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最終話 憤怒

 俺たちは東京の高難易度のダンジョンをいくつも攻略した後、下徳に戻った。


 先輩たちが特級ダンジョンを攻略し、攻略中の動画が世界中で閲覧され、特級ダンジョンの恐ろしさそして先輩たちの常軌を逸した強さが世界で認知された。


 特に特級ダンジョンのダンジョンマスターは悪魔で人型でだった。人間に特攻のある佐月先輩が無類の強さでダンジョンマスターを倒したのものの、最後に呪いを受けてしまった。


 精神にダメージを負った先輩を守る為に先輩に信用のおける人物が召集された。

 俺たちも呼ばれ、先輩のいる病院を守る役目を引き受けた。新魔教団のみならず、佐月先輩に恨みのある連中が攻めて来たが、何とか撃退することができた。


 襲ってきた中に不気味なスキルを身に着けた城井の因縁の相手である炎の魔法使いがやって来たが、なんとか撃退することができた。


 先輩が受けた呪いは本来回復不可能と言われていたが、佐月先輩の恋人である光莉さんの献身的な介護によって一か月ほどで完治していた。この騒動の中で、先輩たちの過去を教えて貰った。《白の珈琲》の先輩たちは元々辞める予定の人員で集められたこと、佐月先輩を除いて三人とも何かしら精神が壊れていたこと。

 完璧に見える先輩たちにも壮絶な過去があったことを知って、俺たちがいかに恵まれていたかを思い知るきっかけになった。


 先輩たちが完全に復活してすぐに新魔教団の総戦力による最終決戦が始まった。


 自爆テロやら女子供も関係なく虐殺していく様子は連日メディアを賑わせた。


「この世界は終わりに近づいています」


 すべての報道がその言葉に染まった。


 国や警察は勿論、冒険者たちもテロを鎮める為に動員された。

 しかし、新魔教団は勢いを増すばかりだった。世界が怒りに包まれた。


 とうとう先輩たちも精神的な疲労にやられて、どこかに消えてしまった。


 残された俺たちは白陽のシェルターで余生を過ごすような生活になった。


「なんでこうなっちゃんだろうね」

「もう、外の世界には俺たち以外に正気の人間はいない」


 俺たちだけが、この悲劇の黒幕を知っている。


「ねえ、久木くん。心中しようよ」

「……」


 最近、城井は心中を提案してくるようになった。


 正直、俺も精神的に辛くなって来た。

 自制の効かなくなった世界。俺はこんな世界じゃ生きられない。


 無駄に生を長引かせる必要なんてない。


 あれ、そもそもなんで生きて――


「ダメだ。そんなことはダメだ」


 何とか食い留まる。


「もう、私たち見放されているんだよ」

「誰に? 俺たちは生きているだろ」

「だって、こんなの信じられないよ。世界がこんなあっという間に終わっちゃうなんて」

「俺たちは生きている。誰が何と言おうと生きているんだ」


 俺は城井の肩を掴んだ。


「だって、じゃないと。俺たちってなんだよ。神とかそういう奴に弄ばれているっていうのかよ」

「もう大丈夫だよ。悩まなくても私たちは永遠に一緒に」


 城井の髪が白くなった。


 鎮静の魔法を使う時になる色。昔は俺の怒りを鎮めるために使われた魔法だったが、今は鬱状態にして俺をより死への道へ引きずる為の魔法になってしまった。


「苦しみから解放されようね」

「やだ。やだ。まだ、俺は――」


 夢を、先輩とダンジョンを攻略する夢を。

 城井とSランク冒険者になってみんなを見返す夢が――


 なに一つ叶えられていない。


 俺は、主人公なんだ。

 そう思わないと、そう思うことで生を引き延ばさないと。


「私は絶対に見捨てないから。久木くんも見捨てないでね」


 ――――――


 ある日、俺は暴れてしまった。


 世界を焼く怒りを。

 こんな世界にした神への怒りを。


 すべてを破壊した。


 意識が戻る頃に、俺の目の前にはすべての元凶であったユウが倒れていた。


 ノイズまみれのユウは芋虫のように俺の足に縋り付いた。


「この世界も終わりだねー。ばいばーい」


 俺の体がノイズに包まれた。


 ああ、これで終わりか――

 最期に残ったのはこの世界を創ったクソみたいな神に怒りだった。



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