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12.イベント

 自分もそれなりに力をつけてきたと思った頃、運営主催の一周年イベントがあった。


 内容は集団戦。プレイヤーなら50人+指揮官1人、NPCなら100人+指揮官プレイヤー1人。


 誰がどう考えてもプレイヤーが50人集まった方が強かろうと、どこのクランが優勝するだろう?と噂していた。


 そして集団戦といえば『騎士団』優勝は堅いとも言われていた。マスターの鈍色の騎士が不出場だとしても、統制という意味では間違いなく最高で最強であろうと……。


 しかし、結果は【帝国】東部輜重隊の優勝。謎の黒い格好をしたプレイヤーと100人のNPCのチーム。


 『騎士団』が栄冠を手にするのはまた先送りになってしまった。


 その後サーバー拡張と新規ユーザー受け入れの為に流れた宣伝でやたらと流れる集団戦の映像。


 黒いプレイヤーは【帝国】において隊長と呼ばれ、口さがない者にはNPCしか仲間のいないボッチ将軍などと呼ばれた。


 しかし、集団戦の映像を見れば誰しもが、その化け物じみた能力に瞠目し言葉を失う。


 何しろ正面から戦えば相応の個人戦闘能力を持つ『騎士団』の色つき騎士、幹部達を屠るのだから。


 集団でも能力ではプレイヤーより劣る筈のNPCを使って押し込み、単独でも高い戦闘能力を誇る文字通り化け物に、今後このゲームはこのプレイヤー中心に大きく動くのではないかと、予感させられる結果となった。


 そしてクランマスター鈍色の騎士は事前にその隊長に面会に行っていたというのだから、やはり強者は強者を知るという事なのだろう。


 こんな力が自分にもあればと思い【訓練】や魔物狩りに力が入ったのは言うまでもない。


 何しろ自分同様軽量だが、集団戦と個人戦を両立し、料理なんていう趣味スキルまで得意としてるらしい。


 黒騎士と渡り合うどころか、その配下の小隊員たちとも同時に戦う多対一の戦闘能力も見習うべきポイントか。


 武器の射程や出入りのスピード、スタイルこそ違えど心を燃やすライバルが現れたと思ったのは間違いない。


 集中すればする程安定していく魔物狩り、ボス級と言われるパーティ推奨魔物を倒すようになり、ステータスの上昇やスキル熟練度の蓄積もスムーズになっていく。


 ボス魔物は初めこそ大きすぎてちょっとびびったが、大きい方が的が大きいと言う単純な話。


 勿論一歩で詰められる距離は脅威だし、いざとなれば風精の力で自ら吹っ飛ばされて距離を作り、陽精の力で目潰しを食らわせて、対処していく。


 昼職で作れる<練金>道具と夜【訓練】の成果が回り始め、PKKにも裏の仕事にも余裕が出てくる。


 それでも弛まず続けてこれたのは憎しみと、友情と、いずれ手合わせしてみたいライバルのおかげだろう。


 まあ、どれも自分の内に秘めておく事だが……。


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 【王国】クラン『Kingdom Knights』


 「あれ?珍しいな!売り物をコツコツ作ってるなんて、どんな風の吹き回しだ?」


 「ん?まあ実験用の素材やなんかで散在したから一旦真面目に稼ごうと思ってな」


 「ほ~そりゃまた殊勝な事で……、じゃあイベント用の道具やなんかも作ってるのか?」


 「ああ、2周年記念がRMTリアルマネートレードをやるプレイヤーが出た所為で無くなったから、代わりに金を落とす魔物が出てるんだろ?」


 「そうそう!専用武器でぶん殴るだけで稼げるから、すげーありがたいけど、生産職も稼げるって運営からの通知にあったからさ。<練金>だと何が作れるのかなってさ」


 「ふん……どうせそれ目的で来たんだろ?他のクランメンバーは総出で狩りにいってるはずだもんな」


 「ばれたか!それで、なんか無いのか?」


 「ふぅ……まず低級でも作れるのが専用武器を持ってなくても魔物をイベント用魔物に変化させる薬と武器をイベント魔物に特効化させる薬」


 「それは、イベント用武器持ってれば勝手に敵の姿が変わるからイラネ」


 「じゃあ、中級でも作れるのがイベント専用魔物の能力を低下させる薬」


 「へ~それは使えそうだけど、持っていってもいいのか?」


 「受付に預けてあるから、強いイベント用魔物を倒す時は使えばいいだろ」


 「そうだったのか!じゃあ遠慮なく使わせてもらうぜ!それで上級は?」


 「欲しがりな奴だな。一応俺が今作れる範囲だと、敵のランクを一個上げる薬だな」


 「どういう事だ?」


 「俺はよく分らんのだが、今外の敵はイベント用武器を装備してると、金・銀・銅に見えるって話だよな?」


 「そそ!専用装備を外せば普通の魔物に戻るから、素材が欲しい時は専用装備を外して鞄に仕舞う事になるな」


 「つまりこの薬を使うと銅の魔物が銀の魔物になって、金額が跳ね上がると説明には書いてある」


 「それはまた……<錬金>だな~。イベント用の薬の材料って確か……」


 「ああ、NPCから無限に買える仕様だ。しかもそこまで高くない」


 「それもカウンターに置いてあるのか?」


 「勿論だ。どんどん稼いできたらいい」


 「すげーインフレしそうだなこのゲーム」


 「どうだろうな。今迄プレイヤーに流通してきた金額が少なすぎるからテコ入れイベントかもしれないし、そこは分からんだろう」


 「そうか!まあ運営が企画したイベントだし、何があっても運営の所為だ!ここは思いっきり稼いでくるぜ!」


 「ああ、行ってこい」


 いつものあいつが走って出かけた所で、自分は手に入れたばかりの新装備を取り出す。


 本当はこいつの実験に時間を割きたい。でもお金のためにここは我慢のしどころだと言うのも分かってはいる。


 ちなみにちょっと使用感を試すつもりで、水+火 風+土は何も起きなかった。つまり相反と思われる精霊の力同士は打ち消しあう事がここで判明した。


 でもそうなると気になるのが、氷と雷と石なんだけど、うずうずしてきたぞ!


 ちょっとだけ試そう……。


 何しろこういうのは気になってしょうがない状態っていうのが良くない。作業効率は下がるし集中力の低下にも繋がる。


 それはしょうもないミスを誘発するし、結果的に実験の時間よりも無駄な時間を作る事になるのであれば、先に有意義な実験をして、すっきりとした気持ちで作業に取り掛かったほうが絶対効率がいい。


 こそこそと誰もいない訓練場に向かい『まぜーるくんナックル』を装着。


 早速、氷+雷を実験するも何も起きない!そして、石+雷で訓練場の案山子を殴ると何か起きた!


 何か起きたと言うのは、エフェクトが発生してるから何か効果があるんだろうと分かるのだが、効果の内容が全然分らない。


 案山子がバチバチ言ってはいる。でもエフェクトなので物理現象とは限らない。


 「おい!やっぱりこっちにいたのか!受付の<練金>薬切れてた……うわっ!」


 自分の事を探していたあいつが一瞬で案山子に吸い寄せられ、くっ付いてしまう。どうやら装備の金属が引っ張られてる?


 ふむ、フィルムケースはプラチナだから引っ張られる所だった、プレイヤー用のアイテムバッグに仕舞っておいて助かったな。


 『まぜーるくんナックル』は材料費の問題でプラチナではなく、銀を使ってるみたいだから磁性が弱いのだろう。


 「いや、何か納得してないでこれ何とかしてくれよ!」


 「いつも言ってるだろ。<練金>の精霊の力は制御できない。つまり効果が切れるまでなんも出来ない」


 「ぅおーーい!マジかよー!!……あっ外れた」


 ふむ、やはり『まぜーる君ナックル』は効果範囲、時間とも手ごろだし、実験用としては全く申し分ない。やはり【海国】のサイーダは天才か!


 「イベント用<練金>薬はまた補充しておくから、今はちょっとそっとしておいてくれ」


 「別にいいけど、金稼ぐんじゃなかったのか?」


 「くそ!金さえあれば思う存分実験ができるのに……」


 生産棟にすごすご引き上げる間も頭はフル回転する。何しろ新しい反応があったのだから……。


 つまり氷雷で反応がないということは水火の打ち消しあってる反応じゃ無いかと思われる。


 つまり雷精は火精の仲間類似の可能性が高い。となると後は風精の類似が足りないのか?


 しかし、面白いな。雷石で磁力と仮定するならば、雷土や火土はどうなる?ああ試したい!金さえあれば!!!


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【王国】死者の平原-夜-


 【王国】は現状開かれてるフィールドの中では中心に位置する国。


 その地理的理由からストーリー上幾多の戦いがあったとされてる。


 故に世界の中心の広大な平原は農業に適していながら、同時に激しい戦いのあった場所はアンデッド系魔物の大量発生地でもある。


 アンデッドと言っても平原のアンデッドはドライ系。つまりスケルトンだ。


 もう一つの中心である【教国】は平原のど真ん中にある一都市一国の特殊体制国家だが、ここはウェット系アンデッドが大量に出ると聞いたことがある。ちなみに行った事は無い。


 そして夜アンデッドといえば、相性抜群大量湧き、近寄らない事を推奨っていうスポットが一つ。


 廃棄された砦跡と呼ばれる、平原の瓦礫地帯。


 無数の骨、装備もまちまち。術系から戦士系から山程湧くそこは自分にとってはただの金脈に過ぎない。


 イベント用武器で鞭剣を買ったりすれば必ず足が付くのは分かりきった事。なにしろ使い手の少ない不便武器だから、それでも使う人がいるのはロマンもあるのだろう。


 そうなると昼間にコツコツ作り溜めた薬の出番。自分の装備に振りかけイベント魔物特効状態にして、あとはそこらの骨にイベント魔物化する薬をぶち撒ける。



 更に魔物弱体化の薬もぶち撒けるが、ここまで魔物の反応なし。イベント用と割り切っているのかとてもありがたい仕様だ。


 そして、さらにイベント用魔物ランクアップ薬をとりあえず一体で試すと……。

 

 木を補強した小盾と錆びたロングソードしか装備していなかった筈のスケルトンが、いつの間にやらちゃんとした騎士鎧に両手剣装備に……色も銅から銀に変色。


 ランクアップ薬なんだから当然か……敵も強くなる。


 銀のスケルトンを釣りだして、戦闘開始。


 重装備のおかげかやや動きが鈍いが、攻撃の重圧は半端じゃ無い。大外から鞭剣……最近上位のスキルを育てている<節尾剣>で攻撃。


 本当は出血デバフの効果が増して、生物の方が効率よくダメージを与えられるのだが、まあそれは今後のお楽しみ。


 突き放し、ノックバック系の術が増えたおかげで重装相手でも結構戦える。


尾剣術 串


 地面に剣を突き立てると敵の直下から節尾剣が生えて串刺しにする術だが、なんともゲームっぽい。


 今まで振り回して、そこに追加の効果が出るイメージだったが、これはどう考えてもゲームだろう!


尾剣術 円


 これは<鞭剣術>の頃にもあった術の強化版って感じだが、一定範囲の敵を吹き飛ばす効果がある。


 ただ術が上位に変わった事で、術発動状態を維持して相手を近づけさせない結界にもなるのが、役に立つ。


 問題があるとすれば、打撃力の低さ。


 しかし今はイベント中!特効武器の威力は伊達じゃ無い。明らかに強い筈の騎士スケルトンをあっさり完封。


 ごっそり金が増えた。


 その後もスケルトン狩りに勤しむ。術士スケルトンと弓スケルトンは通常状態でも厄介で危険な相手だったので、ランクアップ薬は使わずに倒す。


 あくまで安全に確実に稼ぐ為、夜が明けるまで徹底的にスケルトン狩り。


 そしてゲーム内とは言え、朝日に照らされた銀や銅のスケルトン達は、キラキラと輝いて見えた。


 全部全部自分のお金だ!と思っているうちに、スケルトンは土に還ってしまう。


 廃棄された砦跡は夜だけスケルトンフィーバーなので、朝には終了。


 イベントは数日続く。誰も来ないならここで稼ぐのが自分にとっては一番効率がいいだろう。


 出来れば『まぜーるくんナックル』の実験もしてみたい所だが、使った事のない組み合わせを安易に試せば、手痛い失敗があるかもしれない。


 つまり現状効果の分っている組み合わせの、実際戦闘における効果を試す形になる。


 それでも十分楽しみだ。


 何だかんだ復讐とはまったく関係のない普通のゲームプレイを楽しんでしまっている事を自覚し、自嘲的な笑いが零れ落ち、


 朝日の昇る中【王都】に引き上げた。

次週予告


 無事金欠も解決した黒い怪鳥

  <練金>による精霊の力の使い方も徐々に判明していく

   そんな中『指名手配』される者が現れ世界はざわつき始める。

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