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1.PKK

当面


過去→現在昼→現在夜のパートを3つ一組で進行します。

 初めてのフルダイブVR


 宣伝に偽りなく本当に五感を刺激する世界。


 目の前には街が広がり自分と似たような服装の人々がおっかなびっくり、うろついている。


 世界でまだ殆どの人が経験した事の無いこのゲームで、これから何をしようか。


 普通に買ったらちょっと高すぎるゲーム筐体、遊びつくさねばもったいない。


 ほんの少しの邪な欲、人よりちょっとでもいいから先んじて、格好つけたい。


 それだけの油断が、チュートリアルもろくに見ずに街の外に出るという決断をさせた。


 それがもし、魔物に襲われて倒されたというなら、ただ反省するだけの事だったが、


 襲ってきたのはPKプレイヤーキラー


 自分とほんの数時間も変わらないようなPKが後ろからナイフで刺してきて、そのまま滅多刺しに。


 どこでそういうコツを覚えたのか、目やら喉やらを突かれろくに身動きも出来ず、何も見えずに、ブラックアウトしていく視界。


 何より怖かったのは人の悪意殺意。アバター越しにもかかわらず伝わってくる歪んだ興奮。


 完全にブラックアウトした視界の中、ゲームを止めた。


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 【王国】クラン『Kingdom Knights』


 「んあ~あ~どうすっかな~折角攻撃的な火精の力の抽出と凝縮が出来たってのに、手から離れたら起動しないってのは何でだこれ。手に持ったまま火精の力なんて解放したら自分がダメージ負っちまうもんな~。アレか風精かなんかで指向性を持たせれば、手元から放つ感じになるのか?となると……」


 「……おいっおいってば!整備班!」


 「あ?俺は整備班じゃなくて研究員だっての!【兵士】なら自分で【整備】やれよ!」


 「いやいやいや、そう言って何の成果も出さずにいつも俺達が集めてきたドロップ品を片っ端から食い潰してるんだから、整備くらい文句言わずにやれっての」


 「どこかに生産職の奴がいるだろうがよ。そっちの方が腕がいいし、そっちに頼めっての!」


 「はぁ?お前が研究の為に宝石が必要だとか言って、鉱石堀に行かせたんだろうが、研究すんなとは言わないが、持ちつ持たれつでやってるんだから、任せたぞ!」


 「あぁ……分かった。でもあまり期待するなよ。俺は【練金師】なんだから、こういう<手入れ>とかは育ててねぇぞ」


 「わーってるっての。俺も他の生産職に頼みたいが、時間が無いんだよ。一旦ログアウトしなきゃなんねーし、戻って来たらすぐにユニオン討伐に行く事になってんだわ」


 「ほーん、じゃあ出来たらいつも通り受付の所に預けとくぜ」


 「おお、悪いな!」


 言うなり、宿舎に向かって行くクランメンバー。


 まあ、仕方ない。一つ溜息ついて、預かった装備の<手入れ>を始める。

 

 <手入れ>なんてのは誰でも手に入れられる。汎用スキルだが、ちゃんと育ててないとやたら時間が掛かって面倒くさい。


 しかし、クランメンバーの言う事もその通りで、『Kingdom Knights』と言えばゲーム内でも有数のクランなんだが、自分はそこに寄生して<錬金>とか言う怪しげなもんを研究中。


 一応〔賢者の石〕ってのが作れるようになれば、どこ行っても食いっぱぐれの無い文字通り金を生む職業ではあるのだが、この職業の特徴はやっぱり精霊の力を抽出したり具現化できるところにある。


 普通にRPGとかやってる人なら大抵は想像が付く属性ってやつを道具で使えるようにする訳だ。


 本来は精霊ってのは創世神に属する世界を守る一柱らしいんだが、その力を具現化して保管して使いやすい形にするってのが【練金師】らしい。


 金策しやすいんでマイナーって程じゃないが、メインにもならない微妙系生産職ってところ。


 今のところ属性相性なんてのも微妙だしな~。術は術で相殺出来るから、物理戦闘職に属性を付加できる道具を使わせるとかその程度しか出番が無い。


 今研究しているのは何とか単体で攻撃に転用できる道具が作れないかって言う事なんだが、何とも難しい。


 火精の力を粘度のある液体状には出来たのだが、火精の力がこめられてるのに何故か燃えない。


 初めは相手に掛けて燃やせば火精効果上昇が望めると思ったのだが、全然だった。


 見た目油だから燃やせばいいっていう安易な考えは全く通用しないのが<錬金>!意味がわかんない。


 何故か手元で精神力を送り込むと物凄い燃える。それはもう一滴で火事になるレベル。


 普通に焼身自殺なので、何とか使い道が無いか考えてるんだけど、扱う装置的なものは全然わかんないだよな~。本当に抽出したりするだけの力なんだよ<錬金>。


  こんな物を新兵器ですって言って渡したら正気を疑われるし、当分は自分の懐に抱えておこう。


 使い道もない事は無い。


 ちなみに精神力ってのは気合とかそういうアレじゃない、判り易く言ってしまうなれば術を使う力、所謂魔力なんだけど、このゲームにおいて魔力って単語は敵性勢力である邪神の力って事になってしまう。


 ざっくり言うと、プレイヤーは創世神側として呼ばれ、邪神勢力を削るほどプレイヤー有利の世界が展開されるって事らしい。


 ちなみにプレイヤーは種族としてニューターって呼ばれてる。NPCの人間型はヒュム。NPC相手だとこの言い方じゃないと伝わらないので要注意。


 そして魂だけ他所の世界から呼ばれ肉体はこの世界の神によって構築されてるので、時間の感覚が違い、プレイヤーの左手の甲には現在の現実の時間とHPMPに当たる生命力と精神力及びバフでバフなんかが表示されている。


 世界は霊子と呼ばれる素子で作られていて、それを変質させる魔素っていうのが邪神勢力の力。


 ところが、自分が金策の為に作る賢者の石はふんだんに魔素を使用している。本来見る事も触れることも出来ない筈の霊子その物を扱える形に変質させる為に魔素を使用するのだが、


 敵性である魔素を金儲けに利用するなど人とは業の深いものだ。


 考え事をしていると時間が経つのも早いもので<手入れ>も終わったし、今日はここまでにしておくか。


 <手入れ>の終わった装備を受付に預け【王都】の夜を抜ける。


 街灯と細い三日月がぼんやりとレンガ造りの都の輪郭を映し出す。


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【王都】郊外フィールド


 「はい残念!あんたら『騎士団』のメンバーだよな?駄目だよ~夜は危険だから街の外に出ないようにってNPCに言われなかったか?」


 「何者だ!」


 「はいはい、相変わらず高圧的ですね~『騎士団』の面々は、何様のつもりなんだか。まあでも大方予想は出来てるんだろ?」


 「PKだな?」


 「正解!じゃあ、死んでね」


 「何が目的だ!お前達はいつもこそこそと奇襲をかけるしか能が無い筈なのに、何故出てきた?余裕のつもりか?」


 「え?気が付いた?思ったより馬鹿じゃなかったんだ?実はね~無冠の王『騎士団』の人達が頑張らないから【王国】全体が舐められてるって知ってる?だから【王国】の面子の為にも『騎士団』を鍛えてあげようって言うイベント中なんだよね!だからこれからひたすらPKに命狙われ続けると思うけど、心折れずに頑張ってね!じゃあ死ね!」


 「ふん!PK風情が舐めやがって!」


 闇夜に浮かぶ軽装の顔を隠した男と、いかにも騎士を意識した重装備の剣使いが対峙する。


 剣使いが一歩を踏み込んだ瞬間、軽装の男の姿が消え、夜の静寂が戻り困惑する剣使い。


 しかしそれも束の間、いつの間にか剣使いの背後に現れた軽装の男のダガーが剣使いの脇腹を抉り、また姿が消えてしまう。


 軽装の男は奇襲や相手に認識されてない状態からの攻撃でダメージが乗るスキルビルドなのだろう。


 たった一回の攻撃でも剣使いの警戒度が一気に上がるのが見て取れる。


 しかし姿の見えない相手に幾ら警戒しても、打つ手が無い剣士の息が徐々に乱れていく……。


 どうやら状態異常までオマケに貰っていたらしい。幾らなんでもおかしな息の上がり方だが、敵の姿が見えず、警戒を解くこともできないようだ。


 しかし、どれ程経ったろうか、意を決した剣使いが薬を取り出したのに合わせてまた姿を現すPK。


 だがそれは剣使いの誘い。すぐさま自分の死角に剣を振ったのは何かスキルでPKを察知したに違いない。


 ダメージを貰ったPKが吹き飛ばされるのと、剣使いに投網が被せられるのが一緒だった。


 どうやら仲間も隠れていたらしく、剣使いの動きを封じた所で、二人が姿を現し、顔を隠してても分かるせせら笑いとともに、剣使いに迫る。


 奇襲じゃない状態での一対一なら見逃そうと思ったが、そうはいかないらしい。ならば!


 「しなれ鞭剣」

 

 鋼線が刃をつなぎ蛇腹の様にうねり伸びる奇形剣を振り、投網を投げたPKを叩き斬る。


 「なんだ!貴様!」


 いきなり激昂して叫んでくるのは先に現れた軽装のPK。

 

 隠れるのが得意みたいだが、隠れた自分を見つける事はできなかったようだ。


 PKの誰何に構わず、投網のPKの首に鞭剣を絡めて引けば、独楽のように回転しながら連続ダメージで削れて行く。


 PK達はどちらも軽装。当てればいいのだから、楽な戦闘だ。


 絡めた鞭剣を引ききった所で一旦収縮させ、普通の剣状に繋ぎ、突きの構え。


 首から出血エフェクトが出ている投網PKに剣先を向け、


鞭剣術 貫殺


 剣が伸び投網PKの腹を貫き、剣の節が一個抜ける度にダメージを重ね。そして金だけ落として光の粒子になって消える。


 先に現れたPKも流石に仲間の死を見届けるだけではない。いつの間にか背後に周り、ナイフで突いてきた。


 ぐっさり腰を刺された感触があるが、それならば!


 腰に下げた容器の一つを手に取り、PKを殴りつける。


 何のダメージも無いただのフックパンチが、背後にいるPKの胸に当る。


 不思議そうに小首を傾けると同時に炎上。


 危険物が燃え盛るような容赦ない炎に包まれるPKと自分。


 PKはどこに逃げようと言うのか数歩走って倒れると、そのまま光の粒子に変わってしまう。


 さて、多分まだ隠れている奴がいる筈だ。なにしろPKが金を稼ぐ手段と言えば、PKした映像を賞金サイトにアップするのが一番手っ取り早い。


 バイザーに仕込んだ色つきガラスを降ろし、ただでさえ暗い視界が真っ暗に……。


 目をつぶり、陽精の力を抽出した容器を掲げて精神力を流し込めば、目をつぶっていて尚目が焼けるような強烈な光。


 薄目を開けて周囲を見渡せば明らかにおかしな影がある。


 強力な陽精の光にいつの間にか自分の体の火も消える。術が術で相殺出来るのというのは当たり前の事。

 

 陽精の強い光に照らし出された怪しい影に近づくと微妙に震える空気


 「そこか……『強奪』」


 見えないが隠れている事を確信し、そのまま空いている左腕を伸ばし触れれば、相手から目当ての物を奪う。


 多分目の前の隠れたPKの仲間は強い光に目を潰され、今自分がどういう状態かもよく把握できていないだろう。


 そのまま鞭剣で串刺しにし、一方的な攻撃で止めを刺す。


 火精にせよ陽精にせよ何らかの術をぶつければ、相殺できるのだが、何の対応もできないPK達。


 まあでもそれも仕方ない。なんの制御もかかっていない精霊の力は凶暴そのもの。


 本来なら精霊と契約して術として扱うから程ほどで済むものを強引にその力だけ引き出して使えば、火精の効果も火傷じゃ済まない。


 あっという間に命を奪う地獄の業火と化すし、陽精は温かく世界を照らすどころか目を潰す。


 こちらが何をしてくるかも分からないのに冷静に対応する相手が現れたら、それこそ撤退するしかない。


 「お前、何者だ?助けてくれた事は礼を言うが……PKキラーて奴か?」


 まだ息のあった剣使いの騎士が聞いてくるが、自分は到底他人に名乗るような者じゃない。


 PKを見つけて狩り倒すプレイヤーが名を名乗って碌な事などあるわけも無い。


 黙って立ち去る。

次週予告


【王国】PK達を狩る黒い影

 昼と夜では違う顔を持つ

  昼の顔は『研究者』

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