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3話 残された時間

 ダンジョンを出た後、俺たちは普通のファミレスに来ていた。


 道中で刀を投げ捨ててしまったことも謝れたし、先輩たちもそれほど気にしている様子はなかった。


 店の中では、席の関係で男女で別れて、俺は佐月先輩と川谷さんと一緒になった。


「今日はどうだった?」

「俺の力についても知ることができましたし、先輩たちの動きは参考になりました」

「それは良かった。お前ほどの奴が埋もれるのはもったいないからな」


 今回の事は感謝してもしきれない。


「そこで、お前には先に伝えておきたいことがある」

「何ですか?」

「俺たち『白の珈琲』は今年で解散する」


 えっ? 心の中ではリアクションしたが実際に声には出せなかった。


「なんで、解散なんてするんですか? 先輩たちならプロでもやっていけるのに」


 ダンジョンは未成年の内は死んでも生き返ることができるが、大人になるとダンジョンで死ぬことは現実での死と同じになる。

 大人になっても職業として冒険者をする人間は極少数だ。


 三等級以上のダンジョンを安定して攻略することができるパーティーでないとプロの資格を得られない。そんなレベルのパーティーは学校でも一つか二つぐらいだ。


 その点『白の珈琲』は一等級のダンジョンすら安定して攻略する実力者だ。プロになってもいくらでも稼げるはずだ。


「ごめんね。僕のせいなんだ」


 川谷さんは申し訳なさそうに言った。


「きっかけは徳人だが、そんなことは今はいい。解散するにあたって、来月から世界各地の特級ダンジョンを攻略する。まあ、卒業旅行みたいなもんだ」


 特級ダンジョン。すべてのダンジョンの頂点に君臨する四つのダンジョン。

 難易度は一等級とは異次元で、今まで攻略された記録はない。


 流石の先輩たちでも苦戦するだろう。


「俺たちとて楽に攻略は出来ない。最低でも三日はダンジョンに寝泊まりすることになるだろうな。だが、宿泊する為の道具を持つほどの余力はない。そこで、各地で荷物持ちを二パーティーほど募集する予定だ」


 『白の珈琲』の荷物持ち。それも特級ダンジョンでの荷物持ちだ。

 知名度も人気も実力もすべて持っているこのパーティーの雑用はもはやご褒美に近い。


 応募者なんて全国から無数に集まって来るはずだ。

 俺だって例外なく応募する。


「そのうちの一つは後進育成の意味も込めて高校一年生の一番強いパーティーを選ぶ。これ以上は言わなくても分かるよな。日本での期限は二か月後だ。お前には期待しているぞ」


 学年トップのパーティーを作れ。佐月先輩はそう言いたいんだ。


 それも、下徳高校だけじゃない。日本にあるもう二つの冒険科をようする東北にある第一岩先(いわさき)高校と首都東京にある帝東ていとう西高校の奴らもライバルになる。


「君の中に閉じ込められた獣さえ使いこなせれば、楽勝だろうけどね」


 イライラした時に現れる俺を川谷さんは獣と表現した。


 確かに見境なく何かを攻撃する行動は欲に忠実な獣のそれと同等だ。


「弱点も理解していると思うし、僕からは何も言わなくてもよさそうだね」


 あれは、暴走に近いから仮に暴走形態と呼ぶことにするが、暴走形態には三つほど明確な弱点がある。


 まず暴走形態に自在になれないこと。あの状態になるにはイライラする必要があり、今の俺では自力ではあの状態になれない。


 次に体力の消耗が激しいこと。常に全身に力を巡らせるせいか持って五分。ダンジョン攻略をするには五分程度じゃ全然足りない。


 最後に元の状態に戻るまでに被害が出るかもしれないこと。暴走形態を制御できないせいで元に戻るまでになんでも壊してしまう。


「深く考えすぎるなよ。まずは仲間を作れ。そうした方がお前にとってプラスになると俺は思うな」

「そうですね」

「とりあえず、今日は食えるだけ食っとけ」


 不安もあって食事の味がよく分からなかったが、普段よりも多めに食べた。


 ただ、飯を奢って貰えたことよりも先輩たちと会話で来たことが何よりも嬉しかった。

 俺もいつか佐月先輩みたいな強い男になりたいなという思いが強くなっている。


 まずは二か月後の特級ダンジョン参加への切符を勝ち取らないとな。


 ――――――


 先輩たちと別れた後、俺は家に帰った。


 下徳高校の生徒は基本的に一人暮らしを推奨されている。大学と同じ感じで学校周辺には学生向けのアパートも多い。


「ゴミ出ししねぇとな」


 疲れている体だと、ゴミ出しですら面倒だが、やらないと明日以降が面倒になる。

 とりあえず、さっさと出しに行くか。


 部屋を出ると見知った顔がメモを持って立っていた。


「城井か。どうした?」


 城井由香里。俺と同じ一年で魔法科の奴だ。


 なぜかメモの紙とペンを後ろ手で隠したが、まあ、元から人見知りで挙動不審な所があるしそこまで気にしなかった。


「あ、あの、()()通り掛かって……」

「そうか……いい機会だし、少し家で話さないか?」


 城井の魔法は俺を暴走形態にすることができる特殊なものだ。

 今日の見学に来ていた以上は『白の珈琲』に何かしら繋がりがあって憧れがあるっぽいし、少し話をしてみたかった。


「えっ! いいの?」

「いいもなんの。俺から誘っているだけだ。まあ、初対面だし警戒するなら帰って貰ってもいいが」

「じゃ、じゃあお話したいな」

「よし、先に家に上がっててくれ。ゴミ出し行ったら戻る」


 先に家に上がらせてから俺はゴミを出しに行った。


 人を待たせていることもあるし、少し小走りで往復した。


「すまない。待たせたな……電源の所がどうかしたか?」


 部屋に戻ると城井がコンセントの所に手を当てていた。


「な、なんでもないよ」

「そうか。まあ、座れよ」

「あ、ありがとう」


 あったかいお茶でも出そうかと移動した所で城井に服の袖を掴まれた。


「あ、あの。私とパーティーを組みませんか?」

「いいぜ。俺も後で言おうとしていた」


 元々、城井がどこかのパーティーからスカウトを受けていない場合は俺と組んでもらう予定だった。

 まさか、あっちから先手を打ってくるとは思わなかったが、嬉しい誤算だ。


「えっ? いいの? 私、攻撃的な魔法使えないよ?」

「そんなの使いようだろ。川谷さんはたった一つの魔法を極めてあの強さだ。城井の魔法だって十分化ける可能性がある」


 少なくとも、現段階では俺の強化に使うことができる。そこから先どう化けるかは俺には分からないが使い道はあるはずだ。


「あり、がとう」

「お茶を用意するから少し待っててくれ」


 お茶をコップに入れて電子レンジで温める。これが一番手っ取り早い。


 ダンジョンの時でも思ったが、城井は自分の魔法にあまり自信がないらしい。


 確かに一般的に冒険者として魔法使いは高火力の攻撃魔法をバンバン使って魔物の体力を削ることを求められる。

 直接的な攻撃力のない城井の魔法は役立たず扱いを受けるのはまあ納得できる。


 だが、そんな自意識だと学年トップの座は取れない。

 少しでも自信を持たせる必要がある。そのためには真価を知っている俺が積極的に肯定をしてやらないとな。


 少なくとも城井の言動を否定してはいけない。


 そう心に決めてから城井の前にお茶を置いた。


「まあ、これから俺たちは仲間となった訳だが。パーティーの指針とかはいいとして、まずはなんで冒険者なんて目指そうとしているか話しておこうか」

「中津先輩に憧れて……だよね?」

「もう知っているのか。なら俺の話はいいか。城井はなんで冒険者になろうとしたんだ?」


 城井の魔法は普通に考えると冒険者向きではない。なのにダンジョンに行く理由を俺は知りたかった。


 城井はスマホを机の上に置いた。


「私、光莉さんに憧れてて」


 画面には『白の珈琲』のSNSが表示されていた。

 《純白の大盾》の光莉さんが管理をしているアカウントだ。


「中学生の時に交友関係が上手くいかなかった時に光莉さんの無気力な口調の明るい投稿を見て励まされて。私も悩んでいる人たちを照らせる人になりたいと思って……」


 やはり、根は俺と似ていて先輩への憧れが冒険者を目指すきっかけになっている。


「でも、私なんかが……」

「できる」


 ネット上の見知らぬ奴らに元気を与えたい。全くもって意味不明な目標だ。だが、光莉さんみたいになりたいという目標はよく分かる。


「俺が佐月先輩みたいに強くなって、お前は世界を照らす。俺たちならできる」

「えっ! えぇ!?」

「今まで馬鹿にしてきた連中を見返してやろうぜ」


 最高じゃないか。


 俺は佐月先輩に憧れている。勿論、あの人が作った『白の珈琲』にも憧れがある。

 SNSの活用によって知名度を得るのも先輩たちの模倣みたいでいいじゃないか。


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