4話 新たな仲間
城井は光莉さんに憧れている。
SNSで世界の人間を照らしたいという大きな目標を持っていた。
「でも、私なんかができるかな?」
「なんかじゃない。お前じゃなきゃできないんだ」
「こ、これが現状でも大丈夫かな?」
城井はスマホの画面を変えた。
そこにはフォロワーも投稿も何一つない捨て垢みたいなアカウントがあった。
「高校に入ってから始めたけど、緊張して何もできなかった。私。その。人見知りだから……」
確かにこれは酷い。
「じゃあ、お前はSNSをやるな」
「そんな……」
人見知りという性格を治すなんて方法は俺には分からない。
だが、昔、知り合いから教えて貰ったことがある。
「別人の演技をしてみろ」
「別人?」
「お前の異能は髪の色を変化できるんだろ? 髪型も代えて別人の演技をすればいけるかもしれない」
「なるほど、少しやってみるよ」
城井は髪をいろんな色に変えて試行錯誤をした後、銀髪に変えた。
「これで、髪を解いて……どうかな?」
目の前の人間が一瞬で変化した。
顔は同じはずなのに髪だけでここまで印象変わるもんなんだな。
人見知りのせいか猫背で姿勢が悪くてよく顔が見えなかったが別人を演じる為か姿勢も伸びて元々の顔が良く見える。
元から少しおとなしめな顔がいい素体になっているな。
「じゃあ、後は設定だな」
「えっと。ゆーちゃんって名前のいたずら好きな天使っていうのはどうかな?」
ゆーちゃんか。天使とかいうのも含めてかなりファンシー路線に行っているが、まあ本人が考えている以上はそれでいいか。
「よし、それで投稿をしてみろ。ゆーちゃんになりきれ」
「うん。やってみるねっ!」
既に役になりきって声の明るさも変わっていた。
そのままの勢いで自撮り写真と共に何かを打ち込んで投稿していた。
「あっ。できた! 投稿できたよ」
「よくやった。これからは地道にやっていこうか」
これでSNSの問題は少し解決した。
「ありがと! 私。こんな気持ち初めて……」
「良かったな。早速、明日から活動するぞ」
「うん! じゃあ、今日はなにからなにまでありがとう。私、今後恩返しできるように頑張るから」
初対面の時は自己紹介をするだけでも吐きそうだった奴とは思えない。
人見知りが少なくなれば魔法使いとしてかなり使える。
「冷蔵庫覗いてもいいかな?」
「ああ、別にいいが……」
そんなものを覗いても、冷凍食品ぐらいしかない。
「ありがとう。じゃあ、また明日」
「ああ。気を付けて帰れよ」
城井は髪色を戻してから家に帰っていった。
そういえば、俺の家は二階にあるのになんで通りかかったのかは少し疑問だな。
まあ、結果として今日中にパーティーを組めたしラッキーとしておくか。
とりあえず明日からの活動に備えて今日は早めに寝ることにした。
――――――
翌朝。学校に行こうとドアを開けると、昨日と同様にドアの目の前に城井が立っていた。
「久木くん。おはよう」
「ああ、おはよう……いつからそこに?」
もしかして出待ちされていた?
「一時間ぐらい前かな? 昨日はかなり早めに来ていたって聞いたから。学校にも早めに行くかもと思って早く来たの」
「インターフォンでも鳴らしてくれればよかったのに」
「それだと、邪魔になりそうだったから……今度からはそうするね」
まあ、一時間も待たせたのは罪悪感があるが、一体何の用があって来たんだろうか?
「こんな朝から待っているということは何か用があるんだろ?」
「ん? 一緒に登校するだけだよ」
「え? ああ、そうか。仲間だもんな」
一緒に登校なんて初めて聞く。
まあ、仲間だし別にいっか。
「あとね。久木くんのお弁当も作ってみたの」
「弁当? わざわざ悪いな」
「ちゃんと栄養バランスも考えて作ったから一緒に食べるのが楽しみだなー」
俺は何もしていない。
こんなに気を使われるとすごい申し訳ない気持ちが強いのだが、どうしたものか。
「とりあえず、学校に行こうか」
「うん」
昨日会った時は会話すらままならないかもと思っていたのに、慣れたらここまで距離が近くなるものなのか。
そう思えてしまうほど、登校中の城井と俺の距離は近かった。
会話はそこまでなかったが、今後のパーティーについての話が多かった。
「パーティー名どうする?」
「いい名前があればいいが、あまり思い浮かばないな」
「『白の珈琲』みたいなのがいいよね」
別にパーティー名に決まった規定はない。公序良俗に反しなければ何でもいい。例え《ああああ》と付けても受理される。
だからと言って適当な名前にする奴らはごく少数派で大体のパーティーはある程度の意味や思いを持つ名前にする。
俺が所属していた『鋼鉄の爪』は、えっと。その……まあ、何かしらの意味があってそういう名前になっていた気がする。
それで、佐月先輩たちの『白の珈琲』は、不可能を可能にする存在という意味が込められている。
普通黒いはずの珈琲を白と表現することでそんな意味を示している。
なんというか、俺から見てもオシャレな名前だし、しっかりとしたビジョンというものが見える名前だ。
ちなみにネットでは名前の考察をするだけの場所もあるぐらいで、そこでは他にも様々な意味の考察が日夜議論されている。
別にどんな名前でもパーティー申請は出来るから事情がなければ城井に丸投げしていた。
だが、俺たちはあの『白の珈琲』と一緒に行動することを目標としているパーティーだ。なら、先輩たちに泥を塗るような名前ではダメだ。
城井が変な名前を付けるとは思っていないが、二人で考えた方がお互いに納得できる名前にできるはずだ。
「名前はまた時間がある時にじっくり考えることにしよう。今日はお前の能力と俺の能力のすり合わせをしたい。それでいいか?」
「うん」
「じゃあ、またな」
魔法科と冒険科は建物が違う。
ただ、建物が違うと言ってもすぐ隣にあるし、食堂も共有で会おうと思えばすぐに会える距離だ。
――――――
別れた後、下駄箱である男が俺の首に腕を回して来た。
「カズキっち! さっきの彼女?」
この馴れ馴れしいのは関下洋介。入学した時からこんな感じの奴だ。
「胸は大きかったけど、顔は地味めやったな。カズキっちの趣味?」
「うるせえ」
「すまん。すまん。彼女いじりは悪趣味やったな。悪かったって。そう怒んなよ」
別に怒ってなどいない。
「そうだ。お前、パーティーをクビになってたよな」
「それがどうした?」
「いや、あと一か月だったのに残念だったなと思ってな」
『鋼鉄の爪』にあと一か月いれば、半年所属した事になった。
パーティーと個人には強さに応じてダンジョンと同じように等級が与えられている。
この等級以上のダンジョンに潜ることはできないという制約もあり、等級がパーティーの格を表すと言っても過言ではないとまで言われている。
『鋼鉄の爪』は四等級のパーティーだった。これは日本でも高い位置にあると言える。
そして、そのパーティーに半年活動をしているパーティーメンバーにも同じ等級が与えられる。
高い等級が個人にある場合のメリットは新たにパーティーを作る時にその等級から始めることができる事にある。
俺はその等級欲しさで『鋼鉄の爪』に入った。
別にこれは一般的なことで、伝統に近いものだ。
「次はいいパーティーに入れるといいな。じゃ。俺は先に行っとくぜ」
ほぼ、一方的に話しかけられたが、洋介からは不快な感じな全然しない。
あいつの不思議な人望は見習いたい所だな。
――――――
「次は昼休みに」
休憩時間の時間が少なくなった所で城井が帰っていった。
「なあ、カズキっちの彼女さ。休憩時間になる度に来るな。愛重すぎだって」
「彼女じゃないが、毎時間ごとに来ているな」
「魔法科からそう遠くはないけどさ。そんなに頻繁にくるもんじゃないぞ」
確かに城井には面倒な動きをさせてしまっている。
「今度は俺から行くべきか」
「まてまて。天然ちゃんか? ……まあ、カズキっちがそれでいいならいいか」
こいつは時々、変なことを言うな。