31話 特異ダンジョン3
後、一撃で勝負が決まる。
ブラックオーガは口からビームを放つ以外の行動を放棄している。
こっからは対魔物用の戦い方が重要だ。
対人特化の佐月先輩みたいな戦い方では勝てない。
先読みは不可能。目視での回避も当然無理だし、狙われたら確実に死ぬ。
相手は音を利用して俺の場所を特定している。
付け入る隙があるとしたらそこぐらいか……
魔物の再生能力は人間のそれとは逸しており、おそらく数分で目を治してくるだろう。
モタモタはしていられないな。
まずは近づく必要がある。
(松枝先輩の隠密行動を使って接近するか)
作戦をすぐに実行に移す。
一歩目をフェイントとして、無音で逆方向から走っていった。
オーガは足音のした方に向かって顔を向けてビームを放った。
よし、作戦通りだ。
オーガの背に立った。
確実に殺す為にもう一発ビームを撃たせた方がいいな。
制服のボタンを引きちぎって、投げた。
ボタンに反応してビームが放たれる瞬間にオーガの体に触れていく。
混沌の黒に力がチャージされた。
「チャージ千。斬撃。処刑術。居合」
オーガの首に残っていた傷口に向かって高速の手刀を放った。
俺の手は寸分違わず傷口を抉った。
(首を切断……はしてないか)
文字通り首の皮一枚残っている。
オーガは自らの顔を持ち上げてこちらに向けて来た。
このままだと相打ちか。
後ろに仲間がいるし、別に相打ちになってもダンジョンを攻略できる。
それに、俺たち未成年は生き返るしな。
――って今までの俺なら考えていただろうな。
「拒絶の大盾!」
突き上げるようにして掌底を叩きこんだ。
最短経路を辿った打撃はビームを発射する寸前だったオーガの首を上空に跳ね飛ばした。
体と首が完全に分離したオーガは活動を停止し、消えて行った。
ダンジョンマスターを倒した事によって部屋の真ん中に野球ボールよりも少し大きいぐらいの魔石が台座と共に出て来た。
「よし、これで攻略完了だ」
パチパチ。
俺しかいないはずの部屋で拍手の音が響いた。
「誰だ?」
城井は俺の指示があるまで安全な階段で待機しているはずだし、他の冒険者か?
さっき、帝東高校であんな事件があった後だ、新魔教団の奴らの可能性も考慮して動かなければいけない。
念のため、警戒しておく。
拍手の主が姿を現した。
「お、お前は……」
「先ほどの戦闘を拝見しておりました」
「キョム。お前、仲間に何かしたか!?」
仮面をつけた女が出て来た。
新魔教団の大幹部がなんでこんな所にいるんだ!?
階段を通らないとここには来れない。
つまり、こいつは城井に出会ったという事になる。
「お心配せずとも、手出しはしていません」
今、こいつとやり合って勝てるか?
……無理だな。
仮に善戦できても、城井を人質に取られたら何もできなくなってしまう。
「これが目的だろ? さっさと帰れ」
魔石を転がして渡そうとした。
「私は予告した事以外の事はしません。お返しします」
サッカーボールでも扱うみたいにリフティングをした後にパスするみたいに返して来た。
「お前の目的は何なんだ?」
新魔教団の奴らは基本的に魔石を強奪することを仕事にしている連中だ。
宗教的な組織らしいが、魔石を持っていない冒険者を狙うことは今までしていなかったはずだ。
『白の珈琲』の場合は例外として、大幹部なんて名前だけでも偉そうな役職にいる人間が俺たちを付け狙うんだ?
それが分かれば、俺たちも必要以上に怯える必要がなくなるかもしれない。
「私が他人を襲う理由はないです。目的なぞありもしません。しかし、あなたは例外です」
「例外?」
「あなたの力は激情によって得ていると推測します。しかし、感情の変化のみで異常な肉体変化が発生するにも関わらず、《異能》と診断されていない。そうですよね」
「あ、ああ」
俺はイライラすることによって力を得ている。
そして、物理的にありえない力を得ているはずなのに、異能と言われたことがない。
そもそも、異能は先天性のものだ。生まれた時に《鑑定》の異能によって判別され、戸籍と共に登録される。
一応、下徳高校に入るときもチェックされたが、俺は異能なしと診断された。
つまり、俺のイライラによる力の増幅は異能ではないのだ。
「私は真逆で沈着するほど力を得られるという代物でした。そして、私の力も異能ではありません。なにか因果を感じませんか?」
激情と沈着。条件は真逆だが、得られるものは同じ。
異能と判定されないのも共通点だ。
そんな前例は見たことも聞いたこともない。
「以上の理由であなたを襲います。互いに万全な状態で戦えることを祈っています」
ちょっと強引だが、言いたいことは分かる気がする。
だが、こいつは美祢を襲った奴だ。共感はしたくない。
少し揺さぶってみるか。
「どうせなら、何か賭けないか? 俺が勝ったら美祢。《隻腕の氷結姫》に謝罪しろ」
「承諾しましょう」
最低限、これだけでもさせれれば俺の溜飲は下がる。
新魔教団の人間として何人襲って来たか分からないが俺が知らない余罪の追及はどうでもいい。
というか、そのぐらい条件を低く設定しないと何もせずに逃げる可能性が出てくる。
謝罪ぐらいならば、潔く受け入れるはずだ。
「それで、お前の要求はなんだ?」
「……私。ですか?」
「互いに賭けないと平等じゃないだろ」
キョムが俺と戦う理由は単純に「似た能力を持っている相手だったから」だ。
だが、それ以外のメリットがなければ約束を破っていきなり襲ってくるかもしれない。
あくまで決闘の形に持っていく。
そうすれば、三日間常に警戒しないといけない事態は避けられる。
流石に三日も緊張し続けるのは俺でも無理だ。警戒は体力を使う。
ダンジョン攻略に支障が出れば東京遠征に来た意味がなくなる。
これは最悪を避ける為の保険だ。キョムが約束を守る人間かは分からないが、あるだけで俺の精神的な安定になる。
「では、あなたを一週間ほど監禁する権利というのはいかかでしょうか?」
「俺をか? ならいい」
「それでは、三日後にあなたのいる場所に現れます」
そう言い残してからキョムは帰って行った。
俺だけが犠牲になるなら、最悪負けても何とかなるな。
階段に戻ると言っていた通り、城井と子供は無事だった。
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