33話 家族
美祢と別れた後、魔石を教師に提出した。
「五等級特異か。嘉納が言っていた通りの化け物っぷりだな」
「『白の珈琲』の先輩たちに才能を見出して貰ったお陰です」
「そうか。強力な異能も魔法もないのに頭角を表せる奴らは後にもあいつらだけだと思っていたが、お前みたいな例外もいるんだな」
五等級特異のダンジョンは一等級のダンジョンとほぼ同等かそれ以上のレベルと言われている。
今、俺たちは五等級のパーティーだ。
本来なら五等級のダンジョンをいくつか攻略しないと等級が上がることはないが、変異したダンジョンや特異したダンジョンは評価が変わる。
特に特異のダンジョンを攻略した場合はかなりの評価になっているはずだ。
パーティーの等級が上がるのも時間の問題だな。
「嘉納の奴はお前たちの等級をすぐ上げたらしいな」
「ええ。そのお陰で東京遠征も意味があるものになりました」
本来、等級を上げるには月に一度開かれる職員会議で実績を審査されないといけない。
七等級までは一気に上がることは出来るが、それ以上は一つ上げるのに一か月かかる。
だから、五等級に上がる為には最低でも三か月必要になっていた。そこを、先輩たちの口添えによってすぐに上げて貰うことができた。
「五等級特異を攻略できたのなら、強さは一等級クラスって訳だ。私は才能のある奴らが好きだ。特別に特級以外のダンジョンに入ることを許可する。私が責任を取る」
「それは流石に……」
「なんだ? 断るのか?」
「いえ。受けます」
これはかなりいい感じだ。
予想打にしていなかったが、ここで入れるダンジョンの制限がなくなるのは喜ばしい。
二等級以上のダンジョンは長いから行きたくはないが、三等級なら一度先輩たちと入ったことがある。あの長さならば《憤怒開放》も維持できる。
「では、失礼します」
職員室を出ると城井が待っていた。
「城井。先生が、東京遠征中は等級を気にせずに攻略をしてもいいって言っていた。明日は行けるか?」
「うん。私は全然いけるよ。あれ? 久木くん。服どうしたの?」
「ちょっと友達に貸している。別に上着がなくとも問題はないだろう?」
「そ、そうだね。もしかして、その友達って生徒会長さん?」
「ああ。そうだが」
俺の服は美祢に貸している。
制服がなくともダンジョンには入れる。
明日からの行動に支障が出ることはないはずだ。
「あんまり、女の子に服とか渡さない方がいいよ。その。むこうが勘違いしちゃうから」
「勘違い?」
「あっ。久木くんは全然悪くないからね。ごめん。さっきの言葉は忘れて」
まあ、確かに異性に服を掛けるとか、相手によってはセクハラみたいな感じになる。
美祢は気にしていなかった様に見えたが、今後は注意しないとな。
「それでね。話は変わるけど、今日の宿は私の実家が使えるからそっちでいいかな?」
「それは構わないが」
この時の俺は特に気にしてはいなかった。
城井の実家がどんな所かを……
――――――
高層ビルの上層階に城井の家はあった。
いや、まあ。なんだろう。
城井の実家って相当金持ちなんだな。
ビルの玄関で指紋とパスワードによるロック。そして、エスカレーターで網膜認証。
何これ。今から秘密の研究所とかに行くんじゃないかと言わんばかりの多重で強固なセキュリティに唖然とするしかなかった。
「こんな場所は緊張する」
「ふふ。久木くんでも緊張することがあるんだね」
城井は笑いながら最後にある金庫みたいな扉のロックを解除した。
「おかえり由香里ちゃん。その子が久木くん? いらっしゃい」
「ただいま」
「お邪魔します」
城井に大人の余裕みたいなものを足したような女性が出迎えてくれた。
言動からしても、母親だな。
一応、礼儀はしっかりしていた方がいい。
「今日はお世話になります。由香里さんとパーティーを組ませてもらっている。久木と申します」
「娘が世話になっております。さっ。堅苦しいのはここまで。一緒にご飯食べましょ」
住んでいる場所が場所だから身構えてしまったが、かなり優しそうな人だ。
家を歩いていると、所々に高級そうな芸術品が飾られていて、あの普通そうな花瓶もうん百万円しそうだ。
場所もそうだが、内装でもお金持ち感が溢れ出ている。
リビングらしき場所に着くと、貫禄が溢れ出ているいかにもな男の人が座っていた。
「由香里。帰ったか。君が久木くんだな。まあ、座り給え」
「お父さん。そのキャラはなに?」
「いや、これはだな。父親としての威厳を見せて威圧しているだけだ」
城井が呆れたような表情で父親を見ていた。
いつもはあんな感じじゃないんだろう。
「やめてよ。恥ずかしいよ」
「『娘はやらん!』ってだけでも言わせてくれ。頼む」
「ダメ。久木くんが困るでしょ」
さっきまで出ていた貫禄というか威圧が急激に萎んだ。
これも場を和ませるためのやり方なのかもしれない。俺も会話に参加して緊張がほぐれていることを示さねば。
「そういう関係じゃないですよ」
一瞬の静寂があった。
なんでだ? まだちょっと軽口過ぎたか? 一応、敬語は使ったんだがな。
「……そ、そうだね。あっ。私、お母さんの手伝いしてくるね。久木くんはここに座っててね」
「あ、ああ」
城井の目に光がなかったような感じがしたが、照明の関係か?
まあいい。俺は城井が指定してくれた席に座った。
流石に初対面の親と二人きりは気まずいな。
「少し、男の話をしないか?」
「ん? ああ。いいですよ」
「由香里とはどういう関係なんだ?」
「大切な仲間です」
城井は大切な仲間だ。
「いや。それはそれでありがたいのだが、君は由香里と付き合っているじゃないのか?」
「付き合う? それはどういう事ですか?」
「そ、そうなのか。所でうちの娘が会社の取りということは知っているのかい?」
会社を継ぐ? なんの事だ?
「駒威財閥の中枢を担うコグラフィ社のトップになる。との事なのだが、その反応だと本当に知らないみたいだな?」
駒威財閥は知っているが、そのコグラフィ社というのが分からない。
いや、どっかで聞いた事あるような社名なんだが……
「もしかして、あの警備会社の所ですか? CMとかよく出している」
「そう。その会社だ」
なるほど、あの警備会社か。よくCMとかで目にするから薄っすらと覚えていた。
「つまり、由香里と結婚すれば、婿に来て貰うが安定した生活が約束される。逆玉の輿と言った所だ。どうだ。かなりいい条件だろう」
「いや、俺は城井をそんな目で見てないです」
「これは何も君を試そうだなんてことじゃなくてな。一人の父親からの久木くんへのアプローチなんだ。頼む! 娘を貰ってやって――」
「おとーさん。久木くんが迷惑しているでしょ?」
城井が料理を持ってきた。
「もー。久木くん。お父さんがごめんね」
「いや。そんなことはない」
「誰にでも優しいんだね。一緒にご飯を食べようね」
城井の家の料理はやはりどれも美味しかった。
――――――
食事が終わり、客室に案内された。
『この部屋は爆弾の雨が降っても安全な所だから、いくら声を出しても外に漏れないわ』
城井のお母さんがそう言ってた場所だ。
中はまるで高級ホテルみたいだった。
高級ホテルなんて行ったことないからあくまでみたいだったとしか言いようがないが……
窓がないことを除けばかなりいい部屋だ。
「風呂もあるし、部屋着まで用意してくれているとはな」
まず風呂に入ってから、汗を流す。
今日はかなり疲れた。
五等級特異ダンジョンを一つ攻略しただけだが、長い間新幹線に揺られたし、移動するだけでも疲れていた。
キョムという不安要素もあるし、しっかり休息を取って明日に疲れを残さないようにしないとな。
風呂から出ると城井がポットを持って待っていた。
「あっ。久木くん。紅茶を作って――ご、ごめん」
あ。まだ服を着ていなかった。
「すまない」
すぐに服を着て、部屋に戻った。
「ううん。私のタイミングが悪かっただけだから。えっと。疲れに効く紅茶があるから飲んで欲しくて」
「ああ。助かる」
ポットからカップに紅茶を淹れてくれた。
「城井は飲まないのか?」
カップは二つあるのに片方にだけ淹れていた。
「わ、私も飲むよ! 怪しいものとか全然入ってないからね」
ちょっと挙動不審だったが、まあいいか。
城井から差し出された紅茶を飲んだ。
味の良し悪しは分からないが、かなり高級な物そうというのは感覚で分かる。
「おいし――」
あれ、可笑しい。意識が――




