKが随分といてな」


 「まぁ、クエストだし……グレーだな。目くじら立てることじゃ無いんじゃないか?」


 「ところがこの度、クランマスターが勝手に声明を出して、隊長に挑むなら先に倒してみろと……」


 「鈍色の騎士に敵うプレイヤーなんていないだろ。普通に無視して隊長を直接狙うに決まってる」


 「まあな。それでこちらから積極的にPKを狩る事になったんだ。この前の魔将の時の借りも返さにゃならんし」


 「そりゃまたご苦労な事だな。俺は都から出る気ないし、心配するなよ」


 「そうか?また周辺がざわつくだろうから一言言って置こうと思ったんだが、それなら大丈夫か。全くどうしたら静かに楽しくゲームできるんだろうね~」


 「ふん!少しくらい騒がしい方がいいんじゃないか?過疎になるよりは、さ。それでもPKは過疎の原因だし潰した方がいいとは思うがな」


 「だな。じゃあ円卓会議に出てくるわ。お前も実験程々にな。散らかすなよ」


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【王都】-夜-


 金も貯まり落ち着いた事で、ようやっと今ある手持ちの精霊の組み合わせは全て把握できた。


 とはいえ、まだ二種類までしか混ぜる事は出来ていないが、その辺は今後も要研究って所だな。


 そして分かった事が一つ。火水土風のどれかと雷氷石?のどれかを組み合わせるとバフになる。


 ただし、相反と思われる火氷や水雷、風石は反応が完全に消えるので、多分相反で打ち消しあっているのだと予想。


 あとは不明の精霊の力及び、陽と陰の使いどころも気になるが、この辺も研究しかない。


 バフに関しては精霊の力を抽出した溶液が足りないので素材が集まり次第、生産と行こう。


 今は手持ちの氷水、土石、雷火、雷風で、何とかする方針だ。


 一応ベルトには2本まで挿せるし、いざとなったら握りこんで3本目って寸法。あとはベルトの開発が進むのを待ちだな。


 手札が増える事に何となくにやつきが抑えられないまま【訓練】に勤しんでいると、しばらく潜る筈だったいつもの男が、気配も感じさせずに現れた。


 何となく荒んだ雰囲気を感じるのは、仕事の匂いを消しきれないのだろうか?


 まぁ、元々まともな輩だと思ってないし、別に構わないが、わざわざ顔を出すって事は仕事か?


 「指名手配の件は知ってるな?」


 「何だ藪から棒に……勿論知ってはいるが、何かあったのか?」


 「詳しくは言えないが、俺の部下の一人が関わっててな。いや、詳しい事が分からないといった方が正しいか……どうやら指名手配犯に部下を助けてもらっちまったらしい」


 「らしいってのは?恩人だってなら、裏の仕事してるアンタだ。助けてやればいいだろ」


 「そう簡単な話でもない。何しろ一番確実な証言を得られる部下がこん睡状態だ。だがコレは自身に高い負荷をかける術の影響だってのは分ってる。つまり指名手配犯と俺の部下は命を賭けなきゃならん相手と戦った可能性が高い」


 「ふん……じゃあ恩人ってよりアンタの部下の戦友って訳だ。別にアンタには世話になってるし、指名手配犯を助けるのに俺の力が必要なら手伝うが?」


 「そう言ってくれると助かる。だが何分相手が悪い」


 「あ?敵対勢力でもあるのか?」


 「それはあるだろうが、まだそこまでは至ってない。指名手配犯だよ。うちの選りすぐりですら全く足取りがつかめない。時々気配はあるが、どこをどうやって次から次へと他所の国に移動してるのか皆目見当も付かん」


 「じゃあ、それこそ戦力募って力づくで囲むとかしかないんじゃないか?事情を知らない奴らに先を越されでもしたら事だろう」


 「勿論、捕縛されたあとのフォローは既に手配しているが、こちらの計画や能力の尽く上を行かれているようにしか思えん状況でな」


 「それでそんな荒んだ感じだったのか。聞いた話だが指名手配犯ってのは集団戦のプロなんだろ?戦闘力もまあまあ高いのは知ってるが、裏の仕事してるあんたらが何で後手に回るんだ?」


 「……俺の部下は割りと都市潜伏が得意でな。表を自由にほっつき歩かれたら、流石に専門家には追いつけん。相手は世界を文字通り、その足で渡り歩いた【輸送】隊の隊長。道なき道を自在に行く移動力の化け物なんだよ」


 「まじかよ……」


 まだこのゲームが始まって一年くらいで集団戦とかいう誰も気が付かなかったコンテンツで頂点取った奴が、いつの間にか移動力の化け物になってゲーム世界のあらゆる場所を行き来してるなんて、想像もしなかった。


 心の中では勝手に軽装戦闘職のライバルのつもりで追いかけてたってのに、随分先を越されちまった。


 「それで、ちと方針を変える事にした。指名手配犯同様道なき道を行く情報収集の専門家【隠密】ってのが【森国】にいる。そこに協力を仰いだ。はじめはのらりくらりかわされたが、指名手配犯と協力する気だと言う事を伝えたら、動いてくれる事になってな……」


 「つまり、【帝国】の隊長と同様の相手は既に向こうの味方って訳か!はっ!そりゃどうやったって捕まらないな。どうするんだ?」


 「敢えて賊どもに情報を流して追い込んで、うちが最終的に確保するって段取りだ」

 

 「そりゃあ、悪い事だな。それでそれを俺に漏らすって事は……」


 「ああ、程よく賊を間引いて欲しい。仮に指名手配犯が倒れても手は打っているが……」


 「相手は化け物、何をしてくるか分らないってか?」


 「そういう事だ。出来ればここで確保して、指名手配犯の味方って状態で今回の黒幕に当りたい」


 「分った。賊を消すのは俺の専門だ。やってやるよ」


 全く関係ないと思っていた運営がわざわざプレイヤーに一斉にメールを出すほどのクエスト。


 蚊帳の外のつもりが、いつの間にか最前線で指名手配犯側として活動する事になるとは、なんだかんだ面白くなってきた。

次週予告

 

 所属するクランはPK狩りに騒がしくなり

  黒い怪鳥もまたPKKの依頼を受ける

   指名手配犯を救う為『雪国』に向かう。

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