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11.破産

 <練金>の研究の末、やっと納得いく威力のものが出来た。


 てっきり凝縮を重ねれば固体化すると思われた精霊の力は、何故か粘液と言う形で安定。


 見た目はただの粘液ではあるが、そこに込められた精霊の力は情けとか容赦とか自重とか知らない代物。<練金>において外からの精神力遮断は基本中の基本。


 オカキとか煎餅とかが入ってそうなサイズの箱に粘液を入れて補完すると、これでもかってくらい底にうっすら広がって、観察どころではない。


 一見無色透明だが、時折属性を現すような光を発する不思議な液体をもっとよく観察したいと、手に収まるサイズの円柱形の容器に移す。


 あっという間に吹き飛ばされ、折角の<練金>粘液まで散り散りになった事に、何故か悲しみを感じなかった。


 ただただ自分が作ったものの威力に唖然とし、自分の実験が成功した感動に打ち震えた。


 全く新たなものを作り出す快感。圧倒的自己肯定感。


 その後あらゆる影響を受けない容器の開発に勤しみ、手に納まる筒型に全てを納める事が出来た。


 それは大袈裟な表現ではない、誰にもまともに扱えない完全なる圧倒的暴力が手の内に収まると言う背徳感にも似た薄暗い喜びが全身を満たす。


 その後それを使いこなす実験を繰り返し、ことごとく失敗し、誰も彼もが迷惑がっている中、自分はただひたすらその威力にのめりこみ、孤独になっていく筈だったのだが、


 何故かいつも自分に説教してくる白い騎士。


 失敗する事を何も咎めずに、ただ人としてあるべき姿だからちゃんと掃除しろと言う面倒くさい奴。


 でも言ってる事はいつも正しい。アホじゃないか?と思うことは何度もあるが、人としての道は絶対外れない、そんなおせっかいな相手に友情を一方的に感じたが、本人には内緒だ。


 自分は所詮『騎士団』の変わり者で鼻つまみ者だ。余り深入りはしない方がいい。


 唯一共通するのはPKが嫌いだって事。


 『騎士団』はその性質上正面から挑む形になる。それに対してPKは攻められれば散り散りになって姿を隠し、油断を誘っては挑発するように人狩りをする。


 もし、一方的に友情を感じてるあいつの望みが、PKの絶滅だとしたら、自分が……いや俺がPKに圧倒的恐怖を与え、二度とPK行為に及べないようにしてやる。


 例えお前の望みがもっと穏健なものであっても、俺にはもう止められないPKKを……。


 俺はお前みたいな光り輝く正義じゃない。


 人の恨みつらみ憎しみの権化。悪を皆殺しにするだけの歪んだ存在。


 俺にはただあらゆる悪を巻き込み絶滅させるだけの力があればいい……。


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【海国】トルトゥーガ


 「相変わらず、暑いな~……」


 愚痴を言いながらも向かうのは『嵐の岬』のクランホーム。何しろ風雷、雷火が作れたのだからベルト拡張に吝かでは無い。


 何しろ『嵐の岬』の発明家は天才だ。使い方に困っていた風火をあっと言う間に実用にする手腕は只者じゃない。


 サイーダ。自分が名前を覚える数少ないプレイヤーに、また相談に再び訪れた【海国】。


 『嵐の岬』クランホームに着くと、本当にこだわりの無さそうなプレイヤーが奥まで案内してくれる。


 とても自由で気負いの無い雰囲気は何だかんだやっぱり好きなクランだ。


 そして、奥についても相変わらずの明るさで迎えてくれるのだ。


 「おっ!久しぶりじゃん!何か合った?それとも嗅ぎ付けちゃったか?」


 「ああ、新たにこれを作ったんで、こいつも実用で使えるようにして欲しい」


 そう言って、風雷と雷火の容器を手渡す。


 「これは?」


 「雷と風、そして雷と火だ。どちらもバフ効果になったんでベルトの拡張を頼めたらありがたい」


 「へぇ……大人しくバフ効果の研究にシフトしたんだ?ベルト拡張はいいけど……」


 「何か問題か?必要な素材か、金か?」

 

 「うん、だって近似精霊説で動いてたから、私の予想では最大でも4種だと思ってたの。でも雷が二種類被ってるってことは、もっと違う条件と考えたほうがいいよね。そうなると幾つセット出来る様にしたものか……術士の石との折り合いもあるからな~」


 「そうか……それに関してはこちらとしても予想が外れると思ってなかったし、金は十分に払うから研究を依頼したい」


 「ああ、それなんだけど、流石に『騎士団』に金をたかってばかりってのはうちのクランの面子とか色々問題あるのさ」


 「いや、これは開発に伴う必要経費だから!」


 「ああ、はいはいアンタがそう言うのは分ってる。でもうちにはうちのやり方って物が有る。それでこの新開発した『まぜーるくんナックル』を買ってくれたらありがたいな~」


 「そりゃ今後も増える可能性のあるバフ装着用のベルト開発をしてくれるなら幾つでも買うが、一体何だそれ?」


 「まあ、アンタも似たような道具は使ってると思うんだけどね。擬似的に溶液を混ぜた時の現象を引き出す道具だよ!」


 「?」


 「いや、?じゃ無いんだよ!いいかアンタは前にそのフィルムケースを手に握って精神力を流すって言ってたよね!」


 「フィルムケースって何だ?」


 「ああ……私も実物は見た事無いんだけど、昔は写真?画像を取るのにフィルムってのを使ってたの」


 「あ~!フィルム映写機みたいな奴か!」


 「そう!光に敏感に反応するフィルムを保管するのがフィルムケース!」


 「なんか色々結びついてきた!つまり写真屋さんとかフォトスタジオってのは!」


 「多分昔は写真を撮るって言う事自体が特殊技能だったんだよ!敏感でデリケートな素材をしまうそれはまさにフィルムケースだろ!」


 「確かに!これの事はこれからフィルムケースって呼ぼう!」


 「それで、その溶液は少量なら現象も小規模で済むよね?だからこのチビチビフィルムケースに入れてこのナックルに差し込んで精神力を流す事で、溶液を混ぜて起こる現象をある程度把握できるって訳」


 「すげー……なんていう先進的で前衛的なシステムだ……」


 「え?アンタ実験もせずに混ぜてたの?しかも少量から試さずにいきなり全部……」


 「え?うん。だってこの容器このサイズしかないもん」


 「ああ……そっか今気がついたけど、アンタ……アホだったんだ……」


 「いや、アホじゃないし!あほって言う方がアホだし!」


 「アホじゃなかったら、何で金貨何百枚もするものをいきなり原液で混ぜるんだよ!いいいからちょっとやってみな!」

 

 言われるがままに、風と火をバラバラにチビチビフィルムケースに入れて、ナックルに差し込む。そのまま精神力を流し込むと、


 「何にもおきないけど?」


 「何やってんの!早くその案山子殴りなって!引き出した精霊の力が今『まぜーるくんナックル』に溜まってるんだから、壊れる前に早く!」


 言われるがままに、案山子を殴ると、轟音と共に案山子が吹き飛ぶ。


 「これは凄い……本当に殴った対象だけに現象が起きた!」


 「そりゃねそのナックル部分に精霊の力をそのままぶつける為の仕掛けがあるんだけどさ。一応素材的に精神力を込めたら早めに使わないと、壊れちゃうんでそこは要注意だね。もし武器として実用レベルの物となると高くつくから、まずはそれを実験で使ってもらえば、かなり節約になると思うんだよね。本当は武器として売り込むつもりだったけど」


 「いや、これは本当に凄い発明だぞ。ちょっとやそっとで作れる物じゃない!……分った。これとこれの実用完成品合わせて、今ある全財産を置いていこう!素材やなんかを買うのに結構目減りしているが、それでも自分の作れる精一杯の財産だ。足りなければ稼いで来よう!」


 「やっぱりアホじゃん。何さ全財産置いていこうって!アンタが幾ら普段稼いでいるか知らない……ギャー!!」


 「大丈夫、頑張ればすぐ稼げる額だ。研究諸々に使ってくれ!前回のベルトもかなり有効に使えてるし、もしうまく行くなら<蹴り>用にも仕込めると助かる」


 「え?<蹴り>って靴とかブーツって事?でもそんなの差し替えづらいし、実験には使いづらくない?」


 「いやでも、火精とか<蹴り>で使えたらかなり可能性が広がるんだが?」


 「アンタ……火精は駄目よ。あれってさ自分と言わず他人と言わず、精神力あるものにどんどん延焼していくじゃん。ある意味最初に込めた精神力が意味ないタイプの危険な代物を<蹴り>で使おうなんて無理よ。風と混ぜるから爆発って形で一瞬の現象で済むんだからさ」

 

 「じゃあ、風で吹き飛ばす<蹴り>とか、雷で痺れさせる<蹴り>とかでも助かる」


 「ん~風は何とかなるけど雷はまだよく分かってないからな~。しかも足の甲なのか裏なのかって問題も有るし……。<蹴り>の威力が上がるわけじゃないしな~。……ああでも風精の力を使ってジャンプ力上げるだけなら出来るかも?ついでに着地の瞬間に火精を広げて周囲のヒトを片っ端から延焼させるとか?」


 「それだ!つまり火を纏って、風で広げて敵にだけ延焼効果を残す!」


 「ん~分った。やるだけはやるけど、余り期待しないでね」


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【海国】とある島-夜-


 「また空振りだったな。『邪神の化身』については何の情報も無かった」


 「そうだな。なんともいやらしい話だ」


 「そもそもその『邪神の化身』とやらの情報は【教国】から出てきたものだろう?だったら【教国】内で動けば話は早いんじゃないか?」


 「まあそれはそうなんだが、なんとも俺にも立場って物があるからな……」


 「あんたは『邪神の化身』が何か知ってるんだろ?じゃあ【教国】のヒトって事か?そりゃ大変だろうな。自分のところで人攫いを指示した奴がいるんだろ?それこそあんたの仕事っぽいけど、誘拐担当でも他にいるの?」


 「そんなもんいるかよ。それに『邪神の化身』ならある程度昔話を知ってる奴なら誰でも知ってる。聞くか?」


 「まあ、聞いていいものならな」


 「いいか?世界は創世神と邪神の綱引きのバランスで成り立っている。俺やお前は創世神が有利な程力を手に入れるし、世界自体も広がるって訳だ。だが俺達が直接邪神なんかと戦える訳がないし、神々が直接対峙したなんて話も無い。寧ろそれこそ、世界の終わりだろう」


 「まあその辺はある程度分る。だが世界が広がってるってのは、狭まった事もあるって事か?」


 「ああ、世界は広がったり狭まったりしてるし、その都度現れたり消えた技術がある。どうやってもその系譜が分らない技術で出来た道具や装備なんてものが結構当たり前に残ってたり、どこからとも無く出てくるのはそういう事さ」


 「ふぅん、それで『邪神の化身』ってのは?」


 「時折力を蓄えた敵が出てくるのさ。それこそ世界を守る一柱級の敵が、創世神側の重要な存在を消しにな」


 「こちらの世界を守る一柱も戦えばいいんじゃないか?」


 「そりゃ、そういう歴史もある。だが戦闘能力だけを取れば向こうの方が強かったり、相打ちでお互い力を失ったりと、その後大変な事になったとも伝えられてる。だから神の尖兵たる俺達が必死こいて倒すか、弱らせるなりしないといけないって訳だ」


 「まあそりゃ精霊と同格の敵が現れて、攻めてくるとなればこっちも死に者狂いでかかるしかないだろうし、魔将なんてのと比べ物にはならんだろうが……」


 「ああ、魔将も魔将で伝説に残る敵だった筈なんだが【帝国】と【王国】の理不尽が、完膚なきまでに叩きのめしたらしいな」


 「最強のニューターと集団戦最強のニューターな。理不尽って呼ばれてるのか」


 「まあ一部では、な。どちらも普段は話が分かる上に腕のいい戦闘者らしいが、一度怒ると手をつけられないってもっぱらの噂だ」


 「噂ね~……。まあ何にせよその『邪神の化身』が復活するなら手を打たなきゃならないんだろうが、そん所そこらの小悪党を絞っても意味ないんじゃないか?」


 「確かにな。ちょっと俺は情報収集の為に潜伏せにゃならんかもしれん」


 「ふぅん、まあそれならちょっと俺も単独行動していいか?」


 「何かあったのか?協力できる事なら知らん仲でもないし、言ってみたらどうだ?」


 「別にただ新武器開発の為に金つっ込んじまって、破産した」


 「何だそういう事か。それなら神よりお告げがあったろ?ニューター救済の為金を落とす魔物が出るってな。昼は<練金>夜は魔物狩りをすれば、まとまった金を作るのもそう時間かからんだろう」


 「なるほどね……」


 運営主催のイベントの事なんて完全に頭から抜け落ちてたが、魔物を倒すだけで金が手に入るイベントなら、分りやすいし、ちと頑張ってみるか。

次週予告

 

 これまで一般プレイヤーとは一線を引き自らの研究に没頭してきた<練金>研究者

  生産者として過ごしてきた昼の時間溜め込んだ金を放出し力を手に入れた

   しかし使えば無くなるのが金、計らずもちょうど始まる『イベント』で一山狙う

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