28話 帝東西高校
「人が多いな。流石は首都だ」
新幹線で大体四時間。かなり長旅だった。
初めての東京だ。
テレビとかで人が多いのは知っていたが、実物はやはり違うな。
「まずは帝東西高校に行こうね」
「そうだな。えっと、道は……」
東京の道は複雑で、スマホで調べてもよく分からない。
「大丈夫。全部分かるよ」
そう言ってから、城井は迷うことなく進んでいった。
「よくこんな道分かるな」
「一応。実家が東京だから。この辺りは何回か来た事があるの」
「出身地がここなのか?」
「うん。そうだよ」
東京からわざわざ、下徳高校まで来たのか。
冒険科も魔法科も基本的には帝東の方が環境としては優れている。わざわざ、ド田舎の下徳に行く意味はあまりない。
ただ、ここ二年に限っては違うか。
『白の珈琲』の先輩たちの活躍に憧れて下徳に入った人間は少なくはない。
例年、九倍は超えない下徳高校冒険科の倍率だが、去年の倍率はなんと百を超えた。
日本の中学生の多くが憧れを抱いて下徳高校の受験を狙っていた。
まあ、大体の奴らが入試でふるい落とされたが、それは今気にすることではない。
「ここだね」
「綺麗な校舎だな」
帝東高校はめっちゃ綺麗でなんかこう最近建てたみたいなデザインをしている場所だった。
「まずは、職員室で教師に挨拶だな。城井はどうする? ついて来なくてもいいが」
「帝東の中にも一度入ったことがあるから、場所分かるよ」
「おお。それは助かる」
なんでも知っているな。これなら、余計な場所をぐるぐる回る心配はない。
「あの」
校門から入ろうとしたら、女に声を掛けられた。
制服からして高校生なのは分かるが、美祢とは違う制服だ。違う学校の奴か?
「すいません。帝東高校の生徒さんですか?」
「いや、違うぞ」
「あっ。そうですか。私は岩先第一の久米と言います。東京遠征に来ました。もしかして、下徳の生徒さんですか? もし、よろしければ、一緒に職員室まで行きませんか? 私。道を知らないので」
別にいいか。俺たちが損をすることもないし。
「いいぜ。俺は久木だ」
「ありがとうございます。米と木で漢字が同じなのに読み方が違うものなんですね」
確かに久米と久木は漢字はかなり似ているのに読み方は全然違う。
「い、行こ。久木くん」
城井が俺の腕を引っ張った。
「そうだな。この後もやることがあるしな」
俺たちは入り組んだ校舎を進み、職員室に着いた。
「私は少し別の場所にも用がありまして。それでは」
久米がどっかに行った。
「あの子。怖かった」
「どういうことだ? 変な所はなかったが」
「説明しにくいけど、感情がないみたいで。その」
「もう会うことはないだろうし、気にすることはないだろ」
「そ、そうだね」
他人の悪口なんて言っても何もいいことないし、さっさと切り替えて、職員室に入った。
「久木だな。嘉納の奴から話は聞いている。魔石の提出は私にして貰って構わない」
「ありがとうございます」
帝東高校の先生は強そうな女性の人だった。
面倒な手続きはなく、俺たちはすぐに職員室を出た。
「あっ。次は生徒会室に行きたいんだが、場所分かるか?」
「なんでかな? 別に生徒会長に挨拶をする必要はないよね」
「いや、友達だから一応挨拶ぐらいはしとこうと思ってな」
美祢は一年生ながらも生徒会長をしている奴だ。
かなり真面目な性格で、例えるなら軍用犬みたいなしっかりした感じだ。
「えっと、今の生徒会長って。鉄血の生徒会長って有名な……女の子だったよね」
「鉄血? その辺はよく分からないが《隻腕の氷結姫》なんて二つ名を持っていたな」
鉄血の生徒会長って言われるとなんか、恐怖政治でもやっていそうないい方だな。
ただ、あくまで俺のイメージの話で、昔、海外で鉄血の何とかと言われた政治家がいたなという程度の認識だ。
「じゃあ、私は生徒会室の場所は知らないし。今は授業中だから多分、いないと思うよ」
「そうか。それなら仕方がないな。挨拶はまた後日に――」
――パリンッ
上層の階からガラスが割れた音が聞こえた。
なんだと一瞬思ったが、冷気を感じた。まさか……
「城井! 第三開放だ!」
「うん! 《憤怒第三開放》」
俺は窓を蹴り破って外に出た。
そして、落ちて来たものを優しくキャッチした。
落ちて来たのはこの帝東高校の生徒会長の氷藤美祢だった。
「……和希か。なぜ。こんなところに?」
「そんな事より。何があ――」
「隻腕の氷結姫は、この程度ですか」
俺のすぐ近くに仮面をつけた女が立っていた。
こいつ。かなり強いな。
気配を察知できなかった。
「誰だ。お前」
「新魔教団。大幹部《虚無》のキョム」
拳が飛んでくる!
先読みで察知し、手でガードをした。
お、重い。
《憤怒第三開放》状態でも、ここまで響く打撃をあの体から放ってきたのか。
「先読みですか」
「今すぐ撤退するなら見逃してやる」
なるべく、ターゲットが俺になるように挑発する。
美祢が狙われなくなれば、俺も戦うことができる。
こいつは今の状態でもおそらく互角。かなり強い。
「……引きます。三日後。あなたを襲います」
「そりゃどうも」
まさかここで潔く引くとは思いもしなかった。
「それでは久木さん。また、お会いしましょう」
なぜ、名乗ってもいないのに俺の名前を知っている?
まあ、今はそんな疑問を考える暇はない。
「美祢。大丈夫か? 病院に行くか?」
「大丈夫だ。ガード込みで一発貰っただけ……いっ」
どれほどガードしたかは知らないが、あいつの打撃はかなり重たかった。
強がってはいるが、万が一の場合もあるし病院に連れていった方がいいな。
「城井。ここから一番近い病院はどこだ?」
「まずは保健室の方がいいよ。あまり大事にしたくないと思う」
「頼む。そうしてくれ」
大事にしたくない? 何を言っているか分からない。
だって、美祢は怪我をしているんだぞ。病院に連れて行った方がいいに決まって……
なるほど、新魔教団に襲われたことを隠す為か。
納得はしたくないが、今、帝東まで騒ぎになれば冒険科の世間の目がより一層厳しいものになる。
「チッ。分かった。保健室は分かる」
職員室の途中にあった保健室に美祢を送った。
「すまない。この借りは必ず返す」
心配だが、あれだけ喋ることができていれば、後遺症が残ることはないだろう。
「今日はもう休もう。ね? 久木くん」
「そうだな」
大幹部《虚無》のキョムか。
あいつはこの前戦ったおっさんとは格が違った。
《憤怒第三開放》の俺と力が互角な人間なんて、《白の珈琲》の先輩たちだけだ。
美祢をあんな目に合わせたことも許せない。
三日後に俺を襲うと言ってた。絶対に仇は取ってやる。




